800.構成篇:伝えたいこと(メッセージ)とは

 今回は「伝えたいこと」についてです。

 書き手が主人公を通じて読み手に伝えたいこと、すなわち「メッセージ」には十のパターンがあると言われています。

『SAVE THE CAT!』というハリウッド脚本術の書物をもとに理解しやすい順序で説明しました。

 これら「伝えたいこと」「メッセージ」がひとつもない物語は味けなく、読み手の印象に残りません。

 必ずひとつ、主人公に「メッセージ」を体現させてください。





伝えたいこと(メッセージ)とは


 小説を書くとき、読み手に「伝えたいことメッセージ」が必要だと説きました。

 しかし、ただ漠然と「伝えたいことメッセージ」と言われても、すぐには思いつかないのではないでしょうか。

 そこで「伝えたいことメッセージ」の型を『SAVE THE CAT!』から十個用意しました。

 たいていの物語であれば、この十個とその変種で事足ります。さっそくあなたの小説に組み込んでみましょう。




1.赦す

「赦す」には「他人をゆるす」「自分をゆるす」の二パターンあります。

「他人を赦す」場合は、物語開始当初、主人公は「他人を赦せない」という出来事イベントに出くわすのです。これは通常「対になる存在」を指します。

 物語を経て、「佳境クライマックス」で主人公は「対になる存在」と対峙するのです。

 戦いを通じて「対になる存在」の主張にも一理あるなと主人公に思わせます。

 そこで主人公側が折れて「他人を赦す」のです。


「自分を赦す」場合は、物語開始当初、主人公になにがしかの「自分を赦せない」出来事イベントが起こるのです。

 しかし物語でいくつもの「出来事エピソード」を経て、「佳境クライマックス」でついに「過去の自分」と対峙します。

 そうなのです。「自分を赦す」物語は「対になる存在」との戦いが最終決戦なのではありません。それを経て主人公が「過去の自分」と向き合わなければならないのです。

 そして「過去の自分」もそれほど悪くはなかったのではないか。そう考えるようになるのです。




2.受け入れる

「受け入れる」には「自分を受け入れる」「現実を受け入れる」「状況を受け入れる」があります。

「自分を受け入れる」の場合は、最初は自分の存在自体を否定的にとらえているのです。

 しかしさまざまな出来事イベントを通じて、自分の存在を問われ続けます。

 そして「佳境クライマックス」を迎えて主人公は「自分の存在」に肯定的になり、「自分を受け入れる」ことになります。


「現実を受け入れる」の場合は、最初は現実を否定的に捉えているのです。

 しかしさまざまな出来事イベントを通じて、現実をまざまざと見せつけられます。

 そして「佳境クライマックス」を迎えて主人公は「現実にも一理あるな」と感じるのです。

 すると「こんな現実もありかもしれない」と受け入れます。


「状況を受け入れる」の場合は、最初は主人公が置かれている環境(状況)を否定的にとらえているのです。

 しかしさまざまな出来事イベントを通じて、周辺の状況に異変が生じます。

 そして「佳境クライマックス」を迎えて主人公は「こんな環境も悪くないな」と感じて受け入れるのです。




3.愛

「愛」には一般的な男女の「恋愛」が多いですが、家族への「家族愛」、自分かわいさの「自己愛」もあります。

「恋愛」の場合は、異性に恋愛感情が持てなかったりおくてであったりして「対になる存在」とうまく関係が築けません。

 しかしさまざまな出来事イベントを通じて、「対になる存在」への距離が近づいたり離れたりしていきます。

 そして「佳境クライマックス」を迎えて主人公は「対になる存在」がかけがえのない存在なのだと気づきます。


「家族愛」の場合は、主人公は今の家族を煩わしく思っています。

 しかしさまざまな出来事イベントを通じて家族の意外な一面を垣間見ることになるのです。

 そして「佳境クライマックス」において、今まで煩わしいと感じていた家族と逃げずに正面から向き合って、本当は家族こそがかけがえのない存在なのだと気づきます。


「自己愛」の場合は、自分のことを好きになれない、どこかが嫌で嫌で仕方がない。

