1010.面白篇:小説における空間認識能力について1【回答】

 今回はご質問にお答え致しました。

 Macのマウスがいまいち調子が悪いですね。

 Magic Mouseにしろというところか。キーボードはMagic Keyboardに変更しているんだけど、マウスはつい買いそびれるんですよね。

 明日歯医者で、抜歯かどうか決まるから、抜歯にならなければマウスを買いに行きますか。

 以上、近況報告でした。

 渡航様、『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』最終第14巻を購入致しました。コラムの連載が終わったら読みたいと思います。いつまで連載することになるのか、私が知りたいくらいです。





小説における空間認識能力について1【回答】


 今回と次回はご質問にお答え致します。

 小説における距離感や位置関係をどう表現すればよいのでしょうか。

 今回は「方向性」についてです。

 どの方向に存在するのかをまず決めます。距離を確定するのは方向を確認してからですよね。




方向性を表現するには

 まずは方向性を見ていきます。

「前方」「前面」「正面」「真正面」「真ん前」「真向かい」「目の前」「眼前」が視点保有者の「前」を表現するのです。

 次に「後ろ」ですが、こちらは「後方」「背面」「後背こうはい」「後ろ」「真後ろ」で表現します。

 左右はそのまま「右」「右側」「右側面」、「左」「左側」「左側面」です。「真右」とは書きません。左右の区別をつけなければ「横」「真横」という表現が使えます。そこから「右横」「左横」という表現も生まれたのです。「となり」も「横」の代わりに使えます。「右隣」「左隣」はそれぞれ「右横」「左横」と同じ方向性です。

「横」と「となり」は方向性こそ同じでも距離感が異なります。「横」はその方向であれば距離をまったく考慮しなくてもよく、どんなに離れていても接していても「横」と書けるのです。それに対し「となり」は接しているつまり間になにもない距離感でなければ使えません。


 これで四方向が出揃いました。では斜めはどう表現すればよいのでしょうか。

「右前」と書けなくもないのですが、通常「右前みぎまえ」と言えば和服の着方を指す言葉です。そこで「右斜め前」のように「斜め」を入れるか、「右前方」「前方右」のように「方」を付けるかします。

 後ろのほうの斜めは「左後ろ」と書けなくもないのですが、これを許容してしまうと「右前」も許容しなけばならないため、通常は用いません。「左斜め後ろ」「左後方」「後方左」のように前方と対になる表現方法が的確でしょう。また軍隊では「左側背」という表現もあります。


 斜めの方向を正確に表現する方法として、軍隊では「時計の短針の方向」を用います。

 正面は「零時」または「十二時」、背面は「六時」、右側面は「三時」、左側面は「九時」です。ですので「右斜め四十五度」は「一時半」の方向になります。

 この方法はとても便利なのですが、「異世界ファンタジー」では使いづらい。なぜなら「異世界も二十四時間制なのか」というそもそも論があるからです。

 田中芳樹氏『銀河英雄伝説』のように、地球人が銀河へ広がった世界であれば、「○時の方向」で通じます。しかし「一日が何時間か」わからない「異世界」で「○時の方向」は明らかに矛盾するのです。

 日本では時間を十二支で表現していました。今でも用いる「草木も眠る丑三つ時」という言葉。子の刻は二十三時から一時までの二時間を指し、丑の刻は一時から三時までの二時間を指します。「三つ時」とは二時間を四分割したうちの三番目の時間です。つまり「丑三つ時」とは「二時から二時半」を意味します。今も用いる「おやつ」という言葉も、本来は「お八つ」と書き、「昼八つ時」に食べる間食を意味していました。

 そして実は方角を表すときにも十二支を用いていたのです。子を北とし、卯を東、午が南、酉が西です。丑(一時の方向)と寅(二時の方向)の中間にある「丑寅(一時半の方向)」つまり「北東」のことを古代中国の陰陽五行で「鬼門」と呼んでいました。

 方向を「○時の方向」と表現したのは時刻が午前午後それぞれ十二時間つまり「二十四時間制」になってからです。しかし日本では時を告げる文字で方角を表してもいました。

 日本人の遺伝子には時間と方角がリンクされており、「○時の方向」という表現はとてもしっくりくるのです。

 そこで「二十四時間制」の「異世界」にしてしまえば、表現もかなりの楽ができます。


 では方向はこれだけで足りているでしょうか。まだ語られていない方向があるのです。左右がX軸、前後がY軸とするなら、Z軸があります。つまり上下の方向です。

「上」は「上方」「真上」「上面」、「下」は「下方」「真下」「下面」と表現します。実は上下方向はこれ以外の明確な表現が存在しないのです。

「上からなにかが降ってきた。」「水筒を下へ落とした。」とは書けます。ほとんどが真上か真下の方向しか示せないのです。

 そこで「斜め上」のように「斜め」を入れて少し角度をつけられます。しかし細かな角度までは説明できないのです。「七時の角度で落ちてきた」とは言いませんよね。それこそ「斜め四十五度から吹きつける暴風」のように明確な角度を書いて表現するしかないのです。


「前後左右上下」この六方向を意識して方向性を書くクセを身につけてください。




「いく」と「くる」

 補助動詞に「いく」「くる」があります。

 たとえば「走る」という動詞には方向性がありません。

 これを「走っていく」「走ってくる」と書けば、方向性が示されます。

「走っていく」はこちらから離れる動作になりますし、「走ってくる」と書けばこちらへ向かう動作になるのです。

「連れていく」と「連れてくる」の場合、「連れていく」は一緒にそちらに赴く動作、「連れてくる」は一緒にこちらへ向かう動作になります。

 では「連れていかれる」と「連れてこられる」はどうでしょうか。

 これは受け身の形になっています。だから方向性があやふやになりやすいのです。

「警察署へ連れていかれる」と「警察署に連れてこられる」は「誰かに連れられて向かう」動作自体はまったく同じ。でも語り手の立ち位置が異なります。

「警察署へ連れていかれる」の視点は警察署でないところにある。「警察署に連れてこられる」の視点は警察署内にあるのです。

 警察官に伴われて「警察署へ連れていかれた」人物は到着して「警察署に連れてこられた」という関係が成り立ちます。

「警察署に連れていかれて困ったよ」は警察署を出てから言えるのです。もしまだ警察署内にいるのであれば「警察署に連れてこられて困ったよ」と書きます。

「いく」「くる」はとくに間違いやすい。

 取り違いの些細なミスは、文章を読んでいると違和感につながりやすいのです。





最後に

 今回は「小説における空間認識能力について1【回答】」を述べました。

 文字だけで存在を表せないと小説は機能しません。

 あなたは文字だけで存在させられていますか。

「空間認識能力」でまず必要なのは「方向感覚」です。どの方向になにがあるのかを書けなければ、正確な位置関係は伝えられません。

 ほとんどの言語で「上下の方向は表現が少ない」という特徴があります。

 だから意識して「上下方向」の位置関係を示すようにしてください。

 なお本日2019年11月19日に、ライトノベルの金字塔である渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の最終第14巻が発売されました。私はMac使いなので「ブックストア」から購入致しました。どのような結末が待ち受けているのか、期待しながら本コラムを執筆したいと思います。(読まないのかよ! というツッコミ待ちです)。



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