512.飛翔篇:感情の振れ幅を広げる

 今回は「感情の振れ幅」についてです。

 現在の流行りは「感情に乏しい」主人公が、経験を経て「人並みの感情」を得る物語です。





感情の振れ幅を広げる


 読み手が感情移入する主人公は、できれば「感情豊かな人物」がオススメです。

 感情の乏しい人物に感情移入しても、そこから読み手が受ける物語のイメージも平面的になります。

 感情が豊かなら、楽しいときは笑い、腹立たしいときは怒り、嘆かわしいときは泣く、と読み手の感情をも動かしてくれるのです。




感情の動きが読み手を惹きつける

 ライトノベルで中高生が主人公になりやすいのも、感情表現が豊かだからです。

 大学生にもなるとおちおち泣いてもいられません。

 学生時代に楽しいことを経験してこなかった書き手の方は、主人公の年齢を青年から中年に設定してしまいがちです。

 社会人であれば、仮面をつけて感情をすぐに表すようなことはしません。

 だから感情に乏しい書き手にも書きやすい主人公になるのです。


 主人公だけであればまだいいほうです。

 登場する人物がすべて感情に乏しい作品も存在します。

 すべての人物の感情が乏しい作品は、読み手を惹きつける魅力に欠けるのです。

 これはかく言う私の作品だったりします。これではダメなのです。

 いくら「タイトル」、「キーワード」「タグ」、「あらすじ」「キャプション」に凝って読み手を煽れていても、登場人物の感情が乏しければすぐに醒められてしまいます。

 読み手に熱中して読んでもらいたいのなら、登場人物の感情を豊かにしてください。

 そのためには書き手自身が感情豊かでなければなりません。

 感情に乏しい書き手の書く小説には、感情に乏しい人物しか登場しないのです。

 感情は「喜怒哀楽」と表現されますが、いずれかが欠けても魅力的な小説は書けません。

 人生経験の少ない書き手の作品は、登場人物の人となりの幅が狭いという特徴が見て取れます。


 少なくとも主人公は感情が豊かでなければなりません。

 感情の乏しい読み手は、感情を揺り動かされるような主人公に魅力を感じます。

 主人公の激情を読むと、感情の乏しい読み手も激情を覚えるからです。

 主人公の好きなものを読み手も好きになり、主人公の嫌うものを読み手も嫌う。

 そうです。感情は「同調シンクロ」するのです。

 だから主人公の感情の動きが読み手を惹きつけます。

 スマートフォン全盛の時代であろうとも、インターネットでSNSもゲームもほとんどせずに無料で小説を読む人は、感情を揺すぶってほしいのです。

 ゲームで感情を揺すぶるのは難しいですし、スマートフォンのゲームアプリは課金制ですから都度お金がかかります。

 その点小説投稿サイトの小説は無料で読めますので、より手軽に楽しむことができるのです。

 そして出来のよい小説は、どのゲームよりも感情を強く揺すぶる力を秘めています。




物語に人は惹きつけられる

 人は流れ作業にはすぐ飽きます。代わりに起伏やメリハリのあるものには惹きつけられます。

 スマートフォンのゲームアプリでガチャを回す単純作業よりも、小説を読んだほうが楽しいのです。

 だから物語ストーリーに人は惹きつけられます。

 当初ゲームアプリは射倖性しゃこうせいを煽ることで、高額のガチャを回させ続けたのです。

 しかし総務省から規制が入り、確率表示の義務化へと流れが変わりました。

 そこでゲームアプリに物語ストーリーを持ち込むようになりました。

 現時点で最も成功したゲームアプリはCygames『GRANBLUE FANTASY』(『グラブル』)とTYPE−MOON原作・ANIPLEX配信『Fate/Grand Order』(『FGO』)ではないでしょうか。

