第9話 勘

【由香子】

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 ウチの勘が正しければ、どうやら浩一に気になる女性ひとができたっぽい。

 本人に確認したわけではない。

 ただ、最近の浩一の態度を見る限り、まず間違いない。

 ウチも伊達に長年、浩一と幼馴染みやってない。

 おそらく、既に付き合ってるってことはないと思う。

 もし既に恋人同士だったとしたら、ウチ的には祝福したい気持ちが半分、心配って気持ちが半分かな。

 浩一が“恋愛のトラウマ”を克服して前に踏み出せたのなら本当に嬉しいし、よっぽど質の悪い相手でもない限りは応援したいと思う。

 でも、もし裏切られたりしたら―――浩一は今度こそ取り返しのつかない重大な傷を心に負ってしまうだろう…。

 そう思うと、どうしても手放しには喜べない…。

 浩一は数年前に「恋人いない歴=年齢」という肩書きを返上した。

 相手はレンタルショップのアルバイト仲間として知り合ったリエコちゃん。

 彼女のことが気になっていた浩一はウチに色々と相談をしてきた。

 メル友になるためのきっかけ作りに始まり、そこからデートに誘うまでの(主に)メールでのやりとり。

 デートのプランも当然のようにアドバイスを求めてきた。

 更には告白のタイミングまで。

 いざ付き合うようになった後は、

 何回目のデートで手をつないでいいのか?

 初キスは?

 と、手当たり次第に聞いてきた。

 当時は相談されてるウチの方が悩んじゃったくらいだよ。そもそも正しいタイミングなんて無いんだし。

 よく言うじゃん。

「恋愛に方程式は通用しない」って。

 ウチは「そんなこと、人に聞くなよ…」と思いつつも、二人の恋人としての関係が安定するまでは相談に乗ってあげていたんだ。

 そんな浩一が、だいぶ“ウチ離れ”できてきた頃に迎えた、初めてのクリスマスイブ。

 サプライズでプレゼントを用意していた浩一の前にリエコちゃんが現れることはなかった。

 心配になった浩一がリエコちゃんに電話をいれると、「他の人を好きになった。今、その人のところ」と言われたそうだ…。

 恋人として付き合う上で、浩一の方にまったく非がなかったとは言えないと思う。

 そのこと自体は当の本人も認めている。

 それでもあまりに一方的な裏切りだった。

 傷ついた浩一は、その後、重度の女性不信に陥ってしまう。

 一時期は本当にひどい状態で、女性に会いたくないという理由から出歩くこともできず、幼馴染みであるウチとさえ、まともに目を合わせられないほどだった。

 その辺はもうすっかり良くなっている。

 自分で言うのもなんだけど、ウチとのコミュニケーションがリハビリになったことは間違いない。

 我ながら献身的に対応していたと思うし。割とマジで。

 それでも、未だに恋愛に関しては消極的―――むしろ懐疑的と言ってもいいくらいだ。

 ついこの前も、ウチが読んだ恋愛漫画の話をしたら、浩一は渋い顔をして「恋愛はもう懲り懲りだし、例え漫画の話でも遠慮したいな」なんて言っていた。

 そんな浩一がウチになんの相談もなしに新しい恋人だなんて、やっぱり考え難い。

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