 しかし「出来事イベント」を通じて、自分にもこんな一面があったんだ、自分にも他人に負けないことがあるんだと自信を持つようになります。

 そして「佳境クライマックス」で「今まで好きになれなかった自分」と対峙することになるのです。

 すると「自分を否定しなくていいんだ」「そのままの自分でいいんだ」ということに気づきます。




4.信念

「信念」には「自分の信念」「他人の信念」「世界の秩序」「神への信仰」があります。

「自分の信念」の場合は、最初は自分が抱いている信念が周りに認められていません。だからそれを証明したいと思っています。

 さまざまな出来事イベントを通じて、主人公の信念が試されるのです。

 そして「佳境クライマックス」を迎えて主人公は「やはり自分の信念は間違いなかったんだ」と自信を深めて終わるパターンと、新たな「自分の信念」を見つけるパターンがあります。


「他人の信念」の場合は、当初主人公は「他人の信念」を否定的に捉えています。

 さまざまな出来事イベントを通じて、「他人の信念」が多角的に示されるのです。

 そして「佳境クライマックス」を迎えて主人公は「他人の信念」の正しさを思い知ります。

 それにより主人公は「他人の信念」を受け入れるのです。


「世界の秩序」の場合は、当初主人公は「こんな世界やってられるか」と反発心が強くあります。跳ねっ返りや意固地になってしまうのです。

 さまざまな出来事イベントによって「世界の秩序」が形を変えて示されます。

 そして「佳境クライマックス」を迎えて主人公は「世界の秩序」って正しかったんだ、と気づくのです。


「神への信仰」の場合は、当初は神を信じていなかったり信じてはいてもそれほど深くはなかったりしています。

 さまざまな出来事イベントで、主人公に神の思し召しを体感することが幾度かあるのです。

 そして「佳境クライマックス」で「神の啓示」を受けて「神への信仰」を強くします。

 こちらは信教を持たない現代日本人ではあまり使われない形です。だから「剣と魔法のファンタジー」であっても、「神への信仰」はほとんど見られません。読み手に「神を信仰する」風土がないからです。宗教による小説の場合なら書かれることがあります。




5.信頼

「信頼」には「自分を信頼する」「他人を信頼する」「未知のなにかを信頼する」があります。

「自分を信頼する」とは物語の冒頭で「自分に自信がない」主人公が、さまざまな出来事イベントを経て、徐々に自信をつけていくものです。

 しかし途中で挫折を味わい、それでもなお主人公が動くことで、「佳境クライマックス」でついに「自分に自信を持つ」ようになります。


「他人を信頼する」とは物語の冒頭では「自分以外は信じられない」「あの人のことは信じられない」主人公がいるのです。

 さまざまな出来事イベントを経て主人公は徐々に「他人を信じてもよいのではないか」と思い始めます。

 そして「佳境クライマックス」で主人公はついに「他人を信じられる」「あの人を信じられる」ようになるのです。


「未知のなにかを信頼する」とは、物語開始当初にはまったくその姿がわかりません。

 しかし物語が進むにつれ、今まで知らなかったものと出会います。当然当初は信頼感がないのです。

 さまざまな「出来事イベント」を経て「信じてもいいかな」と思い始めます。

 そして「佳境クライマックス」では冒頭でまったくなかったものに対して「信じられる」境地に達するのです。




6.責任

「責任」には「任務遂行」「大事なことのために起こす行動」「運命の受容」があります。

「任務遂行」とは物語の始めで主人公に、ある任務ミッションが与えられるのです。しかし主人公は任務を真面目に達成しようとはしません。

 さまざまな出来事イベントを経ることで、任務を全うすることもたいせつではないかと気づきます。

 そして「佳境クライマックス」で任務の対象である「対になる存在」との戦いを遂行するのです。

 結果勝とうが負けようが自由なのですが、任務を遂行してから終わるのです。


「大事なことのために起こす行動」とは物語の最初のほうで私事を優先させる主人公が、さまざまな出来事イベントを経て「私事よりも大事なことがあるのでは」と思うようになります。

