465.発想篇:脳内イメージを絵に描く

 今回は「脳内イメージを絵に描く」ことについてです。

 文字だけの場合は特徴的なものを「記号」にするしかないのですが、絵にすればこれから書きたい世界観・舞台や人物の特徴などを見た目だけで読み手に知らせることができます。

 だからライトノベルの表紙には主人公のイラストが載っているのです。





脳内イメージを絵に描く


 アイデアはすでに脳にある情報の組み合わせでしか生まれません。

 しかしその情報が文字である必要はないのです。

 脳内では文字よりも絵のイメージのほうが強く浮かんでいます。

 対象を文字で表そうとしても限度がありますが、絵にすれば余すところなく表すことができるのです。




文字だけなら記号化する

 人物の特徴を思い浮かべるとき、文字として数え上げるよりも、絵として描き出したほうが格段に情報量が多くなります。

 実際、文字で人物の特徴を書いた場合、読んだ人が書き手が思い浮かべた人物像をそのとおり思い浮かべられません。

 もし文字で人物のすべての特徴を読み手に正確に伝えようとしたら、それだけで一章を使い切ってしまいます。

 だから人物の特徴を文字で表すとき、あえて「書かない」ことも必要なのです。

 ですが「書かない」と、登場人物がどんな風体を思い浮かべるかは読み手次第になります。

 それでも書き手は妥協しなければなりません。

「すべてを正確に伝えよう」とせず、とくに際立った情報のみを書くことで、読み手に「記号」を憶えてもらうのです。

「赤髪」「オッドアイ」「義手」といった際立った情報を書けば、その作品の中で「赤髪」と書けばこの人物、「オッドアイ」と書けばあの人物、「義手」と書けばその人物と「記号化」できます。

 しかし「赤髪」が作品中に二人以上出てくるようであれば「記号」にはできません。

 その作品でたったひとりだけ該当する特徴が「記号」となるのです。

 夏目漱石氏『坊っちゃん』(原題『坊つちやん』)では、教頭の「赤シャツ」、美術教師の「野だいこ」、数学主任の「山嵐」など、人物を「記号」で表しています。

 比喩のひとつですが、その作品に該当者がひとりしかいなければ、「記号」で人物を特定できるのです。

 あなたの書く作品には『坊っちゃん』ほどの特徴的な人物は存在しないのかもしれません。

 ですが、あえて「記号化」することで、読み手に小説の印象を深く刻みつけることができます。

 文章にも比喩として「記号」が使えるようになるため、ワンランク上の描写ができるのです。

「記号」が使えるような設定を作り出して、他とは差をつけましょう。




絵は文字よりも物を言う

 それに対し、絵の持つインパクトは計り知れません。

 なにせ一瞥しただけで人物の姿形がわかり、差別化できるからです。

 そして世界観・舞台も同時に伝えられます。

 たった一枚の絵が、書き手と読み手の共通理解をもたらすのです。

 商業ライトノベルの表紙を見れば皆様もおわかりになると思います。

 主人公や「対になる存在」の容貌がたった一枚の絵ですべて説明できてしまうのです。

 小説投稿サイトの機能にもよりますが、表紙絵や挿絵が使えるのなら、積極的に用いましょう。

 人物を説明・描写する能力が低くても、絵一枚で読み手は主人公がどんな人物なのかを思い描けます。

 絵は共通理解を促しますから、登場人物の誰もが「このキャラはこんな見た目」という分け方ができるのです。


 田中芳樹氏『銀河英雄伝説』には実に多くの人物が登場します。

 しかしアニメ化されたことによって「このキャラはこんな見た目」という視聴者の共通理解が生まれました。

 現在新アニメ化されていますが、正直に言って新アニメはキャラの描き分けができていません。

 主人公のラインハルト・フォン・ローエングラムと盟友ジークフリード・キルヒアイスの顔が酷似しすぎなのです。

 違いは髪の色と背の高さくらいなもの。

 その点旧アニメはキャラの描き分けがしっかりしていました。

 唯一ルッツとワーレンの区別がつきにくいというくらいで、他は見事に別人の「記号化」されていたのです。


 アニメ化・マンガ化された小説は、キャラの見た目がそれら映像作品による共通理解によって「記号化」されます。

 渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』(『俺ガイル』)は表紙絵をうまく使って人物の「記号化」をしているのです。

 そしてアニメ化されたことで見た目や声質などが読み手の共通理解を促しています。

 小説とアニメの相乗効果で『俺ガイル』は人気沸騰となり、現在ライトノベルの代表作へと躍り出たのです。




下手でも絵を描こう

 脳内イメージを一度絵に描き出してみましょう。

 ただしあれこれ考えたり構図にこだわったりするとイメージが移り変わってしまいますので、描く時間は五分間または十分間とします。

 五分間、十分間は絵を描くには相当短いです。

 絵が下手でも、五分、十分で描けるものには上手い人と大差ありません。

 上手い人でもアタリを描くくらいしかできないと思います。

 人物も丸と三角と四角で表してかまいません。

 どんな世界が脳内にあるのか。それを絵にすることで、「こういう世界観なんだな」と納得できます。

 結果的に既存の「剣と魔法のファンタジー」であってもまったく問題ありません。

 あなたの頭の中を一度紙やタブレットに描き出すことで、世界観がより鮮明に思い描けるようになります。

 アニメの「キービジュアル」というものを見たことがありませんか。

 アニメの世界観を一枚の絵で表したものです。

 皆様に絵を描いてもらいたいのも、世界観を絵にしておくことでキャラがブレないようにするためです。

 可能であれば「企画書」を作ったときに主人公の「キービジュアル」を描き、「あらすじ」でエピソードを組み入れていく際にもその章の登場人物込みで「キービジュアル」を描いておきましょう。

 慣れてくれば脳内イメージを損ねることなく、書きたい場面を絵にして残しておくことができるようになります。

 絵はどんなに拙くてもかまいません。

 書き手であるあなたが、絵を見ただけで情景を脳裏に思い浮かべられればそれでいいのです。





最後に

 今回は「脳内イメージを絵に描く」ことについて述べました。

 脳内イメージを表に出すことによって、イメージが強化される効果があります。

 イメージを脳内にとどめたままでは、いずれ忘れ去ってしまうのです。

 どれだけ思いが強くても、時間が経てばそのうち忘れてしまいます。

 だからイメージを表に出しておく必要があるのです。

 絵に上手い下手はありません。

 たった五分、十分だけで絵を描きましょう。

 五分、十分で描ける絵はよほどの実力者でなければ大差ありません。



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