1089.鍛錬篇:制限時間を設けて短編を書く
今回は「制限時間」についてです。
時間が有り余っているから小説を書く。
よくある動機です。
しかし有り余る時間が緊張感をなくし、結局書かないで終わります。
制限時間を設けて短編を書く
短編小説の定義は難しいのですが、だいたい二万字以下とされています。
今回は短編小説を「制限時間付き」で書いていただきたい。
二万字ともなるとかなり長い制限時間になってしまうので、五千字前後の短編小説に挑戦してみましょう。
小説を書くことに慣れていない方は、連載小説の一投稿ぶんである千五百字〜二千字前後でもかまいません。
設定した時間内に短編小説をひとつ書きあげる能力を身につけてください。
最初は丸一日かけて
「制限時間付き」で小説を執筆する際、最初は「丸一日」かけましょう。
ジャンルを決めて、主人公の設定を考えるという流れです。主人公はすべての短編で同じ人物でもかまいません。その場合は「短編連作」の形になります。
「短編連作」のよいところは、毎回主人公を設定する必要がない点です。
主人公を毎回考えると、かなりの時間を消費してしまいます。しかし同じ主人公であればその時間が丸々省けるのです。
その主人公に飽きてきたら、そこで主人公を取り替えれば済みます。
とりあえず主人公をひとり設定してください。
でも主人公ひとりしか出てこない小説というものはまずありません。「対になる存在」が必要です。ふたりだけでも味けないと思ったら脇役を登場させましょう。
最初は「丸一日」かけても短編小説を一本書けないかもしれません。それが「産みの苦しみ」です。ここで挫折する方が多いのですが、あきらめずに何日書けてもかまわないので、短編小説を一本書きあげましょう。
物語を創る
だから「丸一日」かけてでも短編小説を一本書いてください。
もし一週間かけて短編小説一本しか書けなかったら、次は六日で一本書けるように努力する。主人公の設定が使い回せるので、かかる時間は確実に短くなります。さらに五日、四日、三日と短くしていき、一日まで短縮できたら時間単位で書いていきましょう。
慣れてくると一時間程度で短編小説が書けるようになります。だからといって一日に二本も三本も短編小説を書く必要はありません。あくまでも一日一本です。余裕があるのなら、「小説賞・新人賞」へ応募する長編小説の設定に充ててください。
寝かせてから評価する
自作の短編小説はだいたい一週間程度寝かせてから評価をしてください。評価もしないで書き続けるだけではなりません。
評価すればどの点が至らなかったのか、どの点が過剰だったのかが見えてきます。
至らない点は書き増し、過剰な点は文を削り込んでいくのです。
そうやって評価していくと、自分の得意な面と不得手な面が如実にわかります。
人物描写はたくさん書いているのに、場面描写が少ない。会話文はたくさん書いてあるのに、地の文が少ない。細かな点まで目を向けているのに、肝心のどこになにがあるのかすら書いていない。
そういった傾向が見えてくるのです。
書いたらすぐに評価を始めても、長所・欠点は見えてきません。
小説業界でよく言われる「原稿を寝かせる」ことで、推敲をしやすくします。
しかし「制限時間付き」の短編小説トレーニングでは、推敲を行ないません。その代わり、新たな短編小説を書くときに欠点だったところを意識して矯正していくように書いてください。
「制限時間付き」にした理由は、「手を入れない」ためなのです。
上記したとおり、「手を入れなく」ても「評価」は行なってください。どこがよくて悪いのか。よかったところは伸ばして、悪かったところはただしていきましょう。そうすれば文章力は確実に向上します。
表現力、構成力、構想力を鍛える
文章力がついたら、表現力、構成力、構想力の順に鍛えていきます。
そもそも文章力とはなにか。「てにをは」の使い方、重ね言葉の回避、時制の誤りなどが適正かどうかを指します。
表現力は、あるものをどのように言い表すか。主に「比喩」で見て取れます。小説は「比喩」の使い方がとても重要です。「比喩」を使いこなせなければ小説とは呼べません。
ライトノベルの文体は「比喩」がとても少ない。物事を見たままに書くだけで、どうたとえてよいのかわかっていないのです。
しかし一段階上の書き手となるには「比喩」は避けて通れません。的確な「比喩」が使いこなせなければ「小説賞・新人賞」を獲るのは難しい。「比喩」で対象を具体的にかつ
「比喩」を使いこなして、選考さんに力量を正しく伝えられるようにしましょう。
私が文学小説をあまり好まないのは「比喩」が過剰だからです。物事には「適度」があります。文学小説の「比喩」は過剰で、ライトノベルの「比喩」は僅少だと感じているのです。となれば私は間にある
近頃の書き手は「比喩」を嫌う傾向にあるのかもしれません。人物の動作は詳しく書くのに、それがなにに似ているかが書かれていないのです。
おそらくスマートフォンが転機だと思います。
とてもスラスラと入力できない端末で小説を書く。
だからどうしても「比喩」を書いている余裕がない。
というあたりが正しい認識かもしれません。
本コラムをお読みの皆様には、ぜひ「比喩」を使いこなしていただきたい。それがその他大勢との明確な差となって結果に現れます。
「小説賞・新人賞」の大賞を授かった作品をよく読んでみてください。必ず卓越した「比喩」が用いられているのです。
率直に言えば「比喩」以外は誰もが同じように書けます。主人公の動作は誰が書いても同じです。主人公の思ったこと考えたこと感じたことも、誰もが同じように書けます。
しかし「比喩」のバリエーションは書き手の数だけ存在するのです。たとえばコップの水を飲む動作が何に似ているのか。象がバケツから鼻で吸い上げるように飲んでいるのか、猫がミルクを飲むように舌を出してペロペロと飲んでいるのか。たったそれだけのことでも書き手の数だけ表現できます。
書き手の腕前・
構成力はどのような展開にするかを指します。主人公にどんな
構想力はどんな主人公にしようかなとか、どんな「対になる存在」を出そうかなとか、どんな脇役にサポートさせようかなとか、どういう教訓の物語にしようかなとか。そんな「企画書」を作る能力を指します。
「企画書」「あらすじ」に場慣れしていただきたいので、面倒でも毎日「企画書」「あらすじ」を書いてから執筆を始めてください。短編小説の場合「箱書き」が執筆とほとんど変わらない分量になりますので、なくてもかまいません。長編小説を書くようになったら「箱書き」「プロット」までしっかりと決めておけばよいでしょう。
最後に
今回は「制限時間を設けて短編を書く」ことについて述べました。
制限時間は実際に文字を入力していく「表現力」の部分だけをカウントしてください。
構想力も構成力もPCに打ち込む前にいくらでも固めておけます。今日のぶんの執筆が終わったら、明日のお題を決めて眠るのです。翌日執筆するまでの間に「どんな構成や展開にしようかな」と手探りで固めていきましょう。
毎日制限時間内で短編が書けるようになれば、いつ連載を始めても途切れさせないでいられるはずです。
もし制限時間が余るようでしたら、どんどん制限時間を短くしていってください。
限界ギリギリまで自分を追い込むのも、締め切りに追われる「プロ」の疑似体験だと思いましょう。
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