615.明察篇:連載小説のあらすじは途中で変えていい

 今回は「連載小説のあらすじ」についてです。

 連載小説の「あらすじ」はカーナビのようなものです。

 目的地が定まっていれば、どのように寄り道をしてもかまいません。

 最終的に目的地に到達していればよいのです。





連載小説のあらすじは途中で変えていい


 短編小説はひとつから三つのエピソードを書くので、基本的に一度決めたあらすじを途中で変更できません。

 長編小説は三つから十ほどのエピソードです。書き出しと結末そして途中の通過点チェックポイントは動かせないとして、他のエピソードはある程度書いている途中で変更できます。




連載小説はかなり自由

 対して連載小説は分量が単行本十冊以上になることもざらにあります。

 書き出しと結末エンディングそして途中の通過点チェックポイントはできるだけ動かさない。

 そして残りは書いてきた流れや読み手の反響を受けて自由に変更してよいのです。

 そのためには「あらすじ」を前もってきっちり書いておきましょう。

 比較対象があってこそ、変更点が明確になるのです。

「あらすじ」に難しいことはなにひとつありません。




あらすじはカーナビ

 あなたはどのような世界観で、どのような状況で、どのような人物たちが、どのような順番で、どのようなエピソードによって、どのような物語を紡いでいくのかを決めてから小説を書いていますか。

 このような「あらすじ」を書かずに執筆する書き手の方は、たいてい途中で立ち往生するのです。

 では世界観、状況、人物、エピソードとその順番を決めておくだけでいいのでしょうか。

 これだけでは足りません。

 書き出しで読み手の心を掴むエピソードが起こっているか。中盤にもう少し事件が欲しい。終盤の「佳境クライマックス」の盛り上がりが今ひとつ。

 そういったバランスに注目して眺めるようにしてください。

「あらすじ」は設定と現状と推移を確認できるので、必ずプリンターで印刷しておきましょう。そしてエピソードが進むごとに、その時点での設定と現状と推移に改めていくのです。

 たとえば七年前に起こったはずの出来事が、五年前の出来事として書いてしまうようなミスを避けるためにはどうするのか。「あらすじ」をひとエピソードごとに切り出して設定と現状と推移をプリンターで印刷し、いつでも設定を誤らずに把握できるようにしておきましょう。


 ひとエピソードごとに切り出した設定と現状と推移を記したプリントの中に、人々がどのような会話ややりとりをするのか。それによって状況はどのように変化することになるのか。これを決めて書き入れていかなければなりません。

 つまり物語の流れをひと目で把握できるように書いておく必要があるのです。私はこれを「箱書き」と定義しています。


 つまり「あらすじ」の段階で世界観、状況、人物、エピソードとその順番をひと目で把握できるようにするのです。

 そのうえで会話ややりとりのさまを「箱書き」で設定していきます。

 前述しましたが、「あらすじ」は書き出しと結末エンディング通過点チェックポイントさえ盤石なら、その他は柔軟に変更してもかまわないのです。それが物語のダイナミズムを生み、読み手の満足度を高めるのに一役買います。

 ですから当初の「あらすじ」にはあまり固執しないでください。絶対に変えない方がよい部分は確かにあります。ですが、変えてもかまわない部分があるのも事実です。

 対象となるエピソードに至るまでの物語の流れとズレているようなら、流れを受け入れつつ本筋へ戻るように変更を加えていきます。

 また読み手から「こんなエピソードが読みたい」という希望があるのなら、それを入れられないか検討に入ります。




読み手希望のエピソード挿入

 読み手から「こんなエピソードが読みたい」と希望されたら、まずあらすじを繰り返し眺めて、当該エピソードを入れる余地があるかどうかを検討してください。

 物語の本筋から離れすぎていて、当該エピソードを入れると物語が破綻してしまうようなら断じて挿入すべきではありません。

 もし本筋とそれほど遠くなく、簡単に通過点チェックポイントへ戻れると判断できたら、当該エピソードを挿入することを考えてください。

 連載小説は「読み手の読みたいものを書く」のが基本です。

 もし当該エピソードが作風に似合っていないのなら無視してもよい。ですが、ここまで読んでくれた読み手なら、まったく的外れな要求はまずしてきません。たいていが「主人公とこの人物とのエピソードが読みたい」「脇役同士が主人公について語り合っているエピソードが読みたい」というような希望が寄せられます。

