271.表現篇:体験気づき類推

 今回は私の体験談をもとに小説の主人公はどのようにして行動を選択しているのかを考えてみましょう。





体験気づき推測


 現在なにかを体験したとします。

 するとその人は過去を振り返って関連したことがなかったか。それを探し出してきて同じか似たような体験を過去にしてきたことに気づきます。

 過去がこうだった。現在はこうなった。だから未来はこうなるのではないか。

 これが生物の中で最高の記憶力を誇る「人類」の考え方です。




過去から教訓を得る

 過去を振り返って同じような似たような体験をしてこなかったか探します。

 つまり過去に思いを馳せるわけです。

 それで同じような似たような経験を探り当てると、現在起きた出来事から受ける体験が過去の出来事とリンクします。

 これにより「過去はこうだった」「現在はこうなった」という分類ができるのです。

 同じであれば「やはりこういう場面ではこういう結果になるんだな」と教訓を得られます。

 異なっていた場合「過去の状況はこうだった。現在の状況はこうだった」かを精密に分析して、因果関係を明確にする必要があります。

 そうでなければ脳が納得できるような関係性を持って分類できないからです。


 たとえば「生物の学年末テストですべて○×問題が出された」とします。

 しかし問題を問いていくごとに×ばかりが埋まってくる。

 多くの人はここで「×ばかり続いて不安に思う」はずです。

 そしてすべての欄を埋め尽くしたら○が二割弱、×が八割強あったとします。

 そしてこんな問題を出したのは通常の試験でもパズルを出すなどとてもユニークな教員です。

 成績のよい生徒ほど「これはどこかに○が必ず存在するはずだ」と感じて「どこが○になるのか」を探し始めます。

 私は生物の試験ではこれまでだいたい80点から98点くらいまで幅のある点数をとっていたのです。設問数は90。私の回答は×が76個、に○が14個ありました。

 では私はどのような将来の判断をすべきでしょうか。


 まず私は生物のテストでいつも満点を取りに行って八割強の点数をとっています。

 であれば、私の回答には二割弱の誤りが存在することになるのです。

 そこで「絶対に×のものを明確にしていく」作業を始めます。

 すると七割弱は確実に「×」だと自信を持って言えました。

 では「絶対に○だろう」と思う設問を探していきます。

 結果として「絶対に○だろう」と思えるような答えは二個まで絞り込めました。

 残りは「○の可能性が高いかもしれないし、×の可能性が高いかもしれない宙ぶらりんな状態」になっています。

 そこで思い出してほしいのが「私は生物のテストでいつも満点を取りに行って八割強の点数をとっていた」ことです。

 つまり「○か×かがわからない」不確かなものが点数を押し下げていた原因なのではないか。

 そう思い至りました。

 そこで宙ぶらりんな状態の設問を「すべて×」にすることにしました。

 「普通のテストであれば八割強の得点がとれる」わけです。

 だから仮に「○か×かがわからない」ままにして満点が取れるのであれば、宙ぶらりんを「すべて×」にして結果すべて外してしまっても八割強の得点はとれるだろう。と判断したのです。

 そこで「○か×かがわからない」ものを「すべて×」にしたのです。

 となれば残りの「絶対に○だろう」が残ります。


 そこで考えなければいけないのは「この問題を作ったのが、過去の試験でもパズルを出題するなどとてもユニークな教員だった」ことです。

 つまり「なにかの落とし穴が待ち構えているのではないか」と私はひらめきました。

 そこで試しに「絶対に○だろう」と思う設問も「すべて×」にしました。

 仮に正解が「○」であったとしても「すべて×にする」ことで失うのはたかが二点です。

 先ほど決断した「八割強の正解率でも、疑わしいものはすべて×にする」ことに加えて仮に「絶対に○だろう」も含めて「全設問の答えが×」である可能性は高いと思います。

 また予想が外れても八割強の得点が獲れることは私の経験が証明していました。

 だから私は「全設問の答えが×」へと回答を変えました。

 結果として生物の学年末テストにおいて、○×問題の回答は「すべて×」だったのです。

 しかもこの仕掛けは二学年同時に行なわれ、全問正解したのは私だけ。つまり完全に私の読み勝ちでした。


 私よりも頭の良い人は「自分の答えには自信がある」から「疑わしいものを疑わず自分の記憶を信じる」ことで「何問かは必ず○がある」と思い込んでしまいました。

 ですが実際には「全設問の答えが×」だったのです。

 頭が良いことはいいことですが、「進んでリスクを取りにいかなくなる」というデメリットを生み出すことがわかりました。

 私はいつも満点を目指して八割強だったから勝負に出られた面があります。

 つまり「最初から二割弱は捨ててもいい」と判断できたのです。

 過去の例を思い出し、リスクをとってもよいと判断できたからこそ掴めた全問正解でした。

 これが「過去から教訓を得る」ということなのです。




過去の教訓から未来を暗示する

 小説では「これから起こる未来はこうなるだろう」という推測を書いてはいけません。

 小説の途中で結末が読めてしまったら、読み手はその瞬間に小説を読み続けようという意欲が断たれます。

 それまでの展開がどれだけ読み手を煽っていたとしても、結末が透けて見えたら途端に失敗です。

 だから「現在起こったことを体験」し、「過去を振り返ったら、そういえばこんなことがあったなと気づく」ことをしても、その先にある「未来を明示」することを書いてはいけません。

 未来は読み手の想像に任せましょう。

 そのほうが読み手を小説に協力させることもできます。


 そうして読み手が想像していることを超える展開にするのです。

「こんなどんでん返しがあったのか!」「こんな解決法があったのか!」という展開を読ませることができたら。

 あなたの小説は多くの方から「いい作品でした」と言ってもらえるようになります。





最後に

 今回は「体験気づき推測」について述べてみました。

 会社の報告書や学校のレポートなどでは最初に「未来はこうなるだろう」と書くことで、読み手に先の見通しがわかるようにします。

 ですが小説の場合、「結末エンディングはこうなる」と書いたら、その瞬間からもうその小説は読まれなくなります。

 読まなくても結末エンディングがわかっているからです。

 ムダな時間を費やすほど読み手は暇ではありません。

 小説は「最後の一文」に至るまでの過程を楽しむ娯楽なのです。

 決して読み手に手の内を明かさないでくださいね。



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