488.飛翔篇:矛盾で惹きつける

 今回は「矛盾」についてです。

 小説投稿サイトとくに『小説家になろう』では「矛盾」した「タイトル」や「あらすじ」のものほど人気があります。

 多くの読み手が「矛盾」を推す心理とはなんでしょうか。





矛盾で惹きつける


 小説投稿サイトとくに『小説家になろう』では、作品の「タイトル」や「あらすじ」「キャプション」において「矛盾」を作っている方が多いように見受けられます。

 とくにハイファンタジーに多く見られますので、そちらでまず分析いたします。




ハイファンタジーに見る、矛盾したタイトルやあらすじ

『小説家になろう』2018年7月25日付ハイファンタジー週間ランキングでは典型的な「矛盾」を作り出しています。

 ■1位 体力9999のSSRスキル持ちタンク、勇者パーティーを追放される / alzon

 これは見たまま「有能」なのに「追放」される「矛盾」です。

 ■2位 S級バフの多重奏! 〜幼馴染パーティーを追放されたバッファーは世界唯一バフを重ねがけできるスキル持ちでした〜 / 速水 小吉

 こちらも「追放」されたけど「世界唯一」だった「矛盾」です。

 ■3位 被追放者たちだけの新興勢力ハンパねぇ〜手のひら返しは許さねぇ、ゴメンで済んだら俺たちはいねぇんだよ!〜 / アニッキーブラッザー

 こちらも「追放」された者が集まって「ハンパない」チームになる「矛盾」です。

 ■4位 卑怯者だとパーティを追放されたので働くことを止めました / 上下左右

 こちらは「あらすじ」のほうで「勇者に裏切られた」ので一人修行して「世界最強」へ成長。一方勇者たちは名声が地に落ち、悲惨な生活を過ごすことに。という具合に裏切った側が落ちぶれる「矛盾」です。

 ■5位 勇者に恋人寝取られ、悪評付きでパーティーを追放された俺、燃えた実家の道具屋を世界一にして勇者共を見下す / 大小判

「追放」と「勇者共を見下す」という矛盾。

 ■6位 役立たずスキルに人生を注ぎ込んだおっさんの逆転ゆうゆうレベル上げライフ / しゅうきち

「役立たずスキル」と「ゆうゆうレベル上げライフ」との「矛盾」です。

 ■7位 皇帝陛下にいらん子扱いされた将軍は、これはまいったと天下を取ることにした / 清露

「追放」と「天下取り」との「矛盾」です。

 ■8位 ここは俺に任せて先に行けと言ってから10年がたったら伝説になっていた。 / えぞぎんぎつね

 こちらは「あらすじ」で「10年間戦い続けて伝説になってしまった最強魔導士」が「正体を隠してFランク戦士に偽装」するという「矛盾」ですね(これはちょっと無理があるかな)。

 ■9位 二重スパイの最強賢者〜勇者パーティを追放された陰の実力者〜 / 月島 秀一

「最強賢者」と「追放」との「矛盾」です。

 ■10位 外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者 / ケンノジ

「外れスキル」と「伝説の暗殺者」との「矛盾」。

 ■11位 不遇スキルの支援魔導士 〜パーティーを追放されたけど、直後のスキルアップデートで真の力に目覚めて最強になった〜 / ツクヨミ

 こちらも「追放」と「最強」との「矛盾」。


 やや「こじつけ」も見られますがこうやって見ていると、「矛盾」がなければランキングに載らないほどの状況になっています。

 どれも一度挫折を味わってからそれを見返すようなパターンの「矛盾」が「タイトル」なり「あらすじ」なりに書き込まれているのです。

 どストレートに「村人」だった主人公が成長を重ねて「勇者」になるような勇者譚はもうウケないということなのでしょうか。




矛盾を推す心理

 このような「矛盾」した作品を推す理由を心理面から読み解いてみましょう。

 読み手自身「実力はあるのだけれども誰にも認めてもらえない。そして新たに再出発をしたら本来の実力が発揮されて最強だったことを認めてもらえる」という、自分を「特別視」したがる俗に言う「中二病」の気質が見受けられます。

