594.明察篇:小説賞・新人賞には完結した物語を応募する

 今回は「募集規定を守る」ことについてです。

 推敲をしていくと、気づかないうちに規定枚数や規定文字数を下回っていた、ということが起こりえます。

 たった一字でも足りなければ選考のまな板にさえ載らないのです。

 そして「完結していない」作品もまた選考の対象になりません。

(未完の作品も選考対象とする「小説賞」もありますが)。





小説賞・新人賞には完結した物語を応募する


 出版社の「小説賞・新人賞」や小説投稿サイトで企画されている「小説賞・新人賞」に応募したいと考えたとします。

 プロの書き手になるための唯一の手段なので皆様も必ずや準備していることでしょう。

 出版社が開催している「紙の書籍」の「小説賞・新人賞」ですら応募要項から逸脱した作品を送りつける書き手が殊のほか多いと言われているのです。

 小説投稿サイトの企画である「小説賞・新人賞」への応募はそれ以上のルーズさで応募してしまいます。

 なぜ募集要項を守ろうとしないのでしょうか。




規定枚数を下回る

 数ある「小説賞・新人賞」に共通しているのは、「原稿用紙の規定枚数がある」ことです。「三〇〇枚から四〇〇枚」という規定があったとすれば、必ず原稿用紙三〇〇枚以上書かなければなりません。

 ただここで書かれている「三〇〇枚」は、直接原稿用紙の書式(フォーマット)に従って書かれた枚数ではないのです。ライトノベルのように空改行を繰り返し挿入していると、文字数が足りず内容がスカスカになってしまいます。

 純文学や大衆小説では厳密な執筆ルールが存在し、それから逸脱するものははなから論外です。Microsoft『Word』、JUST SYSTEM『一太郎』などのワープロソフトで二十字×二十行の原稿用紙フォーマットに切り替えて執筆する人が多いと思います。

 実はこれが盲点なのです。

 一行二十字だと、タイミングによっては、前の文末が行頭に来てそのまま改行してしまうことがあります。どうしても長文が書けない人は、この特質を生かして行数を稼ぎ、三〇〇枚書くこともできます。ですがこれを出版する段となり、印刷用の縦文字数×行数に変換すると、原稿用紙三〇〇枚のはずの分量を大きく下回ることがあるのです。

 長編小説を募集したはずなのに、いざ出版するとしたら実は中編小説だったというのは存外多く出くわします。

「小説賞・新人賞」を開催している出版社が発刊している「紙の書籍」の小説を一冊買って、一ページの縦文字数×行数を確認しましょう。

 その書式で応募作を書き、推敲の段階で二十字×二十行の四百字詰め原稿用紙に一時変更して三〇〇枚を超えているかチェックするのです。

 こうすれば、出版社が求める長編小説の規定をクリアすることができます。


 ライトノベルでは前述したように空改行を多用する書き手が多いため、応募規定が「原稿用紙何枚」ではなく「文字数何万字から十何万字」「十二万字以上」と文字数を指定することが多くなりました。

 テキストエディタで執筆している方は、テキストエディタの機能で今何文字入力しているのかを確認できしていることも多いと思います。これはたいへん便利な機能で、書き進める意欲を高めてくれるのです。ですが、落とし穴もあります。

 テキストエディタは改行や空白文字も一字とカウントしてしまうものがほとんどです。

 つまり実際に書いた文字数を正確に把握できないことが多い。

 ではどうすれば文字数をチェックすればいいのでしょうか。


 小説投稿サイト『小説家になろう』の投稿フォームを利用するのが最も手っ取り早いです。

『ピクシブ文芸』では改行も空白文字もカウントしてしまいますが、『小説家になろう』では文字数(空白・改行含まない):○○○○○字という具合に、改行と空白文字はカウントされません。つまり「小説賞・新人賞」で最初の関門となる規定文字数をクリアしているかどうかがわかるのです。

