384.深化篇:結末をはっきりさせる

 今回は「読後感」についてです。

 小説を読み終わったとき、後味がよかったのか悪かったのか。

 それが「読後感」です。





結末エンディングをはっきりさせる


 小説は「結末エンディング」があって初めて終わります。

 最も盛り上がる「佳境クライマックス」を書き終わったから満足、というのでは「読み手に向けて書いた小説」としてはお粗末です。

 どのように「結末エンディング」へと導いていくのか。

 最後の「完」「了」「終劇」などの文字を読むまでが「小説」なのではありません。

 その先に広がる空白で「なにを思うのか」、それが「小説」の味わい方です。




結末エンディングを読んだ読み手にどう感じてほしいか

 書き手は読み手の「読後感」にまで責任を持つべきです。

 では「読後感」とはいったいなんでしょうか。

 冒頭で述べましたが「完」「了」「終劇」などの文字の、その先に広がる空白で「なにを思うのか」、これが「読後感」の正体です。


 皆様は完結している小説を読み終えた後、どのような気持ちになりましたか。

 たとえば水野良氏『ロードス島戦記 灰色の魔女』つまり『ロードス島戦記』シリーズの第一巻だけを読み終えたらどんな気持ちになるでしょうか。

『ロードス島戦記』は当初単巻の作品でしたが、すでにPC雑誌『コンプティーク』で第二期リプレイが始まっていましたから複数巻を睨んでいました。

 そのうえで『ロードス島戦記 灰色の魔女』だけを読み終えたときの気持ちを思い出すのです。

 カーラとの戦いに勝っても、ドワーフのギムを亡くした主人公陣営はその後どのような行動に出たのでしょうか。

 主人公パーンとハイエルフのディードリットはカーラに乗っ取られたウッドチャックを追う旅に向かいます。

 ファリス教の神官エトは聖国ヴァリスへ戻り、体制の立て直しと復興に尽力します。

 残されたスレインはギムが遺した髪飾りを、それまでカーラに肉体を乗っ取られていたレイリアの髪に挿します。そしてレイリアを彼女の母ニースの待つターバの町まで連れて行くことになるのです。

 主人公陣営で残された四人はそれぞれ未来へ向けて進んでいきました。

 それを知ることにどのような意味があるのか。

 小説が終わったとき、主人公陣営の四人が「結末エンディング」の先へと進んでいることを確認しておきたかったのです。

 それにより「読後感」は「この物語の先が読みたいな」と思わせることに成功しています。




銀河英雄伝説の読後感

 とっくの昔に完結したのに、いまだに続編の希望が絶えない田中芳樹氏『銀河英雄伝説』の「読後感」はどのようなものでしょうか。

 この作品の素晴らしい点は、小説の序盤からすでに小説正伝十巻より先の話に言及している点です。

『銀河英雄伝説』の主人公であるラインハルト・フォン・ローエングラムは最後に亡くなってしまいます。

 その直前、帝国の「双璧」のひとりウォルフガング・ミッターマイヤー元帥は、養子であるフェリックスと妻を病室に連れてくるようラインハルトに言われるのです。

 フェリックスと妻エヴァンゼリンを伴って病室に帰ってくると、ラインハルトの息子で二代皇帝となるアレクサンデル・ジークフリードを伴ったヒルデガルド皇后がともに待っていました。

 ラインハルトはアレクサンデルとフェリックスを親友とするため、死の間際に二人を呼んだのです。

 そしてラインハルトが死に、ミッターマイヤーはフェリックスを抱いて夜空を見上げるのです。

 するとフェリックスが星々に向かって手を伸ばして星を取ろうとします。

 そこで締めとなる言葉を残して正伝は終了するのです。

 では「読後感」を検証してみましょう。

 まず二代皇帝アレクサンデル・ジークフリードが帝位に即くまでヒルデガルド皇后が政治権限を有するようになることが事前にラインハルトの口からユリアン・ミンツに語られています。これはラインハルトの死後の話ですよね。

