48.中級篇:矛盾を作らないために

 ショートショートや短編で矛盾を作る人は少ない。

 でも中編から長編また連載していけばどうしても矛盾のような状態が生じることがあります。

 そのときは素直に謝りましょう。





矛盾を作らないために


 基礎篇で「キャラ設定も舞台設定も必要最小限だけ決めればよい」としました。初心者はそうしないと書き出せないからです。

 でも中級以上を目指す場合はなかなかうまくいかなくなるケースがあります。




矛盾

 「矛盾」という言葉は「どんな盾でも貫ける矛」と「どんな矛でも貫けない盾」とを同時に売っている商人に対して「ではその矛とその盾を突き合わせたらどうなるのかね」と指摘したという故事から来ています。

 人物キャラクター設定を粗く作ってあって、ある場面で細かな設定が必要になった際、その部分だけ付け加えていくと破綻しにくいのです。

 舞台設定も粗く作ってあって、ある状況で細かな設定が必要になった際、その部分だけを付け加えるのも同様です。

 このように書いていけば論理的に食い違うことは少なくなります。


 ただ長期連載ともなれば、ある時点で「あれ、この展開はこの設定だと使えないはず」という状況に直面するのです。

 つまり「矛盾」が生じてしまいます。

 でも注意深く展開と設定を切り分けていくと、ほとんどの場合うまい落としどころが見つかります。

 そのために「粗く」作ってあったのですから。

 最初から細かく決めてあると、かえって「矛盾」が生じやすくなります。




設定を細かく決めてあると

 設定を作り込んだほうが筆の進む書き手なら、最初にすべての設定を決めておくべきでしょう。

 書き始めたら後は出来事イベントを起こしてキャラが勝手に動いてくれるのを待つだけ、という書き方がとれます。


 ただこの書き方だと書き手からは「小説の結末エンディング」がまったく見えなくなります。

 連載しているときは惰性でいくらでも続けられるでしょうが、いざ「この連載を終了してください」と担当編集さんから言われたときに、どう決着させるべきかが見出だせなくなるのです。

 三百枚の長編小説賞の要項を満たした小説を書く場合も同様で、途中がいかに「矛盾」なく大いに盛り上がっているのだけれど、三百枚までにうまく書き終えられないという事態を招きます。

 つまり「設定を作り込んだがためににっちもさっちもいかない」状態を生み出すのです。

 さながら「どんな盾でも貫ける矛」と「どんな矛でも貫けない盾」という設定を細かく作ってしまったがために起こる状況ということになります。

 つまり「矛盾」が生じてしまうのです。





矛盾の解決策

 設定を細かく作り込んでから筆に任せて書いていったら、かえって「矛盾」が生じた。これはよくあることです。

 また設定は粗く作ってあって、連載を進めていくにつれて必要最小限の設定を付け加えていった結果「矛盾」が生じた。かなり長期にわたる連載であればこれもよくあることです。

 それだけに解決策がないわけではありません。

 それは「例外」です。




例外

 「例外」とは文字どおり「ここは元々こういう設定だけど、この状況では例外的にこのようにする」ということです。

 ライトノベルが好きな読み手であれば真っ先に思いつくであろう「例外」は鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』の主人公・上条当麻ではないでしょうか。

 「レベル0(無能力者)」である当麻は高レベル者を容赦なくぶん殴ります。

 それができるのも彼に与えられた「例外」である「幻想殺しイマジンブレイカー」があるからです。

 無能力者なのに「幻想殺しイマジンブレイカー」が使えるという「矛盾」を持つ主人公。

 でも『とある魔術の禁書目録』を、相手のどんな能力も打ち消して説教垂れた挙句にぶん殴るという単純明快な物語にするには、どうしても「幻想殺しイマジンブレイカー」という「例外」が必要だったのです。