 ならばふたりの絡む出来事エピソードを作ってあげてもよいではありませんか。

 場合によっては「好敵手とヒロインの関係が読みたい」というような、ちょっと無理筋な要求も寄せられます。『アーサー王伝説』の湖の騎士ランスロットと王妃グィネヴィアとの不義の恋愛などが代表的ですが、これなどは物語の本筋を大きく逸脱しかねません。

 しかしこの関係があることで結末が大きく変わり、一段格の高い作品に化ける可能性もあるのです。




すべてのエピソードに伏線を

 すべてのエピソードには本筋に絡む「伏線」を埋設しておくと、当初は読み手サービスのためのエピソードだったとしても、物語においてなくてはならないものになります。

「伏線」はすべてのエピソードに埋設しておくべきです。「伏線」のないエピソードは本筋から浮いてしまいます。結果として「このエピソードは要らなかったのではないか」と読み手に思われるのです。

 それではただ損をするだけなので、すべてのエピソードに「伏線」を埋設しておきましょう。

 些細な「伏線」でも、張ることによって物語の満足度が大きく変わってきます。

 すべてのエピソードに本筋を左右する「伏線」を仕込むことが、書き手の腕の見せどころです。




プロはあらすじを必ず書く

 私が言う「あらすじ」は出版業界では「プロット」と呼ばれています。単純に「あらすじ」の英訳が「プロット」だからです。

 私は執筆直前の状態にまで細分化したものを別途「プロット」と呼んでいます。

 私が言う「あらすじ」は、プロの書き手が出版社の編集さんへ提出するために必ず書く類いのものです。

 編集さんとは、まず「企画書」を見せて「こんな物語を書きたいのですが」と伺いを立てます。OKをもらえたら、それを「あらすじ」にして提出するのです。

 この「あらすじ」は担当編集さんだけでなく、班長や編集長などがチェックすることもあります。この時点で満足度の高い「あらすじ」に仕上がっていなければ執筆のゴー・サインは出ません。担当編集さんから「もう少し練り直してください」と言われるのがオチです。

 出版社は慈善事業であなたの小説を「紙の書籍」にするわけではありません。出版社の利益になるような作品こそが求められます。

 あなたの書きたいようには書かせてもらえないかもしれませんが、書き手も原稿でお金を稼ごうとするかぎり、出版社の言うことは素直に聞きましょう。それでも納得できないようなら、出版社を変えるべきです。

 あなたの作風と異なる出版社レーベルに固執する必要なんてありません。作風によって出版社レーベルは自由に変えてかまわないのです。ただし「小説賞・新人賞」の募集規定で「三作目までは独占契約」とか「三年間は独占契約」とか書かれている場合は、自由に出版社レーベルを変えるわけにはいきません。契約を無視して転籍すると裁判沙汰になりかねないのです。





最後に

 今回は「連載小説のあらすじは途中で変えていい」ことについて述べました。

 短編や長編ならなかなか「あらすじ」を変えられませんが、単行本十冊にも及ぶような連載小説であれば、「あらすじ」は柔軟に変えていいのです。

 そのときは全体の流れに逸脱しない範囲で変更しましょう。

 そしてすべてのエピソードには必ず「伏線」を埋設するのです。そうすることで、すべてのエピソードが物語を進めるうえで必要不可欠なものになります。

「あらすじ」を書かずに執筆する方がいらっしゃるのも事実です。しかし将来プロの書き手になりたいのであれば、「あらすじ」は書けたほうが断然出版社レーベルの担当編集さんのウケはよくなります。



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