第50話 喪服

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 それから一年くらいした頃―――

 ふと思った。


 死のう、と。


 本当に唐突で、本当に何気ないことのような思いつきで、それこそ、暇だからコンビニで立ち読みでもしてこよう、みたいな感覚だった。

 この一年間はなんの目的も楽しみもなく、「なんとなく」で勉強をするだけの毎日が続いていた。

 お母さんに買ってもらったスマホは結局ほとんど使わなかった。

 週に一度は充電器に繋いでいたけど、その行為に意味などなかった。


 わたしの何がいけなかったというのか。


 どこで人生の歯車が狂ってしまったのか。


 何に対していきどおればいいのか。


 わたしには分からなかった…。

 不思議と、誰か(例えば、小学生の頃にわたしをおとしいれた子)に対しての恨みや憎しみといった気持ちはなかった。

 たぶん、すべてがどうでも良くなっていたのだと思う…。

 遺書は五分で書き終えた。

 大学ノートのページを切り取ったものに、「冷蔵庫にプリンが入っているので食べて下さい」くらいの気軽さで両親への謝罪をつづっただけのシンプルな遺書。

 他に遺しておきたい言葉など、わたしにはなかった。


         ※

 どうせ一人で死ぬのなら、ひっそりと逝きたい。できれば緑に囲まれた落ち着く場所で、なるべく静かに人生を終えたい…。

 そう思った。

 子供の頃に何回か行ったことのある「裏山」を最期の場所にすることにした。

 わたしのために泣いてくれるような友達はいない。

 上原さんは泣いてくれるかもしれなくても、わたしたちはもうのだ。

 だからせめて自分で自分の死をいたんであげようと思った。

 こんなわたしでも、今まで自分なりに頑張ってきたのだから、それくらいはしてあげてもいいだろう。

 本当は喪服を着て裏山に行きたかった。だけどその格好で出歩く勇気がなくて…。

 本気で死ぬつもりだったのに世間体を気にしていたなんて、今思うと滑稽こっけいだと自分でも思う。

 わたしはなるべく黒い服を着ることで喪服に見立てることにした。

 クローゼットから適当に引っ張り出したにしては、それなりに“っぽく”なっていたと思う。

 荷造りなどに使うビニール紐を近所のホームセンターで購入すると、わたしは裏山に向かった。

 まるで遠足にでも行くかのような軽やかな足取りだったのを覚えている。

 裏山に着くと、わたしはなるべく奥まった場所へと歩みを進めた。

 鬱蒼うっそうとした森のような景色を進んでいくと、ふいに、木の生えていない小さな空間が現れた。

 ここにしよう…

 そう思って、

 わたしはポシェットからビニール紐を取り出す―――

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