第43話 墓標

【麻友】

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 わたしは墓石の前で黙祷をした。

 お線香を上げたお墓には、花屋で見繕ってもらった花と、彼が好きだった炭酸飲料を供えた。

 たった数ヶ月ぽっちの付き合いしかなかったけど、月命日にはできるだけお墓参りするようにしている。

 近くに墓地があるので気軽に(という言い方は不謹慎かな?)訪れることができる。

 今日は三回忌の後の初めての祥月命日しょうつきめいにちだった。

 静謐せいひつとした空気の中にお線香の匂いが漂っていて、それだけで日常と切り離されてしまったような気がした。

 ふと見上げると、抜けるような真っ青な空に一筋の飛行機雲が伸びている。

 あれからもう三年になるんだね…。

 君が亡くなったのは、ひどい大雨の日だったよね。

 この三年間は、長かったような気もするし、あっという間だったような気もする。

 なんて在り来たりな表現。

 でもそうとしか言い表せない。

 わたしはあれから無事に高校を卒業して、今は大学生だけど、君も“そっちの”大学に通っているのかな?

 いつだったか、同じ大学に行けたらいいねって話をしたよね。

 覚えてる?

「僕の学力じゃ、君と同じ大学なんて、とてもじゃないけど無理だよ」

 君がそう言ったから、わたしが「勉強なら教えてあげるよ」って言ったら、

「じゃあ頑張ってみようかな…」

 なんて、満更でもなさそうに笑ってたっけ……。

 ねぇ。

 わたしね、新しい恋人ができたんだよ。

 君が亡くなってから、人を好きになることへの恐怖はもっと大きくなっていたはずなのに。

 不思議だよね。

 でも、人を好きになるって、そういうものかもしれないね。

 君はどう思うかな…。

「良かったじゃないか」

 って言ってくれるかな。少し素っ気ない感じでさ。

 そしたらわたしは「あれ? もしかして焼き餅かなぁ?」とか言って、君のことをからかうんだ。

「そんなわけないでしょ。焼き餅なんて有り得ないよ」

 真っ赤な顔で言う君の姿が目に浮かぶよ…。

 わたしとしては、

「ようやく乗り越えられたんだね」って褒めてくれたら最高に嬉しいな―――。

 ごめん。

 君はこういう話はあんまり好きじゃなかったよね。

 でも、わたしを置いて遠くに行っちゃった君がいけないんだぞ。

 ……でさ、

 わたし、毎月ここに来るのは、今日で最後にしようと思うんだ…。

 本当は一周忌か三回忌を一つの区切りにしようと思っていたの。でも結局、できなかった。

 だから、いつか、わたしなりの方法で区切りをつけようって、ずっと思ってた。

 色々考えて、

 もしわたしに新しい恋人ができて、そのことを君にちゃんと報告できたら、それを区切りにしようって決めたの。

 本当はね、その人とはもう一年くらい付き合ってるんだ…。

 ずっと秘密にしててごめんね。

 でも中途半端な日には報告したくないっていうのもあって、祥月命日きょうまで待ってたんだよ?

 その方が、わたしもけじめがつけられるかなって。

 だから。

 来月からはもう、ここには来ないね…。

 それでも、恋人に事情を話して、許可がもらえたら―――

 ううん。きっと許可してくれると思う。

 そしたらさ、

 七回忌とか、十三回忌とか、節目になる年だけは、また来てもいいかな……

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