410.深化篇:哲学・娯楽・フェチ

 今回は「哲学」「娯楽」「フェチ」についてです。

 単体で考えるとつながりがわかりづらいですが、対になるものをご覧になれば腑に落ちると思います。





哲学・娯楽・フェチ


 一見なんのつながりがあるのかわからないこの三つの単語。

 これは「純文学」「大衆小説」「ライトノベル」に求められる要素を表しています。




純文学には哲学が必要

「純文学」は今ではほとんど見られなくなりました。

「哲学」を語るような人がいなくなったのです。

 日本は現在では多くの人が同じ生活水準で暮らせるようになりました。

 その結果「生きるとはなにか」「死ぬとはなにか」「豊かな暮らしとなにか」「人を愛するとはなにか」「人付き合いとはなにか」「理想的な政治体制はなにか」なんて考える必要がなくなったのです。

 今そういった「哲学」を語っても誰にも響かなくなりました。

 ですが「哲学」がまったく響かなくなったわけではないようです。


 現在はマンガ化された吉野源三郎氏『君たちはどう生きるか』がベストセラーとなっています。

 原著は児童向けに「哲学」を説く「純文学」ですが、マンガ化は羽賀翔一氏が思っていた以上のヒットとなったはずです。

 いくらマンガがヒットしたからといっても、原作の小説がミリオンセラーになったという話は聞きません。

 つまり文字で書かれた「哲学」は読まれませんが、絵で描かれた「哲学」は多くの人に読まれる時代なのです。

 現在「純文学」は廃れましたが、「純文学マンガ」は流行っています。

 マンガの原作として「純文学」があるようなものですね。

 そして新しい「哲学」はもう見当たらないのかもしれません。

 ソクラテスやニーチェなどの西洋哲学、孔子や孟子や老子などの東洋哲学など、数え切れないほどの「題材」に対して「哲学」の観点からさまざまな見解が述べられています。

 それらとまったくかぶらない「哲学」的な見解を述べられるような「哲人」がいなくなったのです。

 世界的には多くの方がなんらかの「宗教」に属しており、その宗教の「哲学」がその人の「哲学」となっています。

 しかし日本は憲法に「信教の自由」が盛り込まれ、戦後に比べても現在は無宗教の方が多いのです。

 寺院や神社は経営難にあえいでいると言われています。

「宗教」に根ざした「哲学」が日本人にはウケなくなったのです。

 では日本人はなにに「哲学」を求めるようになったのでしょうか。

 当初は「純文学」でしたが、現在はマンガとアニメに取って代わられています。

 たとえば『鉄腕アトム』『サイボーグ009』『銀河鉄道999』などから「生きるとはなにか」を学んでいるのです。

 マンガとアニメは「ライトノベル」との相性がいいので、これからの「哲学」は「ライトノベル」で表されると思います。

 今最も読まれている「純文学」は小説投稿サイトの「文学」ジャンルだと言ってもいいでしょう。




大衆小説には娯楽エンターテインメントが必要

|大衆小説」の花形といえば空想科学SF推理ミステリーだと思います。

「大衆小説」に必要なのが「娯楽エンターテインメント」つまり「読めば楽しめる」ことです。

 小説投稿サイトで「SF小説」を読んでいる方は、おそらく現在新作アニメが放送されている田中芳樹氏『銀河英雄伝説』を知っていると思います。

 宇宙を舞台にした政略・戦略・戦術を主とした「SF小説」です。

 政治の駆け引き、戦略の駆け引き、戦術の駆け引きの各レベルにおける戦いが読み手をぐっと惹きつける要因といえます。

 手に汗握る戦闘シーンこそ「読めば楽しめる」要素であり、田中芳樹氏の持ち味です。

 田中芳樹氏は「ライトノベル」にきわめて近い「大衆小説」家のひとり。

 他には冲方丁氏と西尾維新氏が代表でしょうか。

 いずれも時代小説や推理小説などを書いており、「大衆小説」家として広く読まれる書き手です。


 現在「大衆小説」は「ライトノベル」に侵食されており、その境界がきわめて曖昧になっています。

 ここで挙げた田中芳樹氏、冲方丁氏、西尾維新氏などは人によって「ライトノベル」作家として認知されている方もおられるでしょう。

「大衆小説」は「読めば楽しめる」のですが、そこに「特別感」がありません。

「あなたが読めば楽しめる」小説ではなく、「読めば皆が楽しめる」小説なのです。

 読み手としては「自分が読めば楽しめる」作品を読みたいと思います。

 しかし「大衆小説」は広く世間一般の人が「読めば楽しめる」ように書かれているのです。

 そこに読み手の需要との乖離が見られます。

