141.応用篇:剣と魔法のファンタジーは中世ヨーロッパ?
今回は「剣と魔法のファンタジー」というと「中世ヨーロッパの世界」だと思われていることについてのお話です。
「中世ヨーロッパ」という意見には私はちょっと批判的です。
剣と魔法のファンタジーは中世ヨーロッパ?
よく「剣と魔法のファンタジー」の世界観を「中世ヨーロッパ」風と表現します。
しかし「剣と魔法のファンタジー」と現実の「中世ヨーロッパ」とはかなり違っているのです。
今回はそんな違いをテーマにしてみます。
中世ヨーロッパとは
まず「中世ヨーロッパ」という言葉からです。
『Wikipedia』によれば西暦5世紀から15世紀と定義されています。これはひじょうに範囲が広いです。そして一般的に「剣と魔法のファンタジー」は「中世後期」の14世紀から15世紀と見なせます。
ですが実際の「中世後期ヨーロッパ」は「剣と魔法のファンタジー」ほど発展していません。
「剣と魔法のファンタジー」に近しいのはだいたい16世紀の「近代初期ヨーロッパ」です。
大航海時代を前にして、銃器や科学が発達する直前といったあたりになります。
技術が銃器や科学に発達するか魔法に発達するかで「近代初期ヨーロッパ」と「剣と魔法のファンタジー」に分かれていくと考えていくのが妥当でしょう。
「中世ヨーロッパ」はジャンヌ・ダルクが活躍した剣や槍などが主体となった時代なのです。
金属板鎧が普及したことで武器はエストックやレイピアなど金属板の隙間から相手を刺し貫くようなものへと変化していきます。ロングソードやブロードソードといった剣では金属板鎧を断ち切るのが難しくなったからです。
レイピアなどとは逆に刃を大きくして金属板ごと切断してやろうという発想からグレートソード(ツーハンデッドソード)やバトルアックスやハルバートなどの大型武器を持つ兵士も増えました。
また兜をかぶっていても頭部に致死ダメージを与えられるメイスやフレイルなどの打撃武器を持つ兵士も増えたのです。
多くの「剣と魔法のファンタジー」の世界観は「近代初期ヨーロッパ」を土台にして銃器や科学でなく魔法が発達した世界観です。
銃器や科学が発達した「近代初期ヨーロッパ」は『三銃士』や『ベルサイユのばら』のような世界と言えます。
銃器が発達したせいで金属板鎧では弾丸が貫通してしまうため、急所のみを分厚い金属板で防御するなど鎧の軽装化が一気に進みました。
なにせ『三銃士』が主に使っていた武器はフルーレですからね。
たいていの「剣のみのファンタジー」は「中世ヨーロッパ」か「古代中国」に準拠しています。
ですが銃器や科学の代わりに魔術が発達した世界であれば、それはもう「中世ヨーロッパ」として表すのは困難で、本来なら「近世初期ヨーロッパ」の世界となり「魔法に対抗する鎧」が存在するべきなのです。
よって「剣と魔法のファンタジー」を説明するとき「中世ヨーロッパ」と表現することに私は違和感を覚えます。
だからといって皆様の「中世ヨーロッパ」風という言葉を否定したいわけではありません。
現に私もよく用います。
現実を知って、そのうえで「中世ヨーロッパ」風と表現するというのであればそれでいいのです。
「中世ヨーロッパ」と「近世初期ヨーロッパ」の違いは「銃器と科学」の有無だといっていいでしょう。
それなら「中世ヨーロッパ」と「剣と魔法のファンタジー」は「魔法」の有無であるべきだと思います。
だから「剣と魔法のファンタジー」は「近世初期ヨーロッパ」が舞台だと個人的には思っています。
社会に見る違い
東ローマ帝国の滅亡により、それまで抑圧されていた各国が復興し、大航海時代や宗教改革などが行なわれたのが「近世ヨーロッパ」です。
ヨーロッパ各国がとても活気に満ちた時代だったと言えます。
未発達な地域を次々と植民地化していった時代とも言えるでしょう。
社会や国家像から見た「剣と魔法のファンタジー」は「中世後期ヨーロッパ」風の閉鎖的な支配体制であったことがわかります。
ヨーロッパ各国は王政を布き、小競り合いが起こっていたという時代背景があるのです。
