第5話 由香子と瑞希2

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 ウチと浩一は家が近所だったこともあって、子供の頃からよく遊ぶ仲だった。

 要するに幼馴染みというやつである。

 小三のある時期からそこにミズが加わり、三人で遊ぶようになった。

 それからずっと(誰かしらに恋人がいた期間などを除けば)その関係が続いていた。

 三人はずっと一緒に過ごしてきたと言っていいと思う。

 なのに―――。

 つい半年前くらいから、何故か突然、ミズが浩一を避けるようになった。浩一の話題を出すだけでも露骨に嫌がるほどに。

 事情を聞いてもミズは教えてくれなかった。

 ただ、どうやら浩一の方がミズの気に障るようなことをやらかしたんだってことは分かった。

 普段のミズなら、友達と喧嘩をしても、2~3日すれば、すっかり仲直りしているはずだった。

 むしろ喧嘩した次の日に普通に話しかけちゃって、「あ、そう言えば喧嘩してたんだっけか。ごめんごめん」とか言ってのけちゃうタイプ。

 だから、浩一との件もそうなるだろうと高を括っていたウチは、正直、大して気に留めてもいなかった。

 ところがいつまでたっても仲直りの兆しが見えなくて―――

 二週間が過ぎた頃、さすがに放っておけなくなって、ミズに事情を聞いてみると、

「別に何もない」

 その一点張りだった。

 もちろん浩一にも聞いてみた。

 こっちは正真正銘、本当に心当たりはなさそうだった。

 浩一のやつ、鈍感だからなぁ…。

 とにかく。

 ウチら三人が顔を合わせることはなくなってしまった。

 ウチは浩一を見かければ声をかけたり、世間話をしたりはする。

 でもこちらから積極的にコンタクトを取るようなことは少なくなった。


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「で? 結局