 だから学園都市の住人をレベル0から5まで細かく設定してあるのに、その最低であるレベル0に「幻想殺しイマジンブレイカー」を持たせる「例外」を設定しています。

 これは物語の根幹部分からの「例外」なのでかなり特殊なケースですが、他の一般的な物語でもやはり「例外」は存在します。




寓話は例外の宝庫

 桃太郎はどうやって犬・雉・猿さらに鬼と日本語で会話できたのでしょうか。

 浦島太郎はどうやって亀と話せたのでしょうか。話せたのみならず亀に跨り素潜りで龍宮城まで行っています。さらに海の中なのに龍宮城で楽しく乙姫からのもてなしを受けるのです。どうやって息をしていたのでしょうか。


 寓話は「例外」の宝庫といってもよいでしょう。

 『シンデレラ』だってネズミとカボチャが馬車になりますよね。

 「魔女の魔法」という「例外」を使って。かなりの「ご都合主義」といえます。

 『白雪姫』では「王妃の毒リンゴ」が物語を進めるための「例外」となっているのです。

 だって毒リンゴを食べて死んだはずが、王子様が白雪姫を運び出そうとしたら「偶然」蹴つまずいて白雪姫が毒リンゴを吐き出して生き返ります。

 そもそも食べて消化されたから死んだのではないのか。

 それが喉に引っかかっていたのがとれて生き返るなんて「ご都合主義」以外のなにものでもありません。

 ほとんどの寓話は「例外」によって物語が成立しています。





矛盾回避のための例外

 「矛盾」を回避するために「例外」を持ち出すことも古今よく見られることです。

 ただ、あまり「例外」の数が多いようだと読み手は「ご都合主義」を見抜いて物語から一気に醒めてしまいます。

 「例外」は一つの小説で一つだけという具合にあらかじめ決めておいたほうがよいでしょう。


 マンガの青山剛昌氏『名探偵コナン』では「APTXアポトキシン4869」という薬で高校生探偵の工藤新一が小児化して江戸川コナンになりました。

 現実でこのようなことが起こるはずもないのですが、そういう「設定」なのでよしとしましょう。

 そして江戸川コナンが風邪をひいているときに「白乾児パイカル」という酒を飲んだら一時的に無効化されて高校生に戻ります。明らかに「例外」です。

 その後、宮野志保(灰原哀)も同様の方法で復活しています。

 さらに宮野志保によって解毒剤の試作品が作られ、工藤新一も宮野志保も何度か一時的に元の年齢まで戻っています。

 「例外」のオンパレードです。

 それでも『名探偵コナン』が「ご都合主義」の興醒めを起こさないのは、この手の復活パターンが週刊連載にもかかわらず数年に一度しか出てこないからではないでしょうか。

 すべてのエピソードで復活していたのでは、読み手は確実に興醒めしてしまったはずです。

 それが数年に一度しか起こらない。

 だから復活劇は読み手から「待ってました」と歓迎されるほどなのです。





最後に

 今回は「矛盾」と「例外」について述べました。

 分量が多くなればなるほど設定が増えていきます。

 最初に粗く設定してあったものが徐々に細かく決められていく。

 その結果ある時点で「矛盾」が生じるのです。


 「矛盾」を打ち破るのは「例外」しかありませんが、あまり使いすぎると「ご都合主義」に陥ります。

 できれば「矛盾」が露見する前に「例外」の手を打っておくことです。

 そうすれば「矛盾」だったものが「矛盾」でなく「設定どおり」ということになります。


 あとは書き手がいかに早く「矛盾」になりそうかを嗅ぎ分けられるか。

 その嗅覚にかかっています。

 こればかりは本数を書いて体得する以外ありませんので、三百枚の長編を何本も書いてください。


 また、小説投稿サイトで連載を始めてもいいと思います。

 連載を進めていけば、まず間違いなく「矛盾」が生じてくるものです。

 「このまま進めると矛盾になるな」と気づけず「矛盾」を引き起こしたならば、連載中であっても読者にすぐに謝罪してください。

 本文を読んでもらう前に謝っておけば、読み終わった後で謝られるよりも印象はよくなります。



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