888.惹起篇:天候・地理・人物・動物・植物

 今回は「場面に書き込まれるべき情報」についてです。

「天候・地理・人物・動物・植物」のチェックを行なうことで情報の不足はないか確認しましょう。





天候・地理・人物・動物・植物


 長編小説を書いているとき、「どうも物語が薄っぺらいな」と感じたら、どう解決すればよいのでしょうか。

場面シーン」に書き込まれていない情報があるのかもしれません。




天候

 天候や気候は最も描写しなければならない情報です。

 暖かい昼下がりなのか、極寒の丑三つ時なのか。それだけで「場面シーン」が繰り広げられる物語の性質が変わります。

 天候や気候は心理描写として使いたい方がいらっしゃる。

 ですが心理描写としてのみ天候や気候を書いていては、そこだけ妙に浮くのです。

 すべての「場面シーン」で書いてあるからこそ、心理描写が生きます。

 日本には春夏秋冬の四季があり、朝や昼や夕方や夜や夜更けや未明などの時間がある。

 時間により光の強さや風の印象、音や匂いなども変わってくるはずです。

 たとえば夜の歓楽街ではラーメン屋の匂いが漂ってくるでしょうし、ビールに焼酎にワインにシャンパンなどアルコールの匂いであふれているでしょう。

 日時によって変わってくる五感もありますから、「物語が薄っぺらい」と思ったらまず日時を明確にしましょう。何月何日何時までは必要ありません。「秋の夜更け」くらいの描写でもよいのです。

 日時を詳細に書くのは「何年何月何日何時」が「伏線」としてどれだけ機能するのかで変わってきます。

「伏線」にするのであれば詳細に書いたほうがよい。「伏線」でないのなら「春の曙」でもかまわないのです。

 そのときの主人公を取り巻く環境がどんなだと読み手に提示するのです。




地理

 地理や地形は現在主人公がいる場所をそのまま書けばよいのです。

 しかし皆様の作品を読んていると「地理や地形」について書かれていない「場面シーン」が多いことに気づきます。

 主人公や「対になる存在」はどこにいるのでしょうか。

 これがわからないと、読み手の中にモヤモヤが生じてしまいます。

場面シーン」が切り替わったら、まずどこにいるのかを明確にしてください。

 家にいるのか、電車やバスや自家用車の中にいるのか、職場や学校にいるのか。これを書いていない小説は思いのほか少ないのです。皆よく書けていると思います。

 しかし「それはどこにあるのか」が書いていないケースが多いのです。

 家は神奈川県横浜市にあり、職場が東京都新宿区にあるとします。であれば乗っている電車は湘南新宿ラインかもしれませんね。

 これらの情報がすっぽり抜けている小説が目立つのです。

「どこにいる」は「どこにある」のか。

 渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の主人公である比企谷八幡は、千葉県の千葉市立総武高等学校に通っています。

 場所が明確ですよね。

 しかし日時と同様「千葉県千葉市○○区1−2−3」のような細かな情報は必要ありません。読み手が場所をある程度思い浮かべられる程度の言及でよいのです。

 賀東招二氏『フルメタル・パニック!』では「東京都調布市仙川駅にほど近い陣代高校」であることが明確に書かれています。これはモデルとなった高校が実際に存在するからです。でも丁目や番地までは書かれていませんよね。




人物

 皆様が最も書いているのは人物についての描写です。

 とくにライトノベルはキャラクターが立っていることが最低限求められます。

 だからどうしても人物描写を過剰に書きすぎるのです。

「でも最低限、主人公の人物描写を尽くさなければ感情移入できませんよね」

 そのとおりです。

 主人公に限らず、「対になる存在」も「第三の人物」も人物描写を尽くしてキャラクターを立てる必要があります。

 人物偏重が過ぎるから問題なのであって、書くべき人の人物描写は詳しく書くべきです。

 その他のモブを詳細に書く必要はありません。

 描写の粗密は自然です。重要なキャラは詳細に、モブキャラは触れるだけで掘り下げない。それでよいのです。

 地の文は人物描写をするだけの役割しかないのではありません。天候・地理・動物・植物についても書き及ぶ必要があります。




動物

 小説で登場する動物は基本的に、主人公の心を仮託する存在か、マスコットとして存在します。

 犬・猫・鳥・ハムスター・蛇・トカゲ・金魚・グッピーなどは基本的にマスコットですが、「俺はまるで惨めな犬だ」と言った心理描写の比喩として機能することがあります。

 ライオンのように威圧感があれば「猛るライオンが獲物を仕留めるように」のように比喩として用いるのです。




植物

 小説を書くとき、ともすればまったく登場しないものがあります。

「植物」です。

 東京砂漠では「植物」なんてないのでは、と思うのは早計です。

 東京にも桜ソメイヨシノはあります。都の木はイチョウです。梅の花や菜の花が咲き誇り、サツキが華やいでいます。

 たんぽぽもあれば、ポピーもある。

 それなのに「植物」がいっさい出てこないのです。

 私たちはもっと「植物」をたくさん書きましょう。

 書き手は、えてして「無機質」なものを書きがちです。ボールペンやPCやテレビなどはよく書きますが、「植物」がほとんど出てこないのです。まったく出てこない小説もあります。

 異世界ファンタジーでも「植物」がまったくないわけがない。SFでも「植物プラント」はあるはず。恋愛では薔薇の花束を渡されることだってあります。

 場面シーンには「植物」は必ずあるはずです。手近になくても背景に山があれば、木々が生い茂っているでしょう。

 これから小説を書く方、すでに書いているけど今ひとつしっくりこない方は、「植物」を意図的に書くようにしてください。

 この世に生きているのは人間や動物だけではありませんよ。





最後に

 今回は「天候・地理・人物・動物・植物」について述べました。

 薄っぺらい描写になってしまったら、ぜひこの五つの要素を確認してください。

 ダンジョンに潜っているときは植物はあまりないかもしれませんが、コケや藻などはあるはずです。木々の根がレンガの隙間から出ているかもしれません。

 書ける要素があるのに書かないから「薄っぺらく」なるのです。



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