884.惹起篇:異常者を主人公にする危険性【回答】
今回は『小説家になろう』で感想のあったことを中心に構成しました。
異常者やネガティブ思考の主人公が最近多いのですが、それは本当に読み手が読みたいものなのでしょうか。
異常者を主人公にする危険性【回答】
現在、異常者とくに異常犯罪者を主人公にした小説が増えています。
異常者、異常犯罪者はクセが強いためキャラが立ちやすいと考えてのことでしょう。
とても危惧すべき傾向です。
読み手への危険性
小説の読み手は、主人公に感情移入して物語を楽しみます。
もし読み始めた小説で異常者、異常犯罪者が主人公だった場合、どのような行動をとるのでしょうか。
まず出だしから主人公が異常者、異常犯罪者だとわかったら、その時点で読むのをやめてしまう方が多いのです。
もし読み手が継続して読むとしたら。それは書き手の筆力によって異常者が「異常ではない」ように描写されているからです。
一流の書き手は筆力によって異常者を巧みに操って「異常ではない」と読み手に思い込ませます。だから読み始めた当初は「主人公は異常である」とわからないのです。
ロバート・ルイス・スティーヴンソン氏『ジキル博士とハイド氏』(ジキルとハイド)のような小説がひとつの目標でしょう。
小説投稿サイトにおいてこの手の主人公で人気が出たらどうなるか。フォロワーさんが似たような作品を大量に書き始めます。
ですが、よほど筆力のある書き手でないかぎり、読み手から嫌悪感を抱かれるでしょう。
そうして書かれた「異常者小説」を読み手が読んでどう感じるのか。
そこまで考えて書かれているのでしょうか。
多くの読み手は主人公が異常者であるとわかった段階で、感情移入から醒めて物語から飛び出てしまいます。
読み手に理解されないような異常者が主人公であるとき、読み手の心にはかなりの負荷がかかるのです。
人間は誰しも「なにがしかの異常性を秘めている」ものであるのは確かでしょう。
だから読み手の心の闇を触発するような小説には、一定のファンがつくことも理解できます。
しかし、心の闇を触発されると、それまで善人だった読み手もときに異常性が引き出されてしまいます。
『ジキル博士とハイド氏』は多くの読み手が己の心の闇を触発されて、犯罪に走る読み手を増やしてしまったというケースです。
現在では「統合失調症」と呼ばれる症状のジキル博士が、心の闇であるハイド氏を目覚めさせ、それに振り回されます。
こういう人がいることも事実ですが、安易に読み手の「心の闇」を触発することは厳に慎むべきです。
読み手の精神性、「心の闇」を意識させて生じた犯罪は、それを触発した小説の責任も問われます。
連続幼女殺人事件の犯人が、アニメの録画テープやマンガを大量に所持していました。これにより一時期「オタクは社会悪だ」とのレッテルが貼られることとなったのです。
望むと望まないとに関わらず、あなたの小説が読み手に与える影響を強く意識して小説を書いてください。
主人公が異常者、異常犯罪者である必然性が本当にあるのか。
そこから疑ってください。
読み手に与える影響まで考慮して、そのうえで異常者、異常犯罪者を主人公にするか考えましょう。
マンガの大場つぐみ氏&小畑健氏『DEATH NOTE』の主人公である夜神月は、エリート街道を進む典型的な優等生です。デスノートを拾ったことから、月の「心の闇」が触発されて「新世界の神」になることを目指し、犯罪者を容赦なくデスノートで殺していきます。
主人公が異常者、異常犯罪者であることで『DEATH NOTE』のように「クライム・サスペンス」として成立する物語もあるのです。
これは必要な異常性でしょう。
あなたの作品は『ジキル博士とハイド氏』『DEATH NOTE』のように、主人公が異常者、異常犯罪者である必然性がありますか。
書き手の危険性
異常者、異常犯罪者を主人公にした場合、書き手の側にも危険性があります。
まず挙げたいのが「書き手の『心の闇』を触発する」こと。
単なる殺人犯は凡百の存在であり、創作でも破綻することなく書けます。
しかし異常者、異常犯罪者が主人公となれば、「異常者の『心の闇』」を掘り下げなければ書けません。
