第56話 親友

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 気がつけば結構な時間が経っていた。

 久しぶりにコウくんとの思い出の場所に来たものだから、感傷にふけっちゃったな。

 この後は友達と会うことになっている。

 もちろん、女の子だよ。

 わたしにはもう新しい恋人がいるんだから。えへん☆

 ただ、その友達もただの友達ではない。

 言うなれば、親友。某・ガキ大将風に言うなら「おお! 心の友よ!」だね。

 でも会うのは結構久しぶりなんだ。

 本当はもっと会えればいいんだけど、地元も大学も違うから仕方がない…。

「ふふっ」

 年下みたいに可愛らしいその子の笑顔を思い出すだけで自然と頬が緩んじゃう。

 普段メールや電話でやり取りをしているときも、たまに、にやけちゃってることはその子には内緒だよ?

 本当に大好きな親友。

 彼女も同じように―――ううん、きっとそれ以上にわたしのことを大好きだと言ってくれる。

 今日はたくさん話をしよう。

 もし出会い頭に抱きつかれたら、わたしも彼女をギュッてするんだ。

 前みたいに「困った子」だなんて決して思わない。


 よし、行こう。

 またそのうち、この思い出の場所を訪れよう。

 コウくん。

 今から親友のところに行ってくるよ。


         ※

「マ・ユ・ちゃ~んっ♡」

 駅前で目が合った瞬間、ぽてぽてと駆けてきた上原夏美は周りに人がいることを物ともせず、わたしにダイブしてきた。

 うん。予想通り。えへ―――

「あふんっ」

 夏美の頭頂部のお団子がわたしの鼻の辺りに当たって変な声が漏れてしまう。

 前言撤回。

 予想以上だったね。うん。

 夏美は頭上のことに気づいていないようで、そのまま、すりすりしてくる。

 当然、お団子もうりうりと当たっている。

 くすぐったい。

 でもシャンプーの良い香りがする。

 でもやっぱりくすぐったい。

 鼻がふがふがする…。

 やばい、くしゃみ…が……

 ―――出ちゃっ

「へっくしょいっ!」

 かろうじて顔を反らして夏美の頭上に色々なものを飛ばすのだけは防いだ…と思う。

 驚いた夏美が顔をあげる。

「ほえ?」

 ほえ? じゃない。

「お団子が鼻に当たってたのっ」

 悪びれる様子もなく「ごめんねぇ」と言っている子には、こちょこちょの刑でお返しするのが丁度いいかな。

 よぉし…

「お返しふぁ」

「だ」と言い切る前に、またうりうりされた。

 わたしはあっさりと反撃の意思を失い、その後はもうされるがままだった…。

 やがて一通りわたしを堪能した夏美が満面の笑みで言った。

「会いたかったよ! マユちゃん♡」

 わたしたちはそのようにして、久しぶりの再会を喜び合った。

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