584.明察篇:外見を決めるのは小説
今回は「外見」についてです。
登場人物の外見を決めるのは小説です。
「紙の書籍」の表紙や口絵や挿絵、アニメ化やマンガ化などした際、キャラクターデザインを担当する人がいます。
ですが、キャラデザの人にも人物の特徴がわかる情報がなければ、無から人物画を作り上げなければなりません。
外見を決めるのは小説
小説がアニメになったりマンガになったりしたとき、人物の外見はイラストレーターやマンガ家が書くことになります。
「だったら小説を書く私は人物の外見を書く必要はないよね」とはなりません。
キャラデザの基本は小説
イラストレーターやマンガ家がキャラクター・デザインをするとき、参考にするのがあなたの書いた小説です。
赤髪と書かれていたら髪の毛を赤くし、金髪と書かれていたら金色にします。
碧色の瞳であったり蒼氷色の瞳であったり赤色、茶色、栗色、金色、オッドアイと瞳の色も書いておきましょう。
誰よりも背が高いと書かれていたら他キャラより一段背を高くし、誰よりも背が低いと書かれていたら一段低く描くのです。
身長や体重、体型であったりバスト、ウエスト、ヒップのサイズなんかも数字があるのならキャラデザの参考になります。
体に傷跡があったり手術痕があったりするのも、その人物の大きな特徴です。
夏でもないのに黒い肌をしている歌手の松崎しげる氏や落語家の三遊亭円楽氏のような方々も肌の色が大きな特徴になります。
キャラクター・デザインがしやすいように、文中で人物の特徴を書いておくことは必要不可欠です。
平均的・一般的な色や大きさであった場合は省略してもかまいません。
たとえば日本人なら黒髪・黒い瞳、男子高校生なら身長170センチメートル程度、体重60キログラム超くらいが平均的・一般的なので、適合する男子高校生はこれらの情報は書かなくてもかまいません。ただし平均的・一般的なものは時代によって異なるため、長い年月を経ると平均も一般も変わってしまいます。
たとえば七十五年前の戦時中なら男子高校生の平均身長は160センチメートルほどだったようです。他の人物の身長が書いておらず、主人公の身長が160センチメートルと書いてあったとします。七十五年前なら平均的・一般的な身長ですが、今だと平均より10センチメートルは背が低いことになるのです。だからといってさして重要でもない人物の背丈を書くのは繁多で冗長になるだけで、読みやすい小説にはなりません。
無くて七癖
人物の特徴として「クセ」を設定するのもよい試みです。
たとえば緊張すると唇を舐める、イライラすると親指の爪を噛む、貧乏ゆすりをする、頭を掻く、鼻筋を指でなぞる、両手の指先を合わせるといったものが挙げられます。
サー・アーサー・コナン・ドイル氏『シャーロック・ホームズの冒険』の主人公シャーロック・ホームズは熟考するとき椅子の上に座って両手をピッタリと合わせます。横溝正史氏「金田一耕助」シリーズの主人公金田一耕助はフケが飛ぶほど頭を掻くのです。同じ「推理」小説なのに、「クセ」の違いで読み手が受ける人物像つまりイメージが異なってきますよね。
笑うときに「ふっ」と小さく笑ってから大笑いを始めたり、くすくすと笑うようなものも「クセ」のひとつです。だから登場人物が全員くすくす笑うのはおかしい、ということに気づいてください。まぁ名門の女子校などで、クラス全員がくすくす笑う、ということはあるかもしれません。しかし相当条件を絞らなければ、そのような状況にはお目にかかれないでしょう。
地味な服装
現代日本の高校を舞台にした小説を書きたいとします。
すると皆が黒髪で黒い瞳、紺のブレザーを着ているのです。
これでは個性化は図れませんよね。
地毛が茶色の人はかなりいますし、それによって校則で黒く染めなければならない理不尽さも表面化しています。
それに比べれば瞳の色は千差万別です。日本人なら黒い瞳が多いのですが、茶色もそれなりの割合でいます。ハーフやクォーターなら青い瞳もありえるのです。
対して服装は紺のブレザーでまったく差別化が図れません。せいぜい腕まくりをしていたり、シャツのボタンを上からふたつ開けていたり、兄のお下がりでブカブカの制服だったりするくらいではないでしょうか。
衣服で個性を出すには、私服を着る状況を作ることです。それだけで差別化を図り、個性を立てることができます。
しかし私服がやっかいです。
小説を書いている人というのは、ファッションに疎くなります。
だから私服が白と黒とグレーと茶色といった無難なの色合いになってしまいがちです。
赤とかピンクとか黄緑といった派手な色合いやパステルカラーネイルで冒険することはありません。
ですが、売れている作品のキャラクターは派手な色合いの服を着ているものです。
マンガですが藤子・F・不二雄氏『ドラえもん』では、ドラえもんは青、のび太は黄色、しずかちゃんはピンク、ジャイアンはオレンジ、スネ夫は緑とビビッドな色合いにあふれています。