『グラブル』『FGO』には物語ストーリーやイベントがあり、必然的にガチャの回数を高められました。

『FGO』は物語ストーリーに定評のあるPCゲームのTYPE−MOON『Fate/sray night』が元なので、物語ストーリー性の高さは折り紙付きです。

 本コラムを読んでいる『FGO』プレイヤーもいらっしゃると思います。

『グラブル』や『FGO』を少し控えて、小説を書いてみませんか。

 時間はかかるでしょうが、うまくすれば『グラブル』『FGO』の次にブレイクするゲームアプリの原作小説を書けるかもしれませんよ。




物語とは感情の動きのこと

「感情の動き(A)」に「人は惹きつけられる(C)」

「物語(B)」に「人は惹きつけられる(C)」

 よって「物語(B)」イコール「感情の動き(A)」ということになります。

 見事な三段論法ですね。

 実際、物語とは感情の動きを伴っていることが多い。

『桃太郎』なら「鬼ヶ島の鬼たちをやっつけよう」という義侠心で成り立っています。

『カチカチ山』なら「騙されたお爺さんの敵討ち」という助太刀でウサギがタヌキを懲らしめるのです。

『シンデレラ』なら「王子様とダンスをしたい」というロマンスで成り立っています。

 異世界ファンタジーでは「勇者が極悪非道な魔王を倒す」という鉄板展開があります。どう極悪非道なのか。その内容を書くことで勇者に感情移入している読み手は感情を動かされます。もうあんなことを起こしてはならない。だから魔王を倒すんだ。

 感情の動きが物語をも動かしていますよね。


 また感情の振れ幅を広げることで、読み手に抵抗感なく物語を受け入れてもらえます。

 読み手は主人公に感情移入して、振れ幅の大きな感情に翻弄されるのです。

 そのダイナミックな感情の揺れ動きが、否応なく読み手に「続きを読もう」と思わせます。

 感情の振れ幅が狭いと、感情移入していても浅くなってすぐに醒めてしまいます。

 最後まで読んでもらえなくなるのです。

 感情の振れ幅が広がれば、そのぶん読み手の感情も大きく揺さぶられますから、記憶にも印象にも残りやすくなります。


 小説ではとくに「感情の振れ幅を広げる」ことに注力してください。

 大衆に支持される小説は「感情の振れ幅が広い」ものです。

 雨木シュウスケ氏『鋼殻のレギオス』も川原礫氏『ソードアート・オンライン』も渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』も、感情の振れ幅が狭かった主人公が、さまざまな経験を経ることで人並みの豊かな感情を持つに至る作品です。

 ライトノベルは中高生が主要層なので感情豊かな世代なのですが、中高生で小説を読むのが趣味な方はどちらかというと感情に乏しい傾向があります。感情が豊かならスポーツや部活動などに励むものだからです。

 ヒットする小説の主人公は「最初は感情の振れ幅が狭く」、物語が進むごとに「感情が豊かになって」人並みになります。

 読み手も主人公に感情移入しながら一緒に感情を揺さぶられて感情が豊かになっていくのです。

 これからの想定すべき読み手層は、多感な中高生ではなく、感情の乏しい中高生だと思ってください。

 その前提に立てば『ソードアート・オンライン』や『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』が大ヒットした理由もわかるはずです。





最後に

 今回は「感情の振れ幅を広げる」ことについて述べてみました。

 これからの小説の読み手は、感情の乏しい中高生です。

 彼ら彼女らの感情を揺さぶって、人並みの感情を身につけてもらえるように小説を書きましょう。

 ライトノベル草創期は読み手にも「勇者願望」があって、感情豊かな主人公が自重を覚えて一人前の「勇者」になるまでが描かれてきました。

 しかし当時と今とでは中高生の精神構造が変わってきたのです。

 それを織り込んで小説を書ければ、ヒットしやすくなります。

 最近流行りの「追放」ものも当初はねてしまい閉鎖的になりますが、あるきっかけで再起を図り、一気に「勇者パーティー」を逆転して爽快感を得る仕組みになっているのです。

 主人公には「実力」はあるが「感情に乏しい」という共通点があります。

 自己主張が少ないために「実力を正しく認めてもらえなかった」わけです。



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