第36話 真実

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 二年前の大雨の日、ウチはミズにすべてを打ち明けた。

「ウチのしたことって、間違ってたのかな」

 その問いかけに対して彼女は真っ直ぐな視線をウチに向けて言った。

「少なくとも、あたしは、そうは思わない…。むしろ勇気のある行動だったと、思う」

 そこで一度大きく息を吐いたミズは「由香子」とウチを呼んだ。

 出会ったばかりの頃は「小林さん」と呼ばれていたし、仲良くなってからは「ゆかっぺ」だった。

 下の名前で呼ばれたのはたぶん初めてで、ミズ―――瑞希が、何か重大な話をしようとしていることが分かった。

 ウチにとって衝撃の事実が次々と語られていく。

 その内容のほとんどは、すぐに信じられるようなものではなかった。

 途中どうしても黙って聞いていられなくなって、口を挟んだり、みっともなく取り乱したりもした。

 その度に瑞希はウチが落ち着くまで待ってくれた。

 そしてきちんと理解して飲み込めるよう、少しずつ、丁寧に話してくれた。優しく言い聞かせてくれた。

 ウチが浩一にそうしたように。

 瑞希から聞かされた真相は、ウチが浩一に伝えたそれと、どこか似ていた。

 …でも決定的に違っていた。


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 発端は二年前のあの日から更に半年ほど前のことだった。

 その日、何年かぶりのクラス会に参加していたウチは、ほろ酔い気分で浩一の迎えを待っていた。

 クラス会が十時までということは伝えてあるのに、すでに十時二十分を過ぎている。

 でも普段から「車の運転は嫌いなんだ」と言っている浩一に無理にお願いしちゃったんだし、文句は言えないよなぁ。

 それにしても眠い…。

 すっごく楽しかったけど、その分、すっごく疲れたし…。

 早く帰って、このままお布団にダイブしたいわ。

 あぁ、化粧落とすの面倒くさい…

 会場になっていたイタリアンレストランの駐車場でウチはそんなことを考えていた。

 更に十分くらい過ぎた頃、見覚えのある軽自動車がこちらに向かって直進してくるのが見えた。

「おおーい! こっちだよ~!」

 ここからじゃ、まだ向こうには見えるわけないのに、ウチは大きく手を振りながら浩一の到着を待ち構える。

 そして次の瞬間、


 交差点を直進していた浩一の車に一台のワゴン車が激突した―――


 明らかなワゴン車の信号無視。

 運転していたのは二十代の男性で、無免許な上に酒気帯び運転だった。

 この事故による死者は二名。

 車体がめちゃくちゃに大破するほどの衝撃で、どちらの運転手も、ほぼ即死だったそうだ。

 その惨劇はウチの目の前で起きた。


 でも、何も覚えていなかった。


 瑞希に話を聞くまで、ウチは、事故の記憶を失っていたのだ。


 つまり浩一は二年前の当時の時点で、半年も前に交通事故で亡くなっていたのである。

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