第7話 黛麻友との日常

【浩一】

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 猫のイメージと言えば「きまぐれ」とか「自由奔放」みたいな感じだろうか。

 なかには(犬と比べて)「懐かない」「人に媚びない」なんて思っている人もいるだろう。

 個体差はもちろんあるけど割と当てはまるかもしれない。

 そこに僕個人の意見を追加させてもらうならば、「しなやか」で、どこか「気品」を感じる動作と掴み所のない「ミステリアス」な行動には、不思議と「色気」がある。

 …我ながら偏った意見だという自覚はある。

 猫好きな人ならば、少しは理解してもらえるだろうか…。

 とにかく。

 これらの「猫」に対するイメージから「懐かない」を取り除いてみる。

 するとどうだろう。

 何故か「ほとんど黛麻友」になるから不思議である。


 僕が裏山で出会った変な―――じゃなくて、不思議な少女―――黛麻友。


 僕はあの日、彼女の黒い服装から「黒猫が化身した姿」などという妄想をした。

 でも彼女は普通の人間の女の子だった。

 当たり前だ。

 奇しくもあれから彼女との交流を重ねているのだけど―――

 やっぱり彼女は「猫」だった。

「猫みたいな女の子」という意味だ。

 まず、元が美人なだけに黙っているだけでもかなり絵になる。

 ごく稀に見せる憂いを含んだような表情は「ミステリアス」な雰囲気たっぷりだ(僕が初めて彼女と出会ったときは正にそうだった)。

 実際に接するようになると「きまぐれ」とか「自由奔放」なんてレベルではない変な言動が目立つ。

 しかし一方で、その所作をよく観察してみると一つ一つの仕草が実に繊細で「しなやか」であることがわかる。

 おそらく彼女自身が持つ生来の「気品」を隠し切れていないのだ。

 そして、そんな相反する特徴をあわせ持つ彼女にギャップを感じ、女性的な「色気」を感じてしまうことが、ときどき、ある。

 一応、断っておくと、決していやらしい意味ではない。

 とにかく「猫の人間版」もしくは「人間の猫版」みたいな感じなのである。


         2

「おっ! 来たね、コウくん。待ってたよ。えへん☆」

 草の絨毯に体育座りをしていた黛麻友がいつものドヤ顔で言った。

 まったくもって謎のドヤ顔である。

 て言うか、そのスカートだとパンツが見えそうで目のやり場に困るんだけど…。

 今日の黛麻友は白地のTシャツに薄いピンクのカーディガンを羽織っている。下はやや短めのデニム生地のスカートだ。

 おしゃれに無頓着な僕が、人様の服装をどうこう言うのはおこがましい。

 それを承知の上であえて言おう。

 ダサっ! と。

 ほとんど無難にまとまったコーディネートなのに、どうしてその、「鼻の短いゾウみたいな、やたらカラフルな謎の生き物」がでかでかとプリントされたTシャツをチョイスするんだ…。

 そんなセンスの悪さを会う度に披露してくれる黛麻友に、

「もしかして狙ってやってるのか…?」

 そう思っていた時期もあった。

 でもどうやら素で気に入ってるらしいということが最近分かった。

 もはや慣れるしかない。

 初めて会ったときの真っ黒な格好というのはあれ以来見ていない。

 今思えば、あれはあれでかなり奇抜だったような気がする…。

 僕にとって衝撃的な出会いだったあの日から既に一ヶ月。

 初めて出会ったこの場所で、会って話をするのが日課になっていた。

 と言っても、別に示し合わせて会っているわけではなく、各々が気が向いたときに訪れて、会えば話をするといった感じだ。

 お互いの連絡先も知らないし、少なくとも僕から聞くつもりはなかった。

 会うか会わないかの運の要素すらも『猫のような彼女』の気まぐれなのではないか?

 そんな風に考えるとなんだか面白くて、振り回されるのも悪くないと思ったからだ。

「前から思ってたけど、「えへん」の使い方おかしくないかな」

「むむむ。正しい使い方とかあるの? 辞書に意味とか載ってるかなぁ…。まっ、どっちでもいいじゃん」

 いいんかい。

「よく言うじゃん。やることに意義があるんだって。だからわたしの「えへん☆」も使うことに意義があるんだよ。えへん☆」

「さいですか…」

 おざなりに返事を返すと、黛麻友は不服そうにぷくっと頬を膨らませる。

「コウくん適当っ!」


 まぁ、僕たちはいつもこんな感じだ。

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