その点だけを見れば「剣と魔法のファンタジー」は「中世後期ヨーロッパ」のような世界であっても不思議はありません。
「マキャベリズム」という言葉で有名なニッコロ・マキャヴェッリ氏が活躍していたのも中世後期です。
彼が『君主論』を著したことからも当時のヨーロッパが王侯君主政であったことは疑う余地がないと思います。
(民主共和政にも言及しているため、すでに革命が起こった地域もあったようです)。
前述どおり「近世初期ヨーロッパ」は大航海時代を迎えて植民地獲得を競っていました。
故に各王国間の小競り合いは中世後期よりも起きていません。
各国が貿易で稼いでいたという側面もあるのだと思われます。
このように社会システムを見れば「剣と魔法のファンタジー」は重苦しい「中世後期ヨーロッパ」といっていいでしょう。
ファッションに見る違い
「華やかなドレスをまとった王女」が登場する「剣と魔法のファンタジー」であれば基本的に「近世ヨーロッパ」が舞台です。
「中世後期ヨーロッパ」では王女であろうとそれほど派手なドレスというものは作られていません。
「女性の地位」がある程度確立したのも「近世ヨーロッパ」からなのです。
女性の地位が低いのにドレスが豪華などというのは時代錯誤と言ってよいでしょう。
当然社交界が華やいだり舞踏会が行なわれていたりしていたのも、貴族や商人が豊かになった「近世ヨーロッパ」からなのです。
拙著『暁の神話』
私が『ピクシブ文芸』に投稿している『暁の神話』という小説では魔法を出していません。
「剣を主体として戦うファンタジー」を徹底して作り込んでいます。
これが本来の「中世ヨーロッパ」風の小説だと思うからです。
もし魔法が出てしまったら、それはすでに「中世ヨーロッパ」から発展した世界になってしまいます。
『暁の神話』の後に『伝説(仮題)』という長編小説を予定しています。
こちらは『暁の神話』から時代が進んで魔法が出てくる世界です。
ですから「剣と魔法のファンタジー」は「近世初期ヨーロッパ」風だと私はとらえています。
でも世の「剣と魔法のファンタジー」は防具の主流が相変わらず金属板鎧だったり、剣や槍もたくさん出てきたりするのです。
書き手都合だなと思います。
『暁の神話』では意図的に魔法を出していません。
ただガリウス将軍に「異民族の使う魔法のよう」といった言葉を語らせています。
これは『暁の神話』と同時代の異国伝や続編の『伝説(仮題)』で魔法を出そうという意図があるからです。
魔法を取り込んだことで王国の文化レベルが向上し、人々の生活が豊かになる。
銃器や科学による技術革新で「近世ヨーロッパ」へと進んだように、魔法による技術革新で発展する「異世界ファンタジー」という位置づけです。
そのほうが説得力があるのかなと考えました。
最後に
今回は「剣と魔法のファンタジーは中世ヨーロッパなのか」について述べてみました。
社会システムは「中世後期ヨーロッパ」といえますが、兵器の発達度合いやファッションなどは「近世初期ヨーロッパ」といってよいでしょう。
この乖離は「中世後期ヨーロッパ」から銃器や科学が発達したのが「現実世界」であり、魔法が発達したのが「剣と魔法のファンタジー」と解釈すると納得できるかもしれません。
「魔法のほうが科学よりも効率がよく、魔法が社会インフラの源である」と考えれば、大航海時代に乗り出すよりも国内のインフラ整備を進めていても不思議はないのです。
このように「剣と魔法のファンタジー」は現実のどの時代が当たるのか。
一度図書館などで検証してみるのもよいでしょう。
『小説家になろう』で一般的に用いられている「剣と魔法のファンタジー」の世界観は「ナーロッパ」と揶揄されています。
ほとんどの異世界ファンタジーは「ナーロッパ」準拠だからです。
その世界観が他の小説投稿サイトにも流出しているのですが、やはり「ナーロッパ」と呼ぶべきかもしれません。
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