第29話 真実

【由香子】

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 浩一は驚きを隠せないようだった。

 まさか裏山こんなところにウチが来るなんて夢にも思わなかったのだろう。

「ゆか。…なんで、お前がここに―――」

 ウチは浩一が向けてくる怪訝そうな眼差しを真っ直ぐに受け止め、

「大事な話があるの」と言った。

 浩一は突然のことに戸惑っている。

 その内容が「実はずっと好きでした」なんていう甘酸っぱいものでないことは、ウチの表情を見れば明らかだったはずだ。

「大事な話って…何?」

 ウチは浩一の目を真っ直ぐ見据えたまま、グッと奥歯を噛みしめた。

『ここから正念場だぞ。ウチ』

 心でそう呟く。

 話を聞いてもらっても、その内容を理解してもらっても、それを受け入れてもらえなければ意味がない。

 そうならないために昨日から何回も脳内でシミュレーションを繰り返した。

 どのような言い方で、どこからどこまでの内容を話せば、分かり易くて、“解り易い”のか。

 少しでも浩一が受け入れ易い話し方、口調、声のトーンはどんなものか。

 話の流れや、言う順番なども考慮して、いくつものパターンを頭に思い描いた。

 それなのに…

 今、ウチの頭の中は真っ白だった。

 ぶっつけ本番でいけってことらしい。

「最初に約束してほしいことがあるの」

 浩一は返事をしない。

 内容を聞いてみなければ分からないと言外に言っているようだった。

「ウチが今から言うことを浩一は信じられないかもしれない。…突拍子もない馬鹿な話だって思うかもしれない。それでも絶対に途中で口を挟まないで最後まで聞いてほしいの。お願い。約束して」

 少し間があって、

 浩一は首肯した。

「分かったよ。約束する。ゆかがそんな風に念を押すことなんて今までなかったから」

「ありがとう、浩一。じゃあ、話すね…」


         ※

 ウチは浩一に真実を伝えた。

 直前でぶっつけ本番になってしまった割には上手く話せたと思う。

「………」

 浩一は何も言わない。

 特に動揺しているような素振りはない。

 でも内心では戸惑っているようにウチには見えた。

 伊達に長年、浩一と幼馴染みやってない。

 黙って浩一の言葉を待った。

 浩一は今の話をどう思ったのか。

 信じてくれるのか。

 それとも一笑に付すのか。

 今、何を考えているのか。

 …まだ分からない。

 でも何かを考えあぐねていることは間違いなかった。

 空を見上げると、さっきまでと変わらない灰色が一面に広がっていた。

 ゆっくりと息を吸う。

 雨の匂いがした。

 たぶん、もうすぐ降り出すだろう。

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