759.回帰篇:毎日五枚も書けない方へ

 今回は「原稿用紙五枚が書けない方」に向けたアドバイスです。

 あなたは一日に何文字書いていますか。

 小説だけでなく、学生なら小論文、会社員なら報告書、メールやSNSなど、毎日文字を書く機会はあるはずです。

 この中であなたの努力で文字数を分けてもらえそうなのがSNSでしょう。

 SNSを少し控えて、そのぶんを小説を書く練習に当ててみてはいかがでしょうか。





毎日五枚も書けない方へ


「文章を書く練習だからといって、毎日原稿用紙五枚も書けない」と思っている方が多いかもしれません。

 しかしあなたは日常で原稿用紙五枚ぶんの文章をすでに書いている可能性があります。

「いや、そんなはずはない。私は原稿用紙五枚も書いていない。だから書けない」と反論する方もいらっしゃるでしょう。

 本当にそうなのでしょうか。



TwitterやLINEをどのくらい利用していますか

 あなたはSNS《ソーシャル・ネットワーキング・サービス》をどれだけ利用しているでしょうか。毎日何十回もツイートやトークを発信している方も多いのではないでしょうか。

 たとえばTwitter。1回の投稿で140文字書けます。すると原稿用紙五枚つまり二千字は14回ぶんの投稿とほぼ同じ分量です。もちろん140字すべて使って投稿する人はまずいませんが、半分だとしても28回ぶんの投稿です。ではあなたはTwitterで毎日何回つぶやいていますか。もし30回以上つぶやいているようでしたら、そのつぶやきを小説の執筆に回せませんか。「つぶやいてコメントやリツイートやいいねが欲しいからTwitterをやっているのであって、小説を書くつもりでつぶやいていない」という意見もあるでしょう。

 ですが、そうやって優先順位を逆転させている間は、いつまで経っても小説が書けるようにはなりません。

 あなたが将来「プロの書き手」になりたいのであれば、Twitterでつぶやく回数を減らして、余った時間と労力で文章を原稿用紙五枚ぶん書いてください。あなたがもし将来Twitterで「つぶやくプロ」になりたいというのなら話は別ですが。

「でもフォローしている絵師さんは毎日絵を投稿しながらたくさんつぶやいているんだけど」とおっしゃる方。その絵師さんは絵を描いてその余った時間でつぶやいているのであって、つぶやいてばかりいてそのスキに絵を描いているわけではないのです。


 Twitterもですが、とくにLINEをお使いの方は、できるだけLINEを控えてください。LINEは短文だけをやりとりします。しかし毎日何十回と友人・知人・仲間とトークしているだけで、多くの時間と文字数と肝心の「脳力」が奪われてしまいます。現在LINEでつながっている方はすべてやめられないと思いますので、利用回数を減らすようにしましょう。あなたの人生の目標は「LINEのプロ」になることですか。違いますよね。


 TwitterもLINEも相手から届いた文章を読み込んで、適切な回答の言葉を思いついて、ツイートやトークで返していくのです。

 そんな時間があるのなら「小説を書く」ことに時間を割いてください。

 YouTubeは「YouTubeのプロ」つまり「YouTuber」がかなりいらっしゃいます。しかし「Twitterのプロ」「LINEのプロ」などという金儲けの手段は存在しません。

 それならTwitterとLINEの利用頻度をできるだけ抑えて、空いた時間で「原稿用紙五枚」を埋めるメニューを組んでみませんか。とくにTwitterは頻度を落としても実害はとくにありません。こちらから発信する情報はただの日常の駄文であることが多いですし、フォローしている方のツイートも有用なものばかりとは限りません。LINEは電話帳やメールアドレスなどを登録してある方とつながっているので、ペースを落とすことが難しいと思われがちです。しかし前もって「これから小説を書こうと思っているので、LINEの返しが後れます」と正直に話してみましょう。それで理解を示してくれる方が「本当の友人」です。「私と話せないっていうの」と言う方はあなたのことを「ただのダベり相手」としかみなしていません。



