495.飛翔篇:場面転換したらすぐにどこにいるか書く

 今回は「今どこにいるのかを書く」ことです。

 とくに場面転換したら、すぐにどこにいるのかを書きましょう。

 場所が書かれていない小説はあまりにも概念化しすぎてしまいます。





場面転換したらすぐにどこにいるか書く


 主人公が動けば当然いる場所が変わります。

 今いる場所がわからないのに主人公が行動するさまを読ませられても、いまいちピンときません。

 だから場面が転換したら、すぐにどこにいるか書かなければなりません。

 そこがどこにあるのか書かなければ、それは概念だけの世界で存在することになってしまいます。




場所を書かないと概念化してしまう

――――――――

 俺は教室を飛び出ると下駄箱でスニーカーに履き替えて駆けていった。

 隼人を見据えて名前を叫びながら距離を詰める。

 ヤツは俺に気づいて一目散に逃げていく。後ろ暗さのある証拠だ。

 距離はだんだん詰まっていたのだが、あとひと息のところでヤツの自宅へ飛び込まれてしまった。

 帰り際アスファルトの上にコンクリートのかけらが落ちているのを見つける。

 思いきり蹴り上げると、黒塗りでスモークガラスのドイツ車のフロントガラスにあたってヒビが入った。

 俺はすぐに走ってその場から立ち去った。後ろを振り返る余裕なんてこれっぽっちもない。

――――――――

 ひどい例文ですが、この文章で場所は三つしか出てきていません。

 一文目の「教室」「下駄箱」と五文目の「ヤツの自宅」です。

 では「教室」と「ヤツの自宅」とは隣り合わせの場所でしょうか。

 違いますよね。三文目で「ヤツは俺に気づいて一目散に逃げていく。」と書いていますから、どこかで隼人を見つけて追いかけているはずです。

 また通常「教室」「下駄箱」は「学校」の中にあり、「ヤツの自宅」は「街」の中にあります。

 つまり動いているのに場所がわからないため、どのくらい動いたのかや、今どこにいるのかがまったくわからない文章になっているのです。


 概念だけで構成されている空間の中に教室があって、そこから俺が駆けていく。概念だけ走って隼人を見つけ、隼人はそこから逃げ出します。そして概念だけ俺が隼人を追いかけていくと、概念だけの空間にぽつんとあるヤツ(隼人)の自宅へ逃げ込まれた。そして概念だけの場所から帰るときにコンクリート片を見つけて蹴り上げたらドイツ車に傷をつける。概念だけ走ってその場から立ち去る。

 概念の空間で構成されているため、どこになにがあるのかが読み手にはまったくわかりません。




場所を書いて現実化する

 では現実の世界に落とし込んで変換していきます。

――――――――

 俺は教室を飛び出ると出入り口へ向かい、下駄箱でスニーカーに履き替えて駆けていった。

 校庭にいる隼人を見据えて名前を叫びながら距離を詰める。

 ヤツは俺に気づいて一目散に校門をくぐって逃げていく。後ろ暗さのある証拠だ。

 上り坂を駆け上がり距離はだんだん詰まっていたのだが、あとひと息のところで坂の頂上にあるヤツの自宅へ飛び込まれてしまった。

 学校への帰り際アスファルトの上にコンクリートのかけらが落ちているのを見つける。

 思いきり蹴り上げると、道路の上で停止していた黒塗りでスモークガラスのドイツ車のフロントガラスにあたってヒビが入った。

 俺はすぐに走ってその場から立ち去り学校へと戻った。後ろを振り返る余裕なんてこれっぽっちもない。

――――――――

 これだけ場所を書いてあれば、概念だけの空間はかなり少なくなりました。

 それでも「距離」が書いていないので、距離だけは概念になっているのです。

 でも学校から隼人の自宅まで何百メートルあるかなんて書く必要があるでしょうか。たどり着くまで何回横断歩道を渡ったか、信号待ちはあったのか、岐路はいくつあったのか書く必要があるでしょうか。そこまで求めてしまうと、かなり鬱陶しい説明になってしまいます。

 子ども同士で「何年何月何日何時何分何秒地球が何回まわったときの話だよ」と言っているのを聞いたことはありませんか。ご自身が小学生だったときのことも考えてみてください。

 時間にしても距離にしても、数字で出してしまうとかなり緻密な説明になってしまいます。

 ノンフィクションやルポルタージュを書いているのならいざ知らず、あなたが書いているのはフィクションで構成された小説のはず。

 ですから例文では時間と距離は示さず概念とし、場所だけを現実の世界に落とし込んでいます。

 場所を書いてあるだけで、前記の例文よりも具体性が増しているのではないでしょうか。

 これが場所の概念化を防ぐ方法です。

 今回のように一人称視点の場合は、読み手に主人公がいる場所を示すことで、感情移入を妨げないようにしています。

 ですが情報が繁多になりすぎるとかえってわかりにくくなるため、些末なものは概念化しているのです。

 上記の例文では感情移入を妨げないよう、横断歩道や信号や曲がり角や岐路などについてはいっさい説明を省いています。

 どこを現実にして、どこを概念にするのか。

 そのバランスをとるのが「ほどよい説明」には必要なことなのです。




シーンが変わったら都度場所を書く

 以上はひとつのシーン内で主人公が移動しているとき、場所を書くことで主人公がいる場所を概念化させないための手法です。

 シーンが変わったときも必ず冒頭で場所を説明しておきましょう。

 場所が説明されない限り、主人公や人々がどこにいるのかわからず概念の世界で会話をしたり移動したりしていることになってしまいます。

――――――――

「あー、びっくりしたーっ」

 俺は、カバンに教科書やノートなどをしまって急いで帰り支度をした。

「なに慌ててんだよ、深瀬」

「お、玉置じゃんか。いや実はさ――」

――――――――

 前の例文の続きなのですが、突然帰り支度をしていますよね。

 まるで学校までワープしてきたかのようです。

――――――――

「あー、びっくりしたーっ」

 教室に戻ってきた俺は、カバンに教科書やノートなどをしまって急いで帰り支度をした。

「なに慌ててんだよ、深瀬」

「お、玉置じゃんか。いや実はさ――」

――――――――

 今度はきちんと教室に戻っていますので、帰り支度をするのも当たり前ですよね。

 このようにシーンが変わったら、すぐに場所を書きましょう。

 それだけで場所の概念化はかなり防げます。





最後に

 今回は「場面転換したらすぐにどこにいるか書く」ことについて述べてみました。

 シーンが変わったとき、多くの書き手は意識しているのです。

 でも主人公の移動によって場所が変わっているのに、その場所について記載がない。そうなってしまうとそこが概念化してしまいます。

 ここまで書いている「概念化」は劇場の暗幕の前で背景もなくスポットライトに当たっているだけで主人公が動いているようなものです。傍から見ると「なにやってんだよ」と呆れられます。

 だから主人公が移動したら、必ず場所の説明をしてください。

 主人公を概念だけの場所に立たせないよう徹底しましょう。



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