 百万部売れる、まさしく「ミリオンセラー」は少なくなりました。

 それと行き違いで「ライトノベル」の台頭が著しいのです。

「ライトノベル」のスタイルで「大衆小説」が書けるのであれば、読み手を増やすことにつながります。

 住野よる氏の青春小説『君の膵臓をたべたい』は「ライトノベル」のスタイルで書いてあるのです。

 それもそのはず。

 元々『小説家になろう』へ投稿されたものがライトノベル作家の井藤きく氏の目にとまり、双葉社から「紙の書籍」化された経緯があります。

 この事例だけを見ても、「大衆小説」が「ライトノベル」に侵食されていることがよくわかるのではないでしょうか。




ライトノベルにはフェチが必要

 まず認識しておきたいのが、「ライトノベル」は広い範囲を内含しているジャンルだということです。

「純文学」であろうと「SF小説」であろうと「推理小説」であろうと「青春小説」であろうと、「ライトノベル」のスタイルで書けばすべて「ライトノベル」になります。


 では「ライトノベル」のスタイルとはどういうものでしょうか。

 一文改行や地の文と会話文の間に空行を入れるなどの見た目もあります。

 ですがとくに「書き手」のこだわりを感じさせる情報が載っていることがたいせつです。

「書き手」のこだわり、つまり「フェチ」です。


 たとえば書店を経営された方が書店経営の情報を小説に書いても、それは「フェチ」にはなりません。

 多くの人がそのような情報に情念を抱いているわけではないからです。

 そうではなく「眼鏡」「メイド」「スクール水着」「細くて白い指」「細い眉」「うなじ」「腋の下」「巨乳」といった、いわゆる「属性」が「フェチ」の要素になります。

 書店経営の情報は「属性」でしょうか。違いますよね。だから「フェチ」ではないのです。

「金髪」「オッドアイ」「爆乳」「眼鏡」「ブラコン」といった「属性」をいくつキャラにくっ付けるか。

 そういった「属性」を細かく書き分けることで、「書き手」のこだわりが「フェチ」になるのです。

 読み手はそういった「属性」イコール「フェチ」が読みたいから「ライトノベル」を読みます。

『小説家になろう』ではキーワード、『ピクシブ文芸』ではタグ、『カクヨム』ではキーワードやタグの名称で、小説に含まれている要素をいくつか検索に引っかけられますので、そこに「属性」イコール「フェチ」を必ず書いてください。


 小説投稿サイトに投稿される作品は、たいていが「ライトノベル」扱いされます。

 また読み手も小説投稿サイトには「ライトノベル」を求めているのです。

 たとえ「ライトノベル」としては書いていなくても、作中に出てくる「属性」イコール「フェチ」があれば、必ずキーワードやタグに書きましょう。

 それだけで格段に読まれるようになります。





最後に

 今回は「哲学・娯楽・フェチ」について述べてみました。

 現在の文壇はいまだ「純文学」が幅を利かせていますが、実売では「ライトノベル」が右肩上がりで成長し続けているのです。

 芥川龍之介賞や直木三十五賞があるので、当面は「純文学」が大きな顔をしていられます。

 しかし芥川賞・直木賞を獲っても実売で「ライトノベル」の連載に負けるのであれば、もはや使わなくなった漬物石のようなものです。

「ライトノベル」は書店におけるコーナーの割合が十年でほぼ二倍に増えています。

 このペースで伸び続ければ、そう遠くないうちに「純文学」「大衆小説」と互角の棚を与えられるでしょう。

 そのとき「ライトノベル」は日本の出版界での主役に躍り出るのです。


 ちなみに『ピクシブ文芸』で開催された小説賞「ピクシブ文芸大賞」の受賞作・小林大輝氏『Q&A』は、「文芸」と付くだけあって「大衆小説」でした。

「ジャンルは不問(オリジナルの一次創作のみ)、文芸小説に特化したネット文芸サイトです。」と書いてあるように、廃れゆく「文芸」つまり「純文学」と「大衆小説」の受け皿として作られたのが『ピクシブ文芸』なのかもしれません。

 となれば「ピクシブ文芸大賞」も「文芸」である「大衆小説」が獲って当たり前だったのですね。

「ライトノベル」ははなから眼中にないのでしょう。

「ピックアップ」欄を見ても、「ライトノベル」と思しき作品はいっさい載っていません。

 オリジナルの一次創作である「ライトノベル」を投稿したければ、他の小説投稿サイトにしましょう。

 たとえば「ライトノベル」に強い『小説家になろう』『カクヨム』に投稿することをオススメします。



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