 ですので『小説家になろう』の投稿フォームにコピー&ペーストして文字数を確認するクセをつけましょう。ただしそのまま実際に投稿する必要はありません。あくまでも執筆時の目安として活用しましょう。




連載小説を応募するときの注意点

 小説投稿サイトで企画されている「小説賞・新人賞」の中には「募集期間内に完結するのであれば連載で投稿してもかまわない」ものもあります。

 募集要項の規定文字数さえクリアできれば、長編小説を一気書きする必要がなくなるので、応募しやすい「小説賞・新人賞」だと言えるでしょう。

 さらには「規定文字数さえ超えていれば完結していなくてもよい」というさらに太っ腹な「小説賞・新人賞」もあります。

 実はこれがトラップなのです。


 確かに面白ければ二十万字だろうが三十万字だろうが皆が喜んで読むことでしょう。

 しかし書き手としての能力である「物語を終わらせる能力」を審査することができません。つまり開始から盛り上がりまで読み手を惹きつける能力があるのは確かだとしても、終わらせる能力がないかもしれないと思われます。

 連載中の投稿作品が「紙の書籍」化したとき、人気を博すかもしれません。

 ですが「物語を綺麗に終わらせる」ことができなかったらどうなるのでしょうか。

 出版社としては人気のある連載小説を終わらせることには消極的なので、人気のあるうちは打ち切りの話は出ません。

 ですが人気が底を打つようになれば、いつかは「結末エンディング」を書かなければなりません。

 そのときもしあなたに「結末エンディング」できっちりと終える能力がなかったとしたら。

 おそらく次の連載小説の打診はないでしょう。

 では「結末エンディング」できっちりと終える能力を身につけるにはどうすればよいと思いますか。




長編小説を数多く書く

 「結末エンディング)」をきっちり書ききるには、長編小説を数多く書くしかありません。短編・中編では話が短くて「結末エンディング」で終わらせる必要のある項目が少ないため、小学生レベルでも「話を終わらせる」ことができます。

 しかし長編小説は十万字前後の物語であり、終わらせなければならない要素も数多くあります。高校生レベルの構想力でようやく「話を終わらせる」ことができるのです。

 だから毎日連載で人気を集めるよりも、まずは長編小説を数多く執筆し、それを分割して毎日投稿すべきでしょう。

「終わらせ方」がよかったのか悪かったのかは感想で返ってきます。それを受けて次作の「終わらせ方」を修正していけばいいのです。

 まず長編小説をきちんと「終わらせる」スキルを身につけましょう。

 それがあなたのフォロワーさんを増やすことにもつながります。




終わらせ方の指針

「話を終わらせる」ためにはなにが必要でしょうか。


「物語で起きた出来事は解決していますか」

 とくに最大の出来事である「佳境クライマックス」が解決していなければ、読み手は消化不良を起こしてしまうのです。

 マンガの井上雄彦氏『SLAM DUNK』の終わり方に納得できる人は少ないのではないでしょうか。戦いもさぁこれからという段階で唐突に連載が終わります。盛り上がるのはこれからではないのか。そんな気持ちにさせる終わり方でした。多くの読み手が同じ思いを抱いたことでしょう。だから読み手は『SLAM DUNK』のその後が気になって仕方ないのです。明確に「『SLAM DUNK』の続編を書けよ」とSNSで叫んでいる方もいらっしゃいます。


「主人公の目的が達成されていますか」

 小説などの物語は、主人公の目的が達成されたらすんなり終われるものです。

 マンガの尾田栄一郎氏『ONE PIECE』は主人公モンキー・D・ルフィの目標が達成されたでしょうか。早晩達成されそうな様相でしょうか。今はなにか当初の目標なんてお構いなしになっているような気がします。皆様はどのように思っておいででしょうか。もし今『ONE PIECE』が連載終了したら、あなたは納得できますか。それが「終わらせ方」にはたいせつなことです。

