第58話 ○○さん

【浩一】

         1

 今日は恋人の「麻友さん」が高校時代の友達に会うことになっている。

 妹のように可愛らしい親友だそうだ。


         ※

 僕が麻友さんのことを麻友さんと呼ぶようになったのは、つい最近のことだ。

 さすがにいつまでも「君」では格好がつかないと思い、なんと呼べばいいのか、本人に聞いてみた。

「んー? なんでもいいよ」

「それが一番困るよ。具体的な例を挙げてみて」

「じゃあ、まゆゆ?」

 …ドヤ顔が腹立つわ。

 でも…やっぱり、可愛い…。

「他には?」

「まゆりん」

「他」

「まゆまゆ」

「………」

「ま―――」

「おっけー。参考になったよ。ありがとう」

“まゆまゆ”に聞いた僕が間違ってた。

「素敵な呼び名を期待してるよー☆」

 何か言われた気がするけど、気にしない気にしない。

「まゆゆ」や「まゆりん」「まゆまゆ」は論外として、個人的には好きな女性(ひと)のことを呼び捨てにはしたくない。

 でも、ちゃん付けは、なんか違う気がするんだよな…。

 じゃあ、麻友さん…?

 恋人なのだからファーストネームで呼びたいとは思うけど、名字の方でも一応考えてみるか…。

「黛さん」………他人行儀!

「黛ちゃん」………業界人!

「まゆちゃん」………名前じゃん!

「まゆさん」………やっぱり名前じゃん!

「ずみちゃん」………しっくりこないっ!

「ずみさん」………アレだ。気象予報士。

 あれこれ考えた結果、やっぱり麻友さんが一番いい気がする。

 ある程度の敬意は払いたいし、さん付けくらいが丁度いいだろう。

 早速そのことを報告すると、当の本人は「ふっつー!」と笑い転げていた。

「でもコウくんらしくて“いい”と、わたしは思いますっ。えへん☆」

 そう言われなければ、軽くショックを受けていたかもしれない…。

 ちなみに僕は「コウくん」というのも、ふっつーだと思う…。彼女には言わないし、笑い転げたりもしないけど。

 こうして無難に麻友さんと呼ぶことになったのだけど、(無難とはいえ)実はまだ少し照れくさい。


         ※

「今頃、麻友さんは友達と楽しくやってるかなぁ」

 そのとき僕のスマホがメールを着信した。


『今から親友のところに行ってくるよ。』


 そう言えば、友達に会う前に元カレのお墓参りに行くと言っていたっけ。

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