992.筆洗篇:人は出来事を経て変化する【回答】

 今回もご質問にお答え致します。

「主人公の言葉遣いや態度や身だしなみなどが変わっていってもよいのかどうか」ということについてです。

 私なりの答えを書きました。皆様はどのようにお考えになりますか。





人は出来事を経て変化する【回答】


 今回もご質問の回答です。

 小説の主人公には一貫性が求められる。

 そう思い込んでいる方はいらっしゃいませんか。

 しかし現実の人間は、出来事イベントを通じてさまざなものが変化します。

 考え方、感じ方、捉え方、思惑や目標などが変わって当たり前なのです。

 そういう観点から、主人公の成長を見ていきましょう。




一人称が変わってもよい

 物語の冒頭で「僕」と名乗っていた主人公が、ある出来事イベントを経験してやさぐれ、「俺」と名乗るようになるというのは現実でもよくあることです。

 またTPOによりさほど親しくない人たちに対しては「私」、組織の仲間に対しては「自分」、歳をとって「わし」と名乗る方もいますよね。

 そうなのです。どんな状況でも最初に出てきた一人称「僕」を変えてもよいのです。

 出来事イベントを経ると心には必ず変化が訪れます。

 一人称が変わるのも当然ありうる話です。

 ただ、一度「僕」から「俺」に切り替わった人物が、なぜかある場面シーンで「僕」と書いてしまうこともあります。これは駄目です。

「僕」から「俺」に変わった人物が、なぜか「僕」と発言してしまえばその時点で物語が破綻してしまいます。

 唯一許される事情としては「移行期」でしょうか。

 心境が変化して「僕」から「俺」へと一人称が切り替わる。とは言ってもいきなりスイッチが切り替わることはあまりなく、とうぶんの間「僕」と「俺」を行ったり来たりするのです。この「移行期」の揺れる心境を丁寧に書きたいのなら、基本的に「俺」と言っていても弱気になると「僕」が出てきてしまうのは、じゅうぶんにありえます。

「移行期」をどのように丁寧に書くかで、一人称の扱いは変わってくるのです。

「移行期」を過ぎて「俺」が馴染んだ人物に「僕」と言わせてはなりません。「僕」と言うべき理由がないからです。




口調が変わってもよい

 一人称が変わるのは一般的によく見られます。

 では口調が変わることはあるのでしょうか。

 じゅうぶんありえます。とくに一人称が切り替わるタイミングで口調も変わってくるものです。

「僕はこれがいいけど」と言っていた人物が、出来事イベントを経ることで「俺がそう決めたんだからいいじゃん」と砕けた口調になってかまいません。

 ただ一気にここまで砕けることはあまりなく、通常はまず「俺はこれがいいけど」と一人称だけが変わります。そのあとで「俺はこう思ったけど」となり「俺がそう決めたんだけど」「俺がそう決めたんだからいいでしょう」を経て「俺がそう決めたんだからいいじゃん」と変遷するのです。

 一人称とともに「移行期」の過程を詳しく書く場合。丁寧に書いてください。

「移行期」の描写が雑になると、読み手へ違和感を与えてしまいます。

 小説投稿サイトで「違和感」は最大の敵です。読み手は「違和感」を抱いたら他の作品へ読み替えます。そして二度と帰ってきません。

 口調は一人称以上に「移行期」で移り変わるものです。その「移行期」をバッサリと切り捨てた場合は、主人公の性格がまるっきり変わってしまったように感じられるでしょう。

 だから小説投稿サイトでの連載なら、「移行期」は丁寧に書き分けたほうが有利です。




身だしなみが変わってもよい

 ではファッションや髪型や見た目つまり身だしなみが変わったらどうでしょうか。

 青色が好きだった人物が赤色の服を着るようになるような場合です。なにがしかの原因が欲しい。現実でも好きな色が変わるのは当たり前にありますが、それにはなにがしかの原因があったはずです。たとえば占い師に「あなたのラッキーカラーは赤色です。赤色の服を着れば順風満帆な人生を歩めますよ」と言われて意識が変わります。

 それまで髭を生やしていなかった人物が、いきなり髭もじゃで登場したらどう思いますか。私はサッカーのアルゼンチン代表リオネル・メッシ氏を見てとても驚きました。それまで無精髭すら生やしていなかったのに、突然豊かな髭を蓄えていたのです。メッシ氏になんらかの心境の変化があったのでしょうが、それを知らない私は「どうしちゃったんだろう」と心配になりました。

 身だしなみはその人自身が他人からどう見られるかを意識して決めるものです。

 つまり「誰からどう見られたいか」で決まります。一種の「アイコン」です。

 誰もが「他人からどう見られたいか」で身だしなみを決めています。

 恋愛小説なら人物は「意中の異性に好かれるだろうと思われる身だしなみ」を意識するでしょう。きちんとした人が好みなら、背広をビシッと着こなす努力をするはずです。自由な人が好みなら、ジャージにサンダル姿に無精髭を生やしていても許してくれるでしょう。

 人は多かれ少なかれ「他人からどう見られたいか」で身だしなみを決めています。

 これは身だしなみだけでなく、一人称や口調にも言えることです。

 であれば、とくに誰の好印象を勝ち取りたいのかを明確にしましょう。そのうえで身だしなみを決めれば、「どんな人に見られたいのか」が透けて見えるようになります。




心境の変化を丁寧に書けばよい

 一人称が変わろうとも口調が変わろうとも身だしなみが変わろうとも。小説なら「心境の変化」について書かないわけにはいきません。

「心境の変化」を推測できるなにかがわずかでも書いてあれば、読み手はある程度納得できるのです。

 たとえば「意中の異性の好みがこうだから、それに合わせよう」という「心境の変化」を丁寧に書きましょう。

「心境の変化」を省くと、読み手は「なぜ変化したのだろう」と疑問に持ちます。すると余計な詮索をし始めます。それだけならまだましです。現実には「なぜ変わったんだよ」と憤って読むのをやめ、他の作品を読みに行ってしまいます。そして二度と戻ってはきません。

 小説とは人物の出来事イベントによって引き起こされる「心境の変化」を伝える芸術です。ドラマや映画、マンガやアニメではなかなか「心境の変化」に言及できません。

 しかし文字だけで読ませる小説なら、言葉にして伝えられるのです。

 小説の優位はまさに「映像では伝わらないものを、直接言葉にして伝えられる」点にあります。

「誰に心が惹かれているのか」は映像だけでは伝わりづらい。しかし小説で「心が惹かれる誰か」の描写を増やすことで、「主人公はこの人を気にしているのか」と明確に伝わります。

 ただし、伝えたいことを直接書くのは野暮です。

 あくまでも「描写の量」をコントロールして、気になるものの描写を増やし、あまり興味のないものの描写を減らせばよい。

 ライトノベルなら、人間関係が主ですから人物描写・心理描写は増やすべきです。反面状況シチュエーションは最小限に抑えなければなりません。「どこで起こった」かはそれほど重視されないのです。「なにが起こった」か「どうして起こった」かを書きましょう。それができるのは文字で物語を伝える小説だけです。





最後に

 今回は「人は出来事を経て変化する【回答】」について述べました。

 人は出来事イベントを経て心境が変化します。

 それを端的に表現するには、一人称を変える、口調を変える、身だしなみを変えるといった点に留意してください。これらで心境を読み手に伝えられれば、小説の表現として合格点が出せます。



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