第15話 映画館

【浩一】

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「ねぇねぇ、コウくん。いい席を取れて良かったね!」

 隣でポップコーンを頬張る黛麻友が満足そうに言った。

「ここ、いい席なの? 君はいつもこの辺を指定するの?」

 黛麻友が受付で指定したのは最後列の中央の席だった。

 僕はど真ん中で見るのがベストだと思っているから、普段はできるだけ中央付近を指定する。

 まぁ、今回はあくまで付き添いだし彼女の意向に反する必要も理由もない。

「んー、あんまり来たことないからよく分かんない」

「じゃあ、なんでいい席だって思うのさ」

「だって、最後列だけ前の座席との間隔が広くて足が伸ばせるじゃん」

 確かに。それは僕も今日初めて知って、ちょっといいかもと思っていた。

「もし誰かがおトイレに行くときだって、余裕があるから通り易そうだよ?」

 確かに。行く方も、そうでない方も、あまり「すいませんすいません」しなくて済むのはありがたい。

「あと、前の席との段差もちょっとだけ高くなってるみたいだから、前の席にアフロの人が座っても大丈夫そうじゃない?」

 確かに。大丈―――ばないだろ、さすがにそれは。

「最後のはどうかと思うけど、それ以外は賛同するよ」

「さすがにアフロさんは駄目かー。でも、コウくんも結構納得してくれたみたいで嬉しいなっ。えへへ☆」

 あれ? 今「えへへ☆」って言った?

 いつもの「えへん☆」はどうしたんだ?

 …いつもと一文字しか違わないのに、受ける印象がずいぶん違うな……。

 実はさっきから思っていたんだ。

 今日の黛麻友はいつもと少し雰囲気が違う気がするって…。

「コウくん、どうしたの? 口元がふにょふにょしてるよ? ポップコーン食べる?」

 口元ふにょふにょってどういう状態だよ。

「いや、僕はいいよ。もう残り少ないみたいだし」

「そう? 遠慮しなくていいのに」

 僕たちの会話が一段落するのを見計らったかのように館内の証明が暗くなっていく。

「おっ、暗くなってきた。いよいよ始まるんだね。なんかドキドキしてきたよー」

 僕もドキドキしていた。

 映画が始まる前はいつだってこうなる。

 …こうなるんだ。

 でも―――

「コウくんも楽しんでくれたら嬉しいな。えへへ☆」

「う、うん。そうだね」

 暗くてよかった。

 きっと、今、僕の顔は真っ赤になっているだろうから―――。

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