298.短編篇:キーワードで世界観が定まる
今回は「キーワード」についてです。
なぜ短編小説の最後に「キーワード」を持ってきたのか。
それは多くの設定を「キーワード」一つで省いてしまえるからです。
これが「短編小説の裏技」になります。
※なお今回で本コラムも百万字を突破致しました。これからも字引としてご利用いただければと存じます。(『カクヨム』様はすでに超えています)。
キーワードで世界観が定まる
今回のサブタイトルはひょっとすると頭に「?」マークが付いている人がいるのではないでしょうか。
カンのいい方また小説を読み慣れている・書き慣れている方ならすぐに「ああ、あれね」と得心しているはずです。
小説の中でもとくに短編小説やショートショートは分量との戦いになります。
その限られた分量の中に「キーワード」を用いるのです。そうして世界観を固めてしまいます。そうすれば、あえて舞台・世界観に分量を割り振らずに済むのです。
ファンタジーの世界観を定めるキーワード
たとえば「魔法」「呪文」「魔法使い」「魔術師」「魔導師」「魔女」「奇蹟」「僧侶」「神官」「盗賊」「賢者」「ドラゴン」といった単語を見れば、たいていの方が「この小説は異世界ファンタジーなんだな」と判断します。
「戦士」もファンタジーを感じさせますが幅が広すぎて「異世界ファンタジー」の「キーワード」としてはちょっと弱い印象を受けるのではないでしょうか。
「剣士」だと宮本武蔵や柳生十兵衛や新撰組のような日本の「歴史小説」「時代小説」を感じさせませんか。
「闘士」だとスペインの闘牛士やローマの剣闘士(グラディエーター)のような物語を連想させますよね。
それをいったら「僧侶」なんて日本では広くお坊さんを指しています。
「魔女」も「奥様は魔女」などちょっとした魔法が使える現代劇として使えるのです。
だから単に「僧侶」「魔女」という「キーワード」が出てきたから即「異世界ファンタジー」小説と決めつけることは難しいと思います。
ですが小説の冒頭三ページ(千字)以内に「戦士」「魔術師」「僧侶」「盗賊」と出てくれば、小説を読み慣れている方ならすぐに「異世界ファンタジー」だと判断するでしょう。
コンピュータゲームを楽しんでいる方々もやはり「異世界ファンタジー」を連想すると思います。
これらが「異世界ファンタジー」の世界観が定まる「キーワード」です。
田中芳樹氏のSF小説『銀河英雄伝説』では自由惑星同盟側の主人公ヤン・ウェンリーに「魔術師ヤン」という異名を付けています。
これはあくまでも異名です。
「SF小説」であることが明確であり、その用兵手腕が「魔術師」と称されたにすぎません。
『銀河英雄伝説』の本伝において「異世界ファンタジー」を連想させる単語はこの「魔術師」と「奇蹟」(ヤンには「奇蹟のヤン」という異名もあります)くらいなものです。
とくに短編小説で「異世界ファンタジー」を書きたい方は、舞台・世界観を説明する紙幅を省くためにも「キーワード」を冒頭に出しましょう。
SFの世界観を定めるキーワード
「ファンタジー小説」と並んで舞台・世界観を詳細に説明しなくてはならないジャンルがあります。
「SF小説」ですね。
たとえば「ロボット」「アンドロイド」「サイボーグ」「電脳」「ハッカー」「VRMMORPG」「量子」「素粒子」「ロケット」「宇宙船」「月面」「オービタルリング」「軌道エレベーター」「コールドスリープ」「ワープ」「銀河」「ブラックホール」「赤色矮星」「星雲」といったメカニック分野や電子分野や宇宙関連の単語を見れば、たいていの方が「この小説はSFなんだな」と判断します。
ただし今「アンドロイド」という単語を用いると「スマートフォンのOSのこと?」という若者が少なくありません。
またそのためにGoogleから「意匠権の侵害」と訴えられかねない状況です。
でも「アンドロイド」という名称はGoogleが使うより前から用いられています。
映画『ブレード・ランナー』の原作として有名になったフィリップ・K・ディック氏の1968年発刊『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』で題名に使われるなど今では一般名詞化しているのです。
「スマートフォンのOSの名称」として「アンドロイド」という名称を用いなければ訴えられてもまず勝てます。
一般的にこれを見たら「SF小説」だと決めつけられる一語は「宇宙船」です。
「宇宙船」が出てくる「異世界ファンタジー小説」をあなたは読んだことありますか。
私は今のところないですね。
ゲームならいくつか知っています。
たとえばスクウェア(現スクウェア・エニックス)『FINAL FANTASY』シリーズであればタイトルに「ファンタジー」と付いていますがスチームパンクであったり「宇宙船」が出てきたりと、「これでファンタジーなんだ」と苦笑いした経験ならあります。
