第31話 別れ

【由香子】

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「あっ、ちょっと!」

 ウチの制止を無視して、浩一の背中はみるみるうちに小さくなっていく。

 ウチはその後ろ姿を黙って見ていることしかできなかった。

 しばらくその場から動けずにいると雨が降り出した。

 今はまだ小雨だけどこのまま本降りになりそうだ。

 頬に水滴を感じた。

 それは空から落ちてきたのとは別の、目尻からこぼれ落ちた雫だった。

 ウチは涙を流していた。

 雨は少しずつその勢いを増している。

「天気予報の嘘つき…」

 涙を隠してくれるその嘘にウチは感謝した。


         2

 雨は一層激しくなっていた。

 念のために持っていた折りたたみ傘を差しても、横殴りの雨にはあまり役に立たなかった。

 時間を確かめようと携帯を開くと充電が一つ減っている。

 …浩一は大丈夫だろうか。

 濡れ鼠になって、後で風邪など引かなければいいけど…。

 そんな心配は無用だった。


 さっきの後ろ姿が、ウチが見た浩一の最後の姿になったのだから―――

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