 そもそもマンガもアニメも、ドラマも映画も、ゲームもスマートフォンもある世の中で、文字だけで表現される娯楽「小説」を読む人というのは、やはり一般とは言いがたい。

 少なくとも小説投稿サイト『小説家になろう』のハイファンタジーを読むのは、「誰にも自分のいいところを認めてもらえない人」という残念な方たちのようです。

 そのような方たちのために「挫折」と「見返し」の「矛盾」は存在します。

 私としては、コツコツ実力を身につけていく主人公像が響くので、コツコツ型なんだろうなと思わずにいられません。

「矛盾」がウケるとわかっていても、私には書くのが難しいと思います。

 私は養護施設育ちなので、施設内では『アーサー王と円卓の騎士』の話を読んで「自分もアーサーなんだ!」と「特別視」していたものです。しかし、小学校に上がるタイミングで兄弟揃って母親に引き取られたので、そんな幻想はいっぺんに吹っ飛びましたよ。

 現実を知ると幻想なんて、文字どおりただの「幻」にすぎないことを思い知りました。

 だから私には自分を「特別視」するような小説が書けないのです。

「特別視」していた幻想が「破れた」経験をしましたからね。




次の流行りは――

 逆に言うと、現在の流行りである「挫折」と「見返し」の「矛盾」の次に来るトレンドを書けるかもしれません。

 自分を「特別視」していた幻想が「破れた」方たちのための小説が書けるかもしれないのです。

 私の出自は自分を「特別視」していた養護施設での暮らしと、それが「破れた」小学生の頃、そして小学校で一度転校してイジメに遭いますが、元々スポーツが得意だったためイジメに屈したことはありません。近くにジムも設備もなかったので、器械体操の床と鉄棒だけしか練習できませんでしたが、高校の砂場で後方二回宙返りまでは独力でマスターしました。それまでに何度頭から地面や砂に突っ込んだかわかりません。

 だから私には「コツコツ実力を身につけていく主人公像」が響くのです。

『小説家になろう』のハイファンタジーにおける現在のテンプレート「挫折」と「見返し」の「矛盾」には、裏でコツコツと実力を身につけていく「過程」を読ませる描写が必要ではないでしょうか。

 上記ベスト11の中には「コツコツ型」の主人公もいますしね。

 私の経験が生きるとすれば「コツコツ実力を身につけていく主人公」だと思うのです。

 そしておそらく「追放」と「見返し」の「矛盾」に続く次の流行りは「コツコツ型」だと予想しています。

 そのためにも拙著『秋暁の霧、地を治む』の「箱書き」を作らないとですね。

(本「小説の書き方」コラムの執筆に全力をあげていて、2019年8月でもまだプロットで止まっていますけどね)。




現実世界恋愛の場合

 ちなみに『小説家になろう』の現実世界恋愛の週間ランキングを見ると、トップ20の「キーワード」は「スクールラブ」「ラブコメ」だらけです。

 これは純粋に読み手層が中高生であることの反映だと思います。

 このくらい単純でわかりやすいランキングなら、書ける方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 書き手がアラフォーだろうと学校に通っていたことがあるはずですから、少なくとも「スクールラブ」は書けるはずです。

「ラブコメ」は物語のパターンを知らないと書けないので、「ラブコメ」作品をたくさん読んでください。またラブコメアニメやドラマをたくさん観てもいいと思います。

「ラブコメ」の引き出しを増やすことができれば、多くの読み手に響く作品が書けるでしょう。





最後に

 今回は「矛盾で惹きつける」ことについて述べてみました。

 少なくとも現在の『小説家になろう』のハイファンタジーは「挫折」と「見返し」の「矛盾」で成り立っています。

 異世界恋愛の「悪役令嬢」もそのパターンと言えなくもありません。

 でも「コツコツ型」の主人公が響かないサイトなので、書き手としては『小説家になろう』でウケる作品を書くのか、「コツコツ型」の主人公は『カクヨム』などに投稿するのかを明確に選択したほうがよいと思います。



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