第46話 過去2

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 中学に上がってからもわたしの立場は芳しくなかった。

 いや、むしろ悪化したと言える。

 思春期の真っ只中で「淫乱」と呼ばれることの意味は計りしれなかった。

 噂が噂を呼び、みるみる尾ひれがついていく。

 そのうちのいくつかはわたし自身の耳にも届いてきていたけれど、それは酷い言われようだった。

 孤独な毎日が続いた。

 校内での人との交流と言えば、ごく稀に、名前も知らない男子生徒が

「誰でもヤラせてくれるって本当?」

 などと言ってくるのを無視することくらいだった。

 休み時間に人があまり寄りつかない図書室で勉強をして過ごすのが日課になっていた。

 外で遊ぶ機会も、教室で笑う権利も、何もかも失ってしまったわたしにとって、図書室は数少ない憩いの場だったのだ。


         ※

 中学に上がって間もない頃から卒業後の進路は決まっていた。

 地元の人間がまったく通わないような遠方の高校に進学する。

 わたしのことを知る人がいない土地に行けば悪夢のような毎日から逃れられる。

「淫乱」ではなく「黛麻友」として新しいスタートラインに立てる。

 今、自分が置かれている状況は義務教育を終えるまでの辛抱だと自分に言い聞かせた。

 いくつか問題もあった。

 遠ければ当然通うのは大変だろうし、通学費だって馬鹿にはならない。

 さすがに両親の許可が必要となる。

「とにかく高校くらいは出ておきなさい」というは両親の談だけど、意味も無く遠方の学校に通わせてもらえるわけがない。

 わたしは全国的に有名な進学校を目指すことでその問題をクリアした。

 これでも一応もともと勉強は好きな方だ。

 その上、幸か不幸か、わたしには勉学に励む時間が腐るほどあった。

 帰宅部(という部があったわけではない)だったわたしは、他の子が部活で青春の汗を流している時間も図書室や家で勉強をした。

 みんながカラオケで騒いでいるときも、ゲームセンターのクレーンゲームに百円玉を注ぎ込んでいるときも、わたしは勉強をした。

 友達同士が学校帰りにファストフード店でハンバーガーを頬張っているときも、わたしのやることは同じだった。

 仲の良い男女が映画を見に行って、ソフトクリームを食べているときだって、それは変わらない。

 ひたすら勉強をする毎日を過ごした。

 それでも目標に向かって夢中になれている分、小学生の頃に比べれば楽で幸せな毎日だったと思う。

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