小説を書くことを特別視しない

「でもこれまで毎日面白ツイートを探していたのをやめて、いざ小説を書くとなると手が止まる」という方もいらっしゃるでしょう。

 それは「小説を書く」ことを特別視しているからです。

「小説を書く」ことは特別なことではありません。あなたが今まで行なっていたTwitterのツイートやLINEのトークとさほど変わらないのです。

 Twitterのツイートは「どう書いたら皆からリツイートやいいねがもらえるかな」と考えながら投稿していたはずです。その考え方を「小説を書く」ことに応用しましょう。「どう書いたら皆からブックマークや評価がもらえるかな」と考えながら書けばよいのです。読み手のことを念頭に置きながら文章を構成するという点で、ツイートは「小説を書く」能力を無意識に向上させていたとも考えられます。

 LINEのトークは、登場人物の「会話のやりとり」の練習だったと思ってください。友人と他愛のない言葉のやりとりをしているだけで、どのような感情が入り込んでいるのか。そこをしっかりと見極めるのです。たった一字の違いで、相手への伝わり方が変わります。だからトークに余計なことは書けません。その距離感は小説の登場人物同士の距離感に応用できるのです。

 だからTwitterやLINEの投稿頻度を抑えてでも、「小説を書こう」とする意欲が欲しい。ペースを抑えるだけで、あなたには「未来の可能性」が開けてきます。

 書かなければ何も始まりません。そしてあなたは現在たくさんの文字を書いて暮らしています。それなら「書いた文字数」をTwitterやLINEに費やすのではなく、「小説が書けるようになる」ために用いるべきではないでしょうか。



文章を書き慣れるために

 どんな内容であっても、毎日「原稿用紙五枚」が書けるようになれば、文章を書き慣れてきます。しかし書く内容によっては文体のクセがつくので注意してください。

 できれば毎日「物語を書く」ようにしましょう。前回ご紹介した台本の「ト書き」でもかまいません。幼い子に語って聞かせる「おとぎ話」を書くのもいいですね。

「おとぎ話」なら物語を誰にでもわかりやすい形で書かなければいけないので、説明力がつきます。物語のパターンも増やせますので、「おとぎ話」は侮れません。

 もちろんあなたが好きなジャンルの物語でも結構です。

 あなたが将来「剣と魔法のファンタジー」を書きたければ、ド派手なバトルシーンの練習をしましょう。「恋愛小説」が書きたければ、心ときめくシーンや告白シーンの練習をしましょう。「推理小説」が書きたければ、謎を解くシーンを考えてみましょう。


 ですが「私は剣と魔法のファンタジーが書きたいから、バトルシーンだけ書けばいいのか」というものでもありません。

 どんな小説であろうと「恋愛」と「謎解き」は欠かせないのです。「恋愛」は物語を華やかにしてくれます。連載小説の四部構成である「主謎解惹」にも見られますが「謎解き」は物語を読み進める推進力になるのです。


「恋愛」は基本的に書き手の経験がものを言います。

 長年片想いを続けてきた書き手は、片想いのキャラクターの気持ちがわかる。

 思い切って告白したことのある書き手は、告白する勇気やその場の雰囲気がわかる。

 あえなくフラれたことのある書き手は、失恋したキャラクターの気持ちがわかる。

 告白が成就したことのある書き手は、結ばれるキャラクターの気持ちがわかるのです。

 このように、経験は小説というフィクションに現実味リアリティーを生みます。

 しかし早熟の方であればさまざまな恋愛情報を入手して「耳年増」となり、「恋愛」をしたこともないのに、わかったような気になるものです。


 私は「恋愛」の感情が欠落しています。以前お話ししたように、私は小学校に上がるまで養護施設で育ちました。しかも施設では男女がエリア分けされていますから、異性というものが宇宙人のような異種族と捉えていたのです。小学校に上がってから初めて女子と同じクラスになりました。ですが女子には見向きもせず、男子生徒とよく剣術ゴッコをして蛍光灯を割ったものです。このあたりにも『アーサー王伝説』の影響が見られますね。

 女子に恋愛感情を抱けなかった理由として「親の愛情を受けてこなかった」ことも関係しています。とくに私たち四人兄弟は母親に引き取られますが、母親は子どもと合わせて五人ぶんの生活費を稼がなければなりません。また子どももいちばん年下の弟が保育園に通っていましたから、母親は弟につきっきりになります。そうなると「母親からの愛情を受けずに育った」ので、「愛情」というものが私の人生の中で育まれなかったのです。