このくらい派手な色合いでも違和感を覚えないのがアニメの特徴です。
あなたはどんなアニメが好きでしょうか。古いアニメは色合いが地味な作品が多いと思います。しかし最近のアニメは色合いが鮮やかで派手な印象を受けませんか。
髪の毛だってピンクや青や緑などビビッドな色合いの作品が多い。
現在の書き手には、文章力の他に色彩感覚も求められます。
色合いだけでキャラクターを書き分けられ、カラーバランスがとれている。
そんな能力が求められています。
イメージイラストを描く
登場人物に施したさまざまな設定は、混乱しないよう「キャラクター・シート」を作って管理してください。
そして絵が描けるのならイメージ・イラストを書いておきましょう。
絵が描けない人は、さまざまなイラストを継ぎ接ぎして「コラージュ」する手もあります。そのためにはコンピュータのペイントソフトを使いこなす技術力が必要ですが。
イラストがあるのとないのとで、書き手の想像力に与える影響は雲泥の差があります。
とくにライトノベルは「キャラクター小説」ですから、人物が明確にイメージできることが最優先の課題です。
また「ライトノベル」を好んで読むようなオタクの中高生はファッションに疎いですから、基本的に「着た切り雀」になります。
とくに男子中高生はそれほど衣服を持っていません。女子中高生は周りがファッションに関心を持っていますから、それなりの枚数は持っていますが、同じ系統の衣服になりがちです。
たとえばフレアスカートだけを五枚持っているとか、ワンピースを十着持っているとか。色やデザインが変わってもスタイルは変わらないのです。
小説の書き手もファッションに疎い人が多いので、いつも同じ衣服を人物に着せてしまうことがあります。
「剣と魔法のファンタジー」が書きたい人なら、それほど衣服のバリエーションにこだわらなくてもよいのです。
現実世界の恋愛小説なのに衣服のバリエーションがないのは致命的といってよいでしょう。特別な日に「勝負服」を着られない主人公が魅力的に映ると思いますか。
イメージ・イラストはラフのような粗いものでかまいません。精密な絵を描こうとすれば時間がかかります。その時間は人物の表現に力を入れたほうがよほど建設的です。
書き手であるあなたのイメージを喚起するようなイラストのレベルであれば申し分ありません。
間取り図と地図を描く
人物を視覚化することは最低限やっていただきたい。
それとともに、部屋や家や学校の間取り図を書くのも、矛盾のないイメージを読み手に抱かせるのに有効です。
アパート住まいならどんな家具があってどこで寝ているのか。一戸建てなら個人部屋は何階のどこにあるのか、台所はどこにあるのか。教室や職員室は何階のどこにあるのか。
連載小説を書いているとき、これらの位置が明確に異なっていると読み手はすぐ異変に気づきます。
また街の位置どりも問題です。最寄り駅と自宅と学校の位置関係はどうなっていますか。駅の北側にあるはずの学校が、ある時点で駅の南側にあるように説明されている。これはよく起こります。
それを防ぐには、地図を書くことです。
もし地図を書くのが面倒なら、地図帳や地図アプリを広げて小説のモデルになりそうな街を見つけましょう。街の雰囲気は『グーグル・ストリート・ビュー』で確認できますので、根気よく探してみてください。
もしそれも面倒なら、いっそのことあなたが住んでいる街をそのまま用いましょう。もちろん地名や固有名詞は都度変更しなければなりませんが、あなたが毎日暮らしている街ですから、どこにどんな店があるのか。裏通りは何本あるのか。商店街の活気はどれほどか。スーパーマーケットがどこにあってどんな商材を取り扱っているか。あなたが住んでいる街が舞台ならイメージも明確ですし、あやふやなところは直接出向いて実情を視察することもできるのです。つまり日々の暮らしがそのまま取材となります。
住んでいる街を舞台にするのは便利なのですが、書き手の所在を読み手に知られることにもなりますので注意が必要です。便利さをとるか秘匿さをとるか。住んでいる街でも固有名詞を変えてしまえばかなりカムフラージュできます。固有名詞をぼかすことで場所を特定されづらくできるのです。
最後に
今回は「外見を決めるのは小説」ということについて述べてみました。
あなたの小説がライトノベルになったとき、表紙や口絵や挿絵を書くのはイラストレーターです。しかし無からキャラを生み出すのではありません。あなたの書いた小説で表現されている情報を頼りにキャラクター・デザインを決めていくのです。
服装がモノトーンや落ち着いた色彩に陥らないこと。ビビッドな色味を積極的に用いるのも「剣と魔法のファンタジー」ではごく当たり前です。
あとは舞台を間取り図や地図として「見える化」しましょう。
書き手が混乱しやすい情報なので、「見える化」することで矛盾が起こらないよう配慮するのです。
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