第33話 悲しみを乗り越えて

【由香子】

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「うぅ~ん! なんか緊張してきた~っ!」

 ウチは思いっきり伸びをしながら言った。

「緊張って…」

「だって、映画館で見るの超久しぶりなんだもん」

「いや、それにしたって、さすがに早過ぎじゃね?」

「そっかな」

「まだ映画館に着いてすらいないのだぜ」

 今日はミズとインターに来ている。

 よもや二人であの映画の最新作を見に来る日がくるなんて夢にも思わなかった。

 ミズは前作が公開したとき―――つまり二年前―――には、なんの興味もなかったはずなのに今作はめちゃくちゃ興味津々だ。

 新作の公開に合わせた、過去のシリーズのテレビ放送を見てハマったんだって。深夜枠だったから過激なシーンもばっちり放送されたらしい…。

 今更感は少しあっても、あの映画を好きな女子仲間ができたことは単純に嬉しい。

 突然「あたしと一緒にエロエロな映画を見に行こうず」と言われたときは、とりあえずチョップを食らわしといたけど。

 普段はテレビで放送されるまで待つ派のウチも、折角のミズからのお誘いを断る理由は持ち合わせていなかった。

 ちなみにミズは、今日、インターで催されるというアニメのイベントもお目当てで、ウチもそれに付き合う約束になっている。

「それにしても晴れてよかったね」

 見上げると雲一つない快晴の空が広がっている。

 やる気満々の太陽の熱と時折吹く優しい風の冷たさが肌に心地良い。

 絶好のお出かけ日和。そして映画日和だった。

「まっ、当然っしょ。あたしら晴れ女だし」

「浩一が一緒だと二人がかりでも負けちゃうけどねー」

「アイツ、最強の雨男だったかんね。今頃、天国でも雨降らしてるんじゃね?」

「そうかも。ぷっ。ウケる」

 こんな冗談を言えるようになったのは、実は割と最近になってからだったりする。

 ウチはしばらくの間、浩一の死を受け入れられなかった。

 彼が亡くなったのは自分のせいだと思って心を閉ざしてしまったから…。

 半年もの間、現実と向き合えなかったウチが今こうして普通にしていられるのは、紛れもなく、ずっと側で支えてくれた親友ミズのお陰だ。

 ミズは献身的に心のケアをしてくれた。

 さすがは看護師さんだと改めて思った。

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