 小学校も三年生三学期で転校し、イジメに遭いながらも男子とだけ話していました。中学生・高校生になっても私の中では女子は宇宙人であり異種族です。そして大学へは行かずアルバイトをすることになりました。

 だから私は「恋愛モドキ」なら書けますが、本物の「恋愛」が書けません。「恋愛小説」をいくつか読んでもまったく心が惹かれなかったことから、自分の中には「恋愛」も「愛情」もないことに気づいたのです。私にあるのは「好き」か「嫌いか」の二択だけです。話してみて好印象を受けたら「好き」な人、悪印象を受けたら「嫌い」な人と区分けしていました。「愛している」とか「憎んでいる」という感情はありません。おそらく私の「好き」の中には「愛している」が紛れているかもしれませんし、「嫌い」の中に「憎んでいる」が紛れているかもしれません。ですが、私の感覚では「好き」か「嫌い」かの二択でしかないのです。不思議なことに「好きでも嫌いでもない」という感覚もなかったりします。一緒にいて楽しければ「好き」ですし、いたたまれなければ「嫌い」というひじょうに単純な感情です。

 だから私は、説明くさい文章を多く書きます。通常なら「恋愛」「愛情」を書けばよいところを、「理屈」であれこれ語るしかありませんからね。


 私のような根本的に「恋愛感情」「愛情」が欠落している小説の書き手はまずいないでしょう。皆様は物心ついた頃から今日に至るまで、誰かに「恋愛感情」「愛情」を抱いてきたはずです。その経験が豊富であれば、読み手を惹き込む「恋愛」要素が書けます。たった一度の「恋愛」しかしてこなかった方もいるでしょう。そのときはさまざまな作品で同一の「恋愛」を書くことができます。「心に秘めた愛情」を勇気を出して告白する「恋愛」をしてきたのなら、まったく同じ「恋愛」模様を書いてもよいですし、「理想の恋愛」を追い求めて小説を書いてもよいのです。

「恋愛感情」「愛情」が欠落している私は、小説を書く面で大きなハンデを背負っています。「恋愛モドキ」を書いて、うわべだけの「恋愛感情」「愛情」をわずかに加える程度にしか書けないのです。


 それに比べて「謎解き」は小説とくに推理小説をたくさん読めば、パターンがいくらでも記憶できます。最初はサー・アーサー・コナン・ドイル氏『シャーロック・ホームズの冒険』シリーズや横溝正史氏『金田一耕助』シリーズなどがおススメです。江戸川乱歩氏『少年探偵団』シリーズ、赤川次郎氏『三毛猫ホームズ』シリーズも「謎解き」を読むならよい手本となります。アガサ・クリスティー氏も外せないですね。

「謎解き」のバリエーションをもっと増やしたいという方は、マンガになりますが青山剛昌氏『名探偵コナン』を読んでください。現在単行本で95巻も連載されていますから、ほぼありとあらゆる「謎解き」が楽しめます。有名推理小説からヒントを得ている事件もありますので、マンガですが侮れない存在です。


 こうして「恋愛」と「謎解き」をあなたの小説に取り込んで一本の作品に仕上げましょう。一次選考が通過できる方なら、二次選考も通過できる可能性が高まります。

 だから「恋愛」小説と「謎解き」小説を意識して「原稿用紙五枚」書く練習をしてください。それが「小説賞・新人賞」の佳作に残れる第一歩となります。





最後に

 今回は「毎日五枚も書けない方へ」について述べました。

 毎日「原稿用紙五枚」も書けないという方は、他の形で文章を書いている可能性があります。とくにSNSでは自己承認欲求を満たすために、頻繁に文章を書いて投稿しているはずです。とくにニュース記事へコメントをつぶやく行為は感想や意見を述べるのに適しています。

 それらSNSの文章を控えて、「原稿用紙五枚」に文章を書くのです。そうすれば「原稿用紙五枚」も書けないなどということはまず起こりません。あなたがいつも書いているSNSの内容を「原稿用紙五枚」に書けばよいのです。

 書くジャンルはあなたが本職にしたいジャンルにしましょう。加えて「恋愛」ものと「謎解き」ものも合わせて書くのです。この二つはどんな小説でも必須になります。「恋愛」「謎解き」が書けないと、長編小説・連載小説で読み手の心を掴めません。



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