第17話 目論見

【由香子】

         1

 うん。素晴らしい買い物ができた。

 先週、下見できたことが完全に功を奏したわ。おほほ。

 ウチは今、映画館から少し離れた場所で戦利品の重さを腕に感じながら浩一(と、女の子)を待っている。

 あの後しばらく粘ってみても、連れの女の子を紹介してもらうことはできなかった。

 粘っている間に戻って来てくれればラッキーだったんだけど…残念。

 そんなわけで、

 映画が終わって二人が出てくるときに“ばったり会うことにした”というわけ。

 まずは遠目から二人の様子を窺おう。

 そして偶然を装って近づくのだ。

 我ながら、なかなかの策だわ。おほほ。

 ただ、

「来るのが少し早かったかも…」

 買い物が終わった後は、正直、時間を持て余していた。

 いつもならインターを見て回っていれば、あっと言う間に夕方になっちゃうのに。

 逸る気持ちを抑えられなくて、三十分前くらいからこの場所に陣取っている。

 映画が終わる時間は分かっていたはずなのに…。

 携帯で時間を確認すると、ようやく映画が終わる頃だった。

「いよいよね…」

 ―――ごくり。

 浩一たちが出てくるのを見逃さないように注意を払いつつも、ウチには他に気になることがあった。

 それは携帯の液晶画面の右上―――充電の残量を示すマークが一つ減っていることだ。

 携帯は昨日寝る前に充電してからほとんど使っていない。ここに来る直前(つまり三十分ほど前)に時間を確認したくらい。

 その時点で既に減っていた。

 充電のことはなるべく気にしないようにしている。

 でもやっぱり完全に無視することなんてできないんだよなぁ…。


         ※

 映画館から人が出てきた。結構な人数だ。

 それでも『某・しましまシャツの青年を探す絵本』は得意だから、油断さえしなければ浩一を探すことくらいはできると思う。

 ウチは思考するのを止めて意識を集中させる。

 絶対に見逃すわけにはいかない。

 そのために三十分も粘ったんだから。

 ウチは演技前のフィギュアスケーターの如く意識を集中させ、目を凝らす。

 浩一はまだ出てこない。

 中から出てくる人の流れが少しずつ疎らになってきた。

 もしかして見逃した?

 いや、そんなはずはない。

 人混みを嫌う浩一はきっと混雑を避けて出るつもりなんだ。

 つまりここからが本当の勝負ってこと。

 でも逆にこれだけ人が少なくなれば見逃すことはないだろう。

 それでも油断は大敵―――。

 ウチはターゲットを一撃で仕留めるスナイパーの如く意識を集中させ、目を凝らす。

 まだ浩一は出てこない。

 てか、映画館から出てくる人自体、もうほとんどいないのは気のせいかしら…。

「浩一の奴、何をとろとろしてんのよ。ったく」

 こんな幼気いたいけな女の子を何十分も待たせていいと思ってんの!?

 ウチはそんな風にデートの“いろは”を教えた覚えはないわよッ!?

 おーい。浩一やーい。

 早く出ておいでー。

 …

 ……

 ………

 いいからさっさと出てこいやッ!!

 ウチの心の叫びも虚しく、ついに人の流れが完全になくなってしまった…。

 ―――ってことは。

「やっぱ見逃してた!」

 マジかぁ。

 三十分も粘ったのに…最悪。

 ウチの時間を返して…。

 もうっ! 浩一のばかっ! あほっ!

 …

 ……

 ………

 よしっ、落ち込むのおしまい!

 ウチではフィギュアスケーターとスナイパーは勤まらないってことが判明しただけでよしとしよう。そうしよう。

 無理矢理そういうことにした。

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