第63話 音信不通のわけ

【麻友】

         1

 映画デートの翌日、コウくんの家に行く約束を(半ば強引に)取りつけた。

 庭にあるという置物を見せてもらうためだった。

 遊びに行くのとは違うけど、男の子の家に行くなんてちょっとドキドキした。

 そのことをゆうかさんにメールで伝えると、『偶然のふりして鉢合わせしちゃいます?♪♪♪』と言われた。

 少しだけ悪戯心がうずいた。

 でも「君が早く帰らないからだ」とコウくんが不貞腐ふてくされてしまうかもしれない。

 それに、

『ゆうかさんのことは、お兄さんから、ちゃんと紹介してもらいたいな』と思った。

『確かにそうですね♪ ちなみに麻友さんのことは「彼女の黛さん」って紹介されたいですw』

『そうなるといいかもね』

『あれ? やっぱり結構脈ありですか?』

『あはは。どうかなぁ。少なくとも、お兄さんの方にはその気はなさそうだよ?』

『私、ときどき思うんですよ。お兄ちゃんは馬鹿なんじゃないかなってw』

『お兄さんにはお兄さんなりに、思うところがあるんじゃないかな』


         ※

 数日後、コウくんの家にお呼ばれした。

 と言っても、約束通り庭を見せてもらっただけだ。

 それでもわたしは大満足だった。

 庭の隅っこの方にあったワニの置物が最高に可愛かった。Tシャツにプリントしたいくらい!

 もしかしたら…と思ったけど、ゆうかさんと鉢合わせることはなかった。

 帰路の途中でスマホに届いたメールによれば『結構な勢いでニアミスでした…(泣)』らしい。

 ゆうかさんの残念がる姿を想像して思わず笑みが零れそうになった、

 まさにそのとき―――


「うッ!!!」


 突然腹部に激痛を感じ、わたしは道ばたにうずくまってしまう。

 幸いにも、近くを歩いていたおばさんが声をかけてくれた。

 そして、脂汗まみれで痛みを訴えるわたしのために救急車を呼んでくれた。


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 検査の結果、盲腸と診断された。

 先生から提示された選択肢は二つ。

 薬で散らす(抗生物質で炎症を抑えること)か、入院して手術をする。

 前者は完全に治るわけではなく、再発の可能性もあるらしい。

 でも手術をするのはやっぱり少し怖い。

 どちらにしてもわたしの一存で決めるわけにはいかなかった。

 病院の公衆電話から両親に連絡をすると、即決で入院→手術コースとなった。

 バタバタと入院の手続きと準備をして、さっそく翌日に手術をすることになった。

 わたしの心境は次のようなものだった。

 えっ…明日?

 待って待って!

 いくらなんでも早過ぎない?

 だって手術だよ! 手術!

 まだ心の準備ができてないよっ!

 しかし、わたしの心の叫びは届くはずもなく、手術は一切のとどこおりもなく終わった…。

 入院期間は一週間くらいとのことだった。

 体の一部を切除してるのに、たったそれだけで済んじゃうものなんだなぁ…

 あれだけ(心で)叫んでいたわたしも、あっけらかんとそんなことを思っていた。

 学校の方には親から連絡がいってるはずだからいいとして、

「コウくんに心配かけちゃうなぁ」

 わたしたちはお付き合いしてるわけではないし、一週間くらい音信不通になったとしても平気だとは思うけど…

 一応、ゆうかさんから伝えてもらうことはできる…。

「でもなぁ…」

 そんな形でわたしたちが知り合いだったことがバレるのは、なんか嫌だなぁ。

 ちなみに、わたしが入院していることは、ゆうかさんにも連絡していない。

 盲腸で入院って、なんだかちょっとだけ、恥ずかしい気がしちゃって…。


         3

 結局、ゆうかさんにも内緒にしたまま三日が過ぎた。

 わたしは院内の「携帯電話使用可能エリア」で何事もなかったようにメールを続けていた。


         ※

 四日目の夜。

『もしかして、お兄ちゃんと喧嘩でもしましたか?』

『えっ? ううん。そんなことないよ? どうして?』

『なんか、お兄ちゃん最近ちょっと元気ないかもって思って。麻友さんは何か気づきませんか?』

『ごめんね。最近ちょっと事情があって、裏山には行けてないんだ』

『そうなんですか? じゃあ、麻友さんに会えないから元気がないってことですねw』

 もしそうなのだとしたら、ちょっとだけ嬉しいかも…。

『そうかなぁ』

『絶対そうですって! 次に会ったとき、寂しさで募った気持ちが抑えきれなくなって…ついに告白ですね♡』


         ※

 六日目の夜。

『お兄ちゃんのこと、本当に嫌いになったりしてないですよね?』

『そんなことないよ。明日からは裏山に行けそうだから心配しないで』

 明日の午後には退院の予定だった。

『良かった~! 家でのお兄ちゃんのしょぼくれ方がもうハンパなかったんですよ~w』

『心配かけちゃってごめんね』

『いいえ。いいんです♪ でも、実は麻友さんの事情っていうのはちょっと気になってます…』

 ちょっと恥ずかしいけど、結構心配かけちゃったみたいだし、ちゃんと話しておいた方がいいかも…。

 そう思って『明日の午後には退院なんだけどね』と遅すぎる報告をした。

『私、いいこと思いついちゃいました♪』

『えっ? いいこと? なになに?』

『ぬっふっふ~♪ ヒ・ミ・ツで~す♡』

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