第57話 微笑み

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 夏美とは、コウくんと出会った数日後に仲直りを果たした。

 猫ちゃんとコウくんのお陰で絶望から立ち直れたわたしは、どうせ一度捨てるつもりだった命なのだから怖いものなどない、と以前よりも前向きな気持ち(と言っていいのかな)になっていた。

 その日の昼休み、わたしはいつかのクラスメイトのように、学食などへ向かう子たちが教室を出る前に教壇に立って声を上げた。

「みんな聞いて!」

 クラス中の視線がわたしに向けられる。

 久しぶりに授業以外で声を発したわたしに対する戸惑いや、訝(いぶか)るようなものがほとんどだった。

 それでもわたしはひるまなかった。

 しんと静まりかえった教室で、わたしは“もう一人のわたし”のことを思い出していた。

“彼女”の分まで精一杯、やれることをやろうと思った。

「信じてもらえる自信がなくて今まで言えなかったけど…わたしは潔白だよ! 今更だっていうのは分かってる。…でも。でもやっぱり! わたしはみんなのこと、大切な友達だって思ってる! …だから、仲直り、したい…!」

 いつの間にか涙がにじんでいた。

「本当はあのとき、すぐに否定するべきだった…。前にも信じてもらえなかったことがあったから、それが怖くて、言えなくて…。みんなに信じてもらえない怖さを味わうくらいなら……何も言いたくないって。そう、思って…」

 言葉と涙がせきを切ったように溢れ出してくる。

「わたしはッ―――」


「もういい。…もういいんだよ」


 わたし以上に涙で顔をぐしゃぐしゃにした夏美が優しく抱きしめてくれた。

「ナツは最初からずっと信じてた」

 小さいけど温かい手でわたしの背中をさすってくれた。

 彼女のぬくもりと、その言葉に、わたしは救われた。

 ずっとそうしていてほしいと思った。

 でも夏美はわたしから離れてしまう。

 目が合うと、

「おかえり。マユちゃん」

 彼女は微笑んだ。


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 夏美のお団子にうりうりされまくってから一時間後。

 ファミレスで軽食を取りながら、わたしたちは久しぶりのガールズトークに花を咲かせていた。

 大学での授業の様子や、変な癖の教授の話。

 サークル活動についての話。

 好きな音楽やファッションの話。

 他にもたくさんの話をした。

 一通り盛り上がった後、夏美の親戚に赤ちゃんが生まれたという話を聞いた。

 だっこさせてもらったら、今、結婚願望がハンパないらしい。

 そこから恋人が欲しいという話になって、更にわたしの恋人の話題へと飛び火…。

 そういうわけで、わたしは今、恋人のことで質問攻めにあっている…。それも結構長い時間…。

「へぇー、二人は素敵な出会いだったんだね」

「う、うん。まぁ、そうかな」

「ところでマユちゃん。彼氏さんの写メとかないの?」

 えっ? それ、今聞くの?

 大体は真っ先に聞かれるんだけどなぁ。

 夏美はどこか抜けてるなぁ。…ふふっ。

「半年以上も付き合ってるんだから、ないわけないよねぇ♡」

「そりゃまぁ…」

「見せて見せて!」

 くりくりお目々を輝かせる夏美に、つい、ちょっとだけ意地悪をしてみたくなってしまった。

「んー、どうしよっかなぁ…」

「えー、いいじゃーん。見せてよぅ」

「そんなに見たい?」

「見たい見たい!」

「でも、見ても面白くないんじゃないかな。彼、ザ・普通の人って感じだもん」

「面白くなくてもいいの! 見たいの!」

「本当にイケメンでもなんでもないよ? ドラマの通行人とかにいそうな感じ」

 ちなみに、本心。全部。

 えへん☆

「それでも見たいの♪」

「そこまで言うなら仕方ないな~」

 写メを表示させたスマホを夏美に渡す。

「おおぉぉぉおおぉお! こっ、これが…マユちゃんの彼氏さんっ♡ ナツからマユちゃんを奪った諸悪の権化だッ!」

 諸悪の権化って…。

「ね? 普通でしょ」

「うん。想像以上にふつーだね。ふつーに、

いい人そう。でもナツはそれが一番だと思うな」

 わたしもそう思う。

「この写メ、ナツのスマホに送ってよぅ」

「それはだ~め」

 夏美からスマホを取り上げる。

「ちぇっ、マユちゃんのけちぃ~」

 口を尖らせて抗議した夏美が何かを思い出したようにハッとする。

「そう言えば…」

「ん?」

「彼氏さんのお名前はなんていうの?」

 えっ? それこそ、今聞くの?

 って言うか、言ってなかったんだっけ…。

 まっ、いっか。

 改めて教えてあげよう。


神崎かんざき浩一こういちくん、だよ」

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