「異常者の『心の闇』」を掘り下げると、「罪を犯すのか」理由を見つけなければならないのです。しかし単なる殺人犯とは異なり、異常者の精神を深く見つめられる書き手は少ない。異常者は常人とは異なる思考を持っているからこそ「異常者」なのです。その精神「心の闇」を暴くためには、書き手にもそういった思考が求められます。
書き手は異常者の「心の闇」を書くために、自分の中にも異常者の「心の闇」を棲まわせるのですが、の状態はとても危険です。
書き手は異常者の「心の闇」を有しているため、自身も罪を犯す可能性があります。
それを抑制できたとして、心に負荷を抱えたまま小説を書きますので、どうしても精神的に病みやすく、とくに
健全な執筆活動とは、完全に真逆を行っています。
『ジキル博士とハイド氏』『DEATH NOTE』のような小説が書きたい。
その心意気はよしとします。
しかし「心の闇」と向かい合う行為は、とても健やかな状態とは呼べません。
マンガならひとつの浅い「心の闇」だけを動機として罪を犯す描写ができます。
小説ではどうしても「心の闇」を深く理解しなければなりません。夜神月が陰でニヤリと笑って「計算通り」というセリフを吐くだけで済むマンガとは大きく異なります。どのような「心の闇」を持っているのか。なぜ「心の闇」を持つに至ったのか。それにより「心の闇」がどのような影響を周囲に与えるのか。
これらをすべて意識の中で構築しなければならないからです。
並大抵の精神力では、とても支えられないほどの厳しい心理状態に置かれます。
鬱病に陥ったり犯罪に走ったりするのです。
「心の闇」を追い続けて夭折した芥川龍之介氏、「心の闇」を暴こうとして飲み込まれた三島由紀夫氏のように、どうしても取り込まれてしまいます。
現在の「文豪」でも殺人事件を書き続ける推理作家はいますが、「心の闇」を深く掘り下げた小説を書く人はひとりもいません。いたとしても作家として短命に終わります。
であれば、あえて書き手としての寿命を縮めることになる異常者の「心の闇」について書くべきではないのです。
このようなデメリットを抱えてもまだ異常者、異常犯罪者を主人公にした小説が書きたいのですか。
ネガティブ思考にも問題が
では主人公が暗鬱なネガティブ思考の持ち主だった場合はどうでしょうか。
かなり鬱屈した思考ですから、通常の読み手は「またグチが始まったよ」と呆れます。
いつまで経ってもグチを吐き続ける主人公を、いつまでも読んでいたいですか。
私はご免こうむります。
小説は読み手に「夢を与える」媒体であることが第一です。
ネガティブ思考でグチばかり言う人、心の中で独り言ばかりをつぶやく人は、どうしても他人から見てよい印象を受けません。
主人公のグチばかりに陥らないためには、ポジティブ思考の人物を相棒にしましょう。
主人公がネガティブ思考に陥ったら、相棒がポジティブ思考の言行をしてトーンのバランスをとるのです。
渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』でもネガティブ思考の主人公である比企谷八幡の周りに、平塚静や由比ヶ浜結衣などを置くことで、ネガティブ一辺倒にならないようコントロールしています。
グチばかり聞かされたら読み手としても堪らないですよね。
だからネガティブ思考の主人公を出すのなら、ポジティブ思考の人間で周りを固めましょう。
最後に
今回は「異常者を主人公にする危険性【回答】」について述べました。
今いちばん人気のある「一人称視点」では主人公の心の中が丸見えです。
そこで主人公の独り語りであったり「心の闇」であったりを読み手に包み隠さず開示してしまう書き手が多い。これにはとても大きなリスクがあります。
書き手としての将来性や、読み手の健全性を守るためにも、異常者、異常犯罪者の「心の闇」には踏み込まないようにしてください。
また主人公のネガティブ思考が延々と語られるような作品も、あまり褒められたものではありません。周囲にポジティブ思考の人物を揃えて、バランスをとりましょう。
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