 マンガの鳥山明氏『DRAGON BALL』は主人公ブルマが「ドラゴンボール」を集めて願いを叶えてもらう目的を持っていました。つまり最初に神龍を呼び出して願いを叶えてもらった時点で連載を終了できたのです。それがなぜか天下一武道会が始まり、バトル漫画と化してしまいました。これによって主人公がブルマから孫悟空に取って代わられ、目的も「強い奴に勝つ」という漠然としたものになったのです。

 いつ物語を終えたらよいのか。誰もわからなくなりました。

 『ONE PIECE』『DRAGON BALL』の悪いところを受け継がないようにしてください。主人公の目的をすり替えるような真似は読み手の不評を買うだけです。


「主人公の成長が達成されていますか」

 小説は成長物語です。冒頭から結末までの間に主人公が成長していなければ、物語性が低いと言わざるをえません。一介の村人が冒険者となって数々の苦難を乗り越え、ついに世界最強の敵役を倒して伝説の英雄と讃えられる。「剣と魔法のファンタジー」では鉄板の展開です。

 逆に成長とは逆向きの展開もあります。

 アニメのタツノコプロ『宇宙の騎士テッカマンブレード』は地球外生命体ラダムを倒す超人であるテッカマンブレードことDボゥイが主人公です。しかし物語の終盤で変身するたびに記憶を失っていく状態に陥ります。そしてついに最後の親玉を倒す間際ですべての記憶を失ったのです。それでもDボゥイはラダムへの憎しみだけは忘れることなく、ついに最後の親玉を打ち倒して地球へと墜落していきます。ここが「佳境クライマックス」ですね。

 そして時が過ぎ、Dボゥイはすべての記憶を失ったまま、ともに戦ったアキの世話を受けて暮らしていくことになります。テッカマンブレードとして当初「勇者」だった男が、戦いを経るごとに損耗していき、最終的に魂の抜け殻のようになってしまうのです。成長とは逆向きの展開とはこのような物語を指します。

「カタルシス」という言葉があります。単に「読後感」の英訳として使ってい方が多いのですが、本来は「悲劇を観て心の中にわだかまっていた同種の感情を解放することで快感を得る」ことを指す言葉です。『宇宙の騎士テッカマンブレード』は真に「カタルシス」を味わう物語構造だと言えます。


「テーマが表現されていますか」

 小説には「テーマ」が必要です。「テーマ」は書き手が持つ「命題」をどのような形で表現するかで決まります。

 『SLAM DUNK』は「バスケットボールの魅力を読み手に伝えたい」というのが「テーマ」だったように思っています。だから「出来事が解決していない」のに連載を終了できたのです。井上雄彦氏にとって『SLAM DUNK』は「バスケットボールの啓蒙と普及」が「テーマ」だったとするならば、読み手がバスケットボールに親しんでフィーバーが起こったことで彼の設定した「テーマが表現できた」とも言えます。それなら、あのタイミングで連載が終了してもよかったのです。


 以上のいずれかでも達成していれば「物語がきちんと終わった」と感じてもらえます。

「剣と魔法のファンタジー」なら基本的に「倒すべき敵を打ち負かす」という「目的達成」が条件になるのです。これは「異世界転移」「異世界転生」「VRMMO」のいずれであっても設定されうる条件になります。

「打ち負かす」前に物語が終わってしまうことはまずありません。

 このわかりやすさがライトノベルで「剣と魔法のファンタジー」が支持されるゆえんでしょう。難しい条件がいっさいないのですから。





最後に

 今回は「小説賞・新人賞には完結した物語を応募する」ことについて述べました。

「物語を完結させる」ことは意外とたいへんなことなのです。

 必ず物語を完結させられるよう、まずは長編小説を何本も書いていきましょう。

 連載小説も、初めのうちは長編小説の分割投稿でかまいません。

「終わらせ方」を習得することを優先させてください。



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