第28話 募る不安

【浩一】

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 僕はいつもの場所で文庫本を読んでいた。

 今日は朝から微妙な雲行きで、天気予報によれば、一日を通してぐずついた空模様が続くそうだ。

 それでも雨は降らずに済むだろうと言っていた。

 栞を挟んで本を閉じる。

「今日も来ない…か」

 黛麻友が僕の家に来た日から約一週間が過ぎた。

 あの日以来、僕は彼女を見かけていない。

 僕たちが交流するようになってから、これほど彼女が裏山ここに姿を現さなかったことはない。

 もしかしたら何か気に障るようなことをしてしまったのだろうか…。

 家に上げなかったのはやっぱりマズかったんじゃないか…?

 それとも、体調でも崩して寝込んでいるのだろうか……。

 様々な憶測が頭の中を駆け巡り、僕は不安で不安で仕方がなかった。

 連絡先を交換しておくべきだった…。

 仮に交換していても、もし着信拒否されていたら目も当てられないけど…。

 て言うか、黛麻友は携帯を持っていない可能性が高いんだった―――。

 先ほどから降らないはずの雨の匂いがしている。

「そろそろ帰るか…」

 そう思って文庫本を鞄にしまったときだった。

 僕しかいないはずのこの場所に思いも寄らない声がかかったのは。

「やっと、見つけた…」

 背後から聞こえた声の主が誰なのかは振り向かなくても分かった。

 それでも僕は振り返る。

「ゆか。…なんで、お前がここに―――」

 ゆかは僕の質問には答えず、息を切らせなが独り言を呟いた。

「まさか…こんな奥だったなんて…」

 その言いぶりからして、僕が今でも裏山に来ていることを、ゆかは知っていたように思えた。

 僕は誰にも教えていない。

 だから驚きと多少のショックを受けていた。

 そんな僕の心中など知る由もないゆかが話を切り出す。

「大事な話があるの」

 その眼差しは今まで僕が見たことのないような真剣なものだった―――。

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