第10話 悪癖

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 …あれ? もしかして着信してる?

 バッグの中で携帯が振動していることに気づいた。

 少ししても止む気配がないから、メールじゃなくて電話みたい。

 てか、ぶっちゃけマナーモードでバッグに入れておくと、メールの着信くらいじゃ短くて全然気づかないよね…。

「もしもし、ミズ?」

「もしもしも。四瑞ヨッスィーよ」

が一回多くない?」

すももも桃もモモのうちってことなのだぜ」

「いや、意味分かんないから」

「あたしもよく分かってない。キリッ!」

「で?」

「ゆかっぺ、今、何してんの? つか、家?」

「今?」

「そそ。今。ナウ」

「今は「インター」をぶらぶら中よん」

 インターというのは県内最大級の規模を誇る郊外型ショッピングセンターの略称だ。

「なんだ、家じゃないんかお。もし家で暇してるんなら、あたしん家で「桃鉄」でもしようぜ! って思ったんやけど」

「さっきのモモの話が桃鉄そこに繋がるとはね」

「おぉ! よくぞ気づいてくれた! ゆかっぺ、さすがですな」

「まあ、それなりに長い付き合いだしね」

 桃鉄とは、とあるテレビゲームの略称で、簡単に言うと、すごろくや人生ゲームのようなものだ。四人まで一緒に遊べるから、昔からよく浩一とミズと三人でやってたんだ。

 でも二人が疎遠になっちゃってからはやっていない…。

「そう言えば、しばらくやってないね」

「だしょ? そう思ったら、なんか無性にやりたくなっちってさ。でも外出中じゃ仕方がないってばよ…」

「来週で良ければ付き合うよ?」

「来週はあたしの方が駄目なんよ。朝から健康診断の手伝いだからさ」

 ウチらの住んでいる地域では年に二回、参加自由の健康診断がある。

 その日は夕方まで、お医者さんと看護師さんが公民館に待機してくれていて、好きな時間に行けば診てもらえるのだ。

 でも来週だったなんてしらなかった。

 ウチ、行ったことないからなぁ…。

「朝から手伝いって、一日ずっと?」

「まぁね。十時とお昼に休憩はあるけど、そんだけじゃさすがに桃鉄はやれん」

「それだけの時間でやってたら、どんだけやりたいんだって話だよね」

「李も桃もモモのうち、よ」

「それはもうええっちゅーねん」

「あはは。ツッコミせんきゅー」

「まあ、来週は頑張ってよ」

「つか、ゆかっぺも受けに来るべきじゃね? 今なら特別にあたしがお熱とか測ってあげちゃうわよん。うふっ」

「そっかー。そりゃあ是非遠慮したいわー」

「冷たい! ゆかっぺ冷たいっ!」

「とりあえず今回はパスの方向で。次は半年後とかだよね?」

「んだ。そんときは来てくれるかなー?」

「リアルに考えとく」

「そこは「いいももー」って言うところだお」

「どんだけ引っ張るんだ、モモの話」

「桃鉄をするまで! キリッ!」

 その後、二・三雑談をして、

「じゃあ、桃鉄はそのうちやろうね」

「んだ」

 電話を切った。


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「むふ…」

 ミズとの通話を終えたウチは本日のインター巡りのメインディッシュであるショップにやってきた。

 てか、インターに来るときは大抵ここが一番のお目当てなんだ。

 ここは本当にウチ好みの服が多くて、結構昔からお世話になっている。

「むふふ…」

 今日は主に秋物を買うつもり。

 そのために今まで節約してきたんだから、じゃんじゃん買わなくっちゃね!

 まずは何から探そっかなぁ。

「むふふふ…」


 ―――って、無意識に声出ちゃってた!


 やば。よだれもちょっと出ちゃったよ…。

 普段はクール&ビューティーが売りのウチだけど、買い物のときだけはテンションが上がりまくっちゃうのよね…。

 昨日の夜も無意識に「むふむふ」言って、家族から白い目で見られたし…。

 そしてここだけの話、興奮するとよだれを垂らす癖もあったりするから困る。

 まあでも、近くに人がいなくて助かった。

 少し落ち着こう…。

 ウチはハンカチで口元を拭い、改めて店内を見回した。

「なっ!」

 素晴らしい文字が踊るポップを発見してしまった―――。

 またしても無意識に声が出ちゃったよ…。

 でも口からはみ出そうとしてくる液体は意識して引っ込めることに成功。

 ふぅ…あぶないあぶない。

 ついさっき落ち着こうと思ったばかりなのに、危うく一瞬で大興奮の渦にたたき込まれるところだった…。

 でも今のは仕方がない。

 だって。


「来週、セールぢゃん」

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