第18話 空振り

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 はぁ…。

「帰ろっかなぁ…」

 完全に諦めモードで帰路につこうと思っていたウチを、しかし、天は見放さなかった。

 ついにその男が現れたのである。

「浩一………発見ッ!」

 一時はどうなることかと思ったけど、改めて作戦続行ね…ぬふふ。

 でもその前に。

 まずは口元を拭こう。よだれを垂らしている場合ではない。

 そしてシミュレーションした通り、ごく自然に二人に近づくのよ。

 …って、あれ?

 そこで肝心なことに気づいた。

「浩一、一人だけ…?」

 お目当ての女の子の姿がない。

 一瞬、お手洗いとかで後から来るのかと思った。

 でも違った。

 浩一は一人でどこかへ歩いて行ってしまう。

 えっ…なんで?

 ウチは「ごく自然に」をすっかり忘れて駆け寄った。

「浩一っ! 浩一ってば!」

「うわっ! なんだ…ゆかか。びっくりした…。て言うか、朝もこんな感じじゃなかったか?」

「うん、まあ…確かに。映画館から出てくるところを見かけたから、つい、また声かけちゃった。てへっ」

「本当に偶然? なんか怪しいな」

 ですよねー。

「怪しいとは失礼な。偶然に決まってるじゃん」

「本当かなぁ…僕の友達を一目見ようと思って、待ってたんじゃないのか?」

「確かに気にはなるよ? でもウチだってそんなに暇じゃないし」

 本当は三十分も暇を持て余してたんだけどね。あはは。

「で? そのお友達さんは?」

「先に帰ったよ」

「えっ―――」

「バスの時間があるからって、終わった途端に出てった」

 なん…だと。

 じゃあ、最初に出てきた大勢の中にいたってこと?

 それはさすがに分からないわ…。

「僕も帰るところだから。じゃあ、またな。ゆか」

 浩一は駐車場の方に歩いて行ってしまった。

 ペーパードライバーの浩一にしては珍しく、車で来ていたらしい。

 今回は完全に空振りだった…。

「ウチも帰ろっと」

 なんか、どっと疲れたわ…。

 でも当初の目的だったセールには大満足だし、まあ、結果オーライってことで。

 だけど次はこうはいかないわよ?

 待ってなさい、浩一。

 そして、まだ見ぬ女の子―――!


 てか、

 ウチも浩一に乗せてってもらえばよかった!

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