 そして「佳境クライマックス」では「大事なことのために」命を賭して「対になる存在」と戦うのです。


「運命の受容」とは物語開始当初は「行く路は自分で決める」と行動的だった主人公が、さまざまな出来事イベントを経て「運命」というものを実感し始めます。

 そして「佳境クライマックス」で「対になる存在」との最終戦は「運命を受け入れて」決着します。




7,罪滅ぼし

「罪滅ぼし」には「贖罪」「罪を受け入れる」「罪悪感」「魂の救済」があります。

「贖罪」とは物語当初、主人公が罪を犯します。それを悪びれることもなかったのですが、人々から追われることとなるのです。

 さまざまな出来事イベントを経ることで、自分も逃げてばかりいてはダメだと気づきます。

 そして「佳境クライマックス」で「対になる存在」に対して物語当初の罪をあがなうこととなるのです。


「罪を受け入れる」とは物語当初に主人公は「それを罪とは思わずに」禁を破ってしまいます。

 さまざまな出来事イベントを経ることで、自分の犯した「罪」に気づくのです。

 そして「佳境クライマックス」で「対になる存在」に対して「罪を受け入れる」ことになります。


「罪悪感」とは物語当初、なんの気なしに人を傷つけるような行動や発言をしてしまいます。

 さまざまな出来事イベントを経て、あのときの自分について考えるようになるのです。

 そして「佳境クライマックス」で「対になる存在」と向き合います。

 それはなんの気なしに傷つけてしまった人物だったのです。主人公はそこで初めて「罪悪感」を覚えます。


「魂の救済」とは物語当初卑しいまたは意地汚い主人公が、さまざまな出来事イベントを経ることで、世の中(現実社会)で卑しいまたは意地汚いままでよいのか悩みます。

 そして「佳境クライマックス」で「対になる存在」に導かれて卑しさや意地汚さを払拭してけがれていた「魂が救済」されるのです。




8.恐れ

「恐れ」には「恐れを乗り越える」「恐れを克服する」「勇気をつかむ」があります。

 このうち「恐れを乗り越える」と「恐れを克服する」はほぼ同義です。

 異なる点は冒頭で主人公が抱いていた「恐れ」を「気にしなくなる」のが「乗り越える」で、「なくす」のが「克服する」になります。


「勇気をつかむ」の場合は、冒頭では「恐れ」を抱いて臆病な主人公がいます。

 さまざまな出来事イベントを通じて、主人公は「勇気」を試されるのです。あるときは「恐れ」に屈し、あるときは「恐れ」ながらも出来事を解決していきます。

 そして「佳境クライマックス」で主人公は「最も勇気を振り絞って」「対になる存在」と対峙します。

 ついに「恐れ」を消し去って「勇気をつかむ」のです。




9.生き残る

「生き残る」には「生き残りたい」という心も含みます。

「生き残る」とは物語冒頭では死に瀕している状態に追い込まれ、もうここまでかという状況です。

 しかし物語が進んでさまざまな出来事イベントを経験すると、「生きる」とはなにか「死ぬ」とはなにかを知ります。

 そして「佳境クライマックス」で主人公は死闘を制して「生き残る」のです。


「生き残りたい」とは物語当初は「死にたい」と追い込まれていた主人公が、さまざまな出来事イベントを経ることで精神的に強くなります。

 そして「佳境クライマックス」で心の葛藤に終止符を打ち、「生き残りたい」と強く願うようになります。




10.無私

「無私」には「自己犠牲」「他愛」「英雄的行動」があります。

「自己犠牲」とは、物語冒頭で主人公はひじょうにわがままな人物です。

 さまざまな出来事イベントを経ることで「我が身可愛さ」が本当に正しいのか疑うようになります。

 そして「佳境クライマックス」では身を挺して人々を救うことになるのです。


「他愛」とは物語冒頭で主人公はひじょうに利己的な人物です。

 さまざまな出来事イベントを経ることで「他人の幸福」に目が行くようになります。

 そして「佳境クライマックス」では「他人の幸福を願って」身を引くのです。


「英雄的行動」とは物語の開始時にはわんぱくな人物です。

 さまざまな出来事イベントを経ることで「世の中の平和と安寧を願う」ようになります。

 そして「佳境クライマックス」では世の人々の平和と安寧のために身を挺して「対になる存在」を打ち倒すのです。





最後に

 今回は「伝えたいこと(メッセージ)とは」について述べました。

 いずれも『SAVE THE CAT!』という脚本術に書かれている基本的なものです。

 小説用にカスタマイズする必要はありますが、基本的に物語であればどんなものにも応用できます。

 Appleの「ブック」アプリでも購入できるので、購入しておくと頼りになりますよ。



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