第53話 出会い

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 ふいに気配を感じ、俯き加減になっていた顔を上げて、ゆっくりとそちらを向く―――

「!」

 声や表情には出さなかった(と思う)けど、わたしは内心かなり驚いていた。

 男の子がいたのだ。

 知らない男の子。

 わたしのことをジッと見つめている。

 なんだか分からないけど、固唾かたずを呑んで見守っているという感じだ。

 まさか裏山に足を運ぶ人がいるなんて思わなかった。

 誰なのだろう…。

 ここの土地の関係者? だとしたら、わたしを注意したりすると思う。

 他に考えられそうな、裏山こんなところに来る理由―――

 さすがにさっきまでのわたしと同じ目的ではないと思うし…

 他にどんな理由があるかなぁ…

 うーん。

 うーん、うーん…。

 ―――あっ!

 はたと閃いた。

 ひょっとして、

 さっきの猫ちゃんが本当にわたしのお願いを聞いてくれたんじゃ…


『猫ちゃんがお友達になってくれる…?』

『にゃ』

『えー、駄目なのぉ?』

『にゃー』

『じゃあ、他に誰か、わたしと友達になってくれる子を紹介してくれない?』


 我ながら、有り得ない馬鹿みたいな考えだと思う…。

 でも―――

 そんな馬鹿みたいなものに賭けてみたいと思った。


         ※

 わたしは真面目に、こう悩んでいた。

『この人、普通の人間なのかな…』

 さっきの猫ちゃんが連れてきてくれたのだとしたら、猫が人の姿に化身していてもおかしくはない。

 ただでさえ、有り得ない馬鹿みたいな考えなのに、いくらなんでも飛躍し過ぎていることは分かっている。

 分かってはいても、つい、心のどこかで考えてしまうのだ。

『もしも、本当にそうだったとしたら…?』

 どうしよう…。

 この人はこの人で、何故か、さっきからちっとも動かないし…。

 とりあえず、このまま沈黙が続くのは良くない気がする。

 って言うか、普通に気まずい…。


 よ、よし。


 とにかく挨拶してみよう。






「にゃあ」






 ―――って!

 まさかの“猫設定”の方で挨拶しちゃったよ!

 しかも全然猫っぽくなく、はっきりと「にゃあ」って発音しちゃったし…。

「………」

 さっきまで張り詰めたような表情だった男の子は明らかにポカンとしている。

 ええいッ! ままよッ!

「にゃあ」

 わたしは自分のしでかした失態を、失態でなくするために、強引に押し切る作戦に出る。

 少年が呆気にとられた表情で言った。

「…えっ、何?」


 ですよねー。


「だから、にゃあ。だってば」

 その後、

 そっちがわたしのことを猫の化身だと思ってたはずだと罪(?)をなすりつけ、勢いで自己紹介までしてしまった…。


         ※

 なんともお馬鹿なやり取りをしてしまった…。

 でもこんなやり取りをするわたしこそが本来のわたしなんだと思う。

 その証拠の一つが、このときになって自然と口をついて出た「えへん」。

 子供の頃、たまたま見たアニメのDVDでヒロインの女の子が言った「えっへん!」というフレーズが大のお気に入りだった。

 アニメの内容は当時のわたしには難しくてよく覚えていないけど、ヒロインの名前は確か『ユリカ』ちゃんだったと思う。

 その子の「えっへん!」を真似しているうちに、少しずつ日常の会話の中でも使うようになって、やがて「えへん」になり、それが口癖となった。

 いつかコウくんに指摘されたように、意味は関係なく、言いたいときに言っていたという感じだ。

 自然と出たはずの「えへん」も、やっぱり、子供の頃のように無邪気には言えなかったようだ。

 心のどこかに羞恥心があったみたい。

 そのせいで表情が変になったりしたのだろう。(自分ではどうなっていたのかは分からない)

 それをコウくんがドヤ顔だと思っていたことが判明するのは、もう少し経ってからの話だ。


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 あれから本当にコウくんとの交流が続くなんて、わたしにとっては奇跡としか言いようがなかった。

 黒猫ちゃんがくれた奇跡。


         ※

 コウくんのことは、我ながら、だいぶ振り回しちゃって申しわけなかったと思っている。

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