 二代皇帝アレクサンデル・ジークフリードとフェリックスは親友になれたのだろうかも気になりますよね。親友になったとして、成長したときに名君と盟友になれたのだろうか。やはり気になります。これらも正伝には書かれていません。

 ラインハルト死後に「獅子の泉の七元帥」の次席となるナイトハルト・ミュラー上級大将は、自由惑星同盟およびイゼルローン共和政府・通称「八月の新政府」(とくにフレデリカ・グリーンヒル・ヤンとユリアン・ミンツ)に人脈があり、正伝終了後外交関係を取り仕切ったのではないかと推察されます。

 他にもウルリッヒ・ケスラーがラインハルト死後にマリーカ・フォン・フォイエルバッハと結婚するなど、物語はある時点で終わっているのにもかかわらず、その先の情報がたくさん詰め込まれてあるのが『銀河英雄伝説』の特徴です。

 そのため、いまだに「続きが読みたい」と読み手から強く要請される小説となりました。

 これが『銀河英雄伝説』の「読後感」なのです。

 小説を書く以上、やはり『銀河英雄伝説』のような「読後感」を醸し出し、読み手に「もっと続きが読みたい」と思わせるような作品を目指しましょう。

 目標は高いに越したことがありません。

 田中芳樹氏であれば最近最終巻が発売された『アルスラーン戦記』の「読後感」もぜひ味わってください。

 こちらは近作なので具体的な「読後感」は書けません。

 皆様自身に体験してほしいと思います。




読後感の後味

 後味のよい読後感を醸し出すには、物語の後の時間で起こる前向きな出来事をたくさん詰めることです。

 後味の悪い読後感を醸し出すには、挫折したまま物語を終えてしまうことです。

 簡単に説明するために、マンガのほったゆみ氏&小畑健氏『ヒカルの碁』を参照致します。

 まず「後味のよい読後感」は、主人公進藤ヒカルがプロになってライバルの塔矢アキラと初めて対局した場面です。

 ここでヒカルがアキラへ「sai」について少し匂わしていたところ。そこで連載が終わっていればすべてが前向きな状態で物語を終えられます。

 次に「後味の悪い読後感」は、北斗杯で日本チームが韓国チームに敗れて「佐為がいれば負けなかったのに」とヒカルが挫折したまま物語を終えてしまったところです。

 これでは後味がよくなることなどありません。

 すっきりとした「後味のよい読後感」で終われたはずなのに、「後味の悪い読後感」で終わってしまいました。

 ある意味「最悪の読後感」と言っていいでしょう。

『ヒカルの碁』は連載中の評判がとてもよく、このマンガで囲碁を始めた子どもが続出したほどの影響力を有していました。

 しかしTVアニメ化が決まって、連載が予定していたところで終了できなくなってしまったと思われます。

 そのため必要以上に連載が伸びてしまい「最悪の読後感」となってしまったのです。

 物語性の高い作品でしたから、予定調和で終われたところから話を伸ばしてしまうと、どうしても後味が悪くなるのは否めません。

 ですが、もうちょっといい終わらせ方があったはずなのに、それを無視して「後味を悪くさせて」終わらせたようにも見えます。





最後に

 今回は「結末をはっきりさせる」ことについて述べてみました。

 「結末エンディング」がはっきりとしていれば、そこから「読後感」が生まれます。

 「後味のよい読後感」にするのか「後味の悪い読後感」にするのか。

 その裁量は書き手にあります。

 しかし読み手としては、前もって「後味」がよいのか悪いのか教えてほしいですよね。

 ですので小説投稿サイトでは「キーワード」「タグ」などで「ハッピーエンド」「バッドエンド」と明記しておくことをオススメします。

「ハッピーエンド」で「後味のよい読後感」を読み手が読みたいのに、「バッドエンド」で終わってしまったら、読み手としていい気はしませんよね。

 だから前もって「ハッピーエンド」なのか「バッドエンド」なのかを示しておくべきなのです。



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