383.深化篇:対になる存在から作る

 今回は「対になる存在」から物語を作ってみます。

 あなたの小説の主人公は、いつも同じ性格をしていませんか。

 それは「主人公」から作っているからです。

 書き手の想像が及ぶ範囲でしかキャラは生み出せません。

 ではどうするか。「対になる存在」から作って「主人公」を導き出してみましょう。





対になる存在から作る


 私は基礎篇で主人公を決めてから「対になる存在」を作るように書きました。

 ここでは逆に「対になる存在」を先に決めてから、主人公を作る方法を書きます。

 主人公がどんな人物なのかわからないため、とても面白いキャラクターに仕上がることがあるのです。

 執筆するたびに毎回同じような主人公しか出てこないようでは、読み手がすぐに飽きてしまいます。

 飽きさせないためには、主人公の属性をいつもとは別な方法でひねり出すことが必要です。

 そのためには「対になる存在」から考えていくのも「あり」です。




対になる存在を決める

 小説を書きたいけど、どんな主人公がウケるのかわからない。

 だから小説を書きたくても書けないんだ。

 こういう方って必ずいらっしゃるはずです。

 では「対になる存在」から作ってみましょうか。


 最低限まずジャンルを決めなければなりません。

 恋愛でもSFでも推理でもかまわないので、あなたの書きやすいジャンルに決めてしまいましょう。

 ここでは「ハイファンタジー」を選んでみます。

『小説家になろう』では読み手の数が段違いですからね。

『ピクシブ文芸』『エブリスタ』なら「女性向け恋愛」を選びましょう。

『カクヨム』も基本的には「異世界ファンタジー」と「現代ファンタジー」が人気です。

「ハイファンタジー」の「対になる存在」と言えばドラゴン、魔王、魔神などが思い浮かびますよね。

 他にも「不死なる者の王」なんていうのも中二病心をくすぐるのではないでしょうか。

 どんな「対になる存在」を選べば面白くなりそうかという観点から小説を書くのです。

 ここでは「魔王」を選んでみます。

「対になる存在」を「勇者」にして、主人公を「魔王」にしてもかまいません。

 要は書き手自身が「面白くなりそうだ」と思えるかどうかです。

 この「魔王」はどんな性格や特技があるのでしょうか。

 またどんな欠点や弱点を持っているのでしょうか。

 これを決めていきます。

「自分以外の者をすべて下に見る」タイプの性格で、「時間を止める」などの強大な魔法を用いることができる。

 でも強大な魔法は連発できないので、一度使わされてしまうと二の矢三の矢が放てないという欠点がある。

 またとある人物に好意を寄せていて、その人物とは戦いたくないという弱点がある。

 背丈は二メートルだが実体が現世に存在しないので、倒すには異空間にある実体を攻撃できる武器が必要だとします。

 だんだん中二病っぽくなってきたようです。

 まだまだ書きたいものがありますが、ここは私の妄想を次々と発露する場ではないので、先に進みます。




主人公を決める

 では「対になる存在」から主人公の人となりや特技などを考えてみましょう。

 まず一般論ですが、小説での「対になる存在」は、主人公とはほとんどの点が正反対です。

 断定すべきではないので、「ほとんど」という言葉を使いました。

 つまり「対になる存在」が「自分以外の者をすべて下に見る」タイプなら、主人公は「自分以外の者にへりくだる」腰の低い人物像になるでしょう。

「対になる存在」が「時を止める」などの強大な魔法が使えるのなら、主人公は「魔法はいっさい使えない」ことになります。

 ということは戦士や騎士のような存在が思い浮かびます。

「へりくだる」性格を強調したいのであれば、ここは騎士を選ぶべきでしょう。

 強大な魔法が連発できないのであれば、仲間が多いに越したことはありません。

 パーティーの人数を増やすか、いっそ騎士団対魔王の構図にするのも面白いと思います。

「対になる存在」が好意を寄せる人物は、主人公の騎士が仕える王女というのはどうでしょうか。

 なにやら主人公と「対になる存在」がリンクし始めたような気がしませんか。

 そしてもし魔王の容貌が王女の好みのタイプだったらどうでしょう。

 魔王と戦っている最中に、王女が止めに入るのが目に見えるようですね。

 物語が行き先不明になって俄然面白くなるかもしれません。

「対になる存在」の背丈が二メートルなら、主人公はやや背が低いほうが見た目の対比ができて良いと思います。

 主人公には「対になる存在」の「異空間にある実体」を攻撃する術がないことにします。

 そうなると「異空間にある実体」を攻撃するためのアイデアが必要です。

 たとえば「異空間に飛び込んで実体を攻撃する」だったり「異空間にある実体を斬れる魔剣を手に入れる」だったり。

 これは伏線として使えそうなので、いずれかの段階で伏線を仕込む必要がありますね。


 どうでしょうか。

 先に「対になる存在」の設定を決めてから主人公の設定を詰めていく作業は、やっているうちになぜか楽しくなってきますよね。

 これから自分がなろうとしている主人公を、自分の発想ではなく「対になる存在」から連想することで「未知の存在」として生み出しているのです。

 これでワクワクしてこないようなら、小説を書くのはかなり難しいと言わざるをえません。

 一人称視点の小説は、書き手が主人公へ適度に入り込まないと書けないのです。

 あなたが入り込みたくなるような主人公を作るために、あえて「対になる存在」から作ろうとしています。

 だから「対になる存在」から主人公を生み出していく過程がワクワクしてこないようでは、読み手も思わず読みたがるような小説は書けないのです。




対になる存在を主人公にするのも面白い

 せっかく「対になる存在」から創作したのです。

 いっそ「対になる存在」を主人公にしてしまうのも「あり」でしょう。

「魔王」が主人公のライトノベルやマンガは結構あります。

 和ヶ原聡司氏『はたらく魔王さま!』や丸山くがね氏『オーバーロード』あたりから派生して小説投稿サイトで一大勢力を築いているのです。

 とくに『小説家になろう』では「異世界転生」したら「魔王」だったという設定の作品が数多くあります。

 テレビドラマのピーター・フォーク氏主演『刑事コロンボ』や田村正和氏主演『古畑任三郎』などの倒叙的推理ものは、刑事が真実を求めて「犯人」と会話を繰り返しますから、「犯人」が主役と言ってもよいでしょう。

 今だとマンガ・かんばまゆこ氏『名探偵コナン 犯人の犯沢さん』が「犯人」を主人公にしています。

 結構面白いので、やはり倒叙的手法には一定の読み手層がありそうですね。





最後に

 今回は「対になる存在から作る」ことについて述べてみました。

 主人公から作るとどうしてもワンパターンな人物しか作れない書き手の方がいます。

 その場合、発想を転換して「対になる存在」から作ってみましょう。

 出来あがった「対になる存在」と真逆な人物を作れば、それが主人公になります。

 主人公から作ったときよりも個性のある主人公が作れるはずです。

 もし「対になる存在」が魅力的に作れたのなら、いっそ「対になる存在」を主人公にすることも考えてください。

 発想は柔らかなほうがよいですからね。




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