現実世界で宇宙船といえば「国際宇宙ステーション」通称「ISS」が真っ先に挙げられ、少し古いですがアメリカの「スペースシャトル」やロシアの「ソユーズ」、アメリカの月面探査船「アポロ」も挙げられるでしょう。
「キーワード」をタイトルにそのまま用いたものとしては前述した『銀河英雄伝説』やマンガの松本零士氏『銀河鉄道999』、マンガの石ノ森章太郎氏『サイボーグ009』などが挙げられます。
「ロボット」といえばマンガの藤子・F・不二雄氏『ドラえもん』『キテレツ大百科』のような小さなところからアニメの富野由悠季氏『機動戦士ガンダム』『伝説巨神イデオン』といった大きなもの、アニメ・ビッグウエスト『超時空要塞マクロス』といった全長1.2キロメートルもある巨大なものまで多種多様です。
こちらもとくに短編小説で「SF」を書きたい方は、舞台・世界観を説明する紙幅を省くためにも冒頭で積極的に「キーワード」を出しましょう。
少し不思議な世界観を定めるキーワード
「ファンタジー」のようで「SF」のようなものに「超能力」があります。
「人の能力を超えた力」ということですから、これも世界観を書く必要があるのです。
「超能力小説」として「ファンタジー」や「SF」と同じように「キーワード」がいくつかあります。
ずばり「超能力」「超能力者」と書くのが手早いのですが、「サイキック」「サイキッカー」「ESP」「エスパー」「テレパシー」「テレキネシス」「テレポート」「瞬間移動」「タイムリープ」といった単語を書けば「超能力小説」であることがすぐにわかるのです。
タイトルにそのまま用いたものとしてはマンガの藤子・F・不二雄氏『エスパー魔美』、マンガ・安童夕馬氏&朝基まさし氏『サイコメトラーEIJI』が挙げられます。
「超能力」を使うけどタイトルにはしなかったマンガの聖悠紀氏『超人ロック』やマンガの竹宮惠子氏『地球へ…』、「超能力」を「個性」と言い換えたマンガの堀越耕平氏『僕のヒーローアカデミア』といった例もあります。
「タイムリープ」ものでは、知らぬ人がいないほどの名作である筒井康隆氏『時をかける少女』を真っ先に思い浮かべた方も多いのではないでしょうか。
谷川流氏『涼宮ハルヒの憂鬱』にもタイムリープ話がありましたね。
日本語はキーワードの宝庫
小説に「キーワード」が必要であることはこれまで述べてきました。
「キーワード」の最たるものが「俳句」の「季語」です。
「季語」が出てくることで「季節」がわかります。
またどのような状況なのかも見えてくるのです。
「キーワード」ひとつで舞台・世界観を表現してしまいます。
十七文字しか使えない「俳句」で編み出された「季語」という名の「キーワード」。
これを小説に利用しない手はありません。
「季語」が「俳句」だけのものである必然性などないのです。
小説の中へ読み手に気づかれないよう「季語」を織り交ぜていく。
それができれば「文学性」を高めることもできます。
「純文学」私が言うところの「文学小説」は「季語」を巧みに使いこなす書き手が目立てるジャンルです。
「季語」は一万語以上あります。
どんな「季語」があるかは『歳時記』という「季語」を集めた書籍にまとめられていますので、一冊手元に置いておくとよいでしょう。
日本語は「キーワード」の宝庫なのです。
最後に
今回は「キーワードで世界観が定まる」ことについて述べてみました。
短編小説で舞台・世界観を書こうとするとどうしても分量が多くなります。
その「説明」をどれだけ削れるかで物語の内容が増してくるのです。
削るためには「キーワード」を的確に使いましょう。
「ファンタジー小説」「SF小説」「超能力もの」を例としましたが、それ以外でもジャンル固有の「キーワード」はあります。
「戦争小説」「戦記もの」なら「剣」「刀」「弓」「盾」「鎧」「槍」「騎馬」「騎士」「銃」「大砲」「戦車」「戦闘機」「攻撃機」「爆撃機」といった「キーワード」が挙げられるのではないでしょうか。
「異世界ファンタジー小説」に出てくるものも多いですね。
「推理小説」「ミステリー小説」なら「死体」「被害者」「凶器」「鑑識」「刑事」「警察手帳」「探偵」「聞き込み」「アリバイ」「トリック」といった「キーワード」が思い浮かびますよね。
「キーワード」を適切に用いれば舞台・世界観の説明はほとんど省けるのです。
まさに「キーワード」の字義そのもの。
短編小説よりもさらに短いショートショートではこれらの「キーワード」を用いなければ成立しません。
そのくらい「キーワード」が持つ力は絶大なのです。
ぜひ「キーワード」を存分に使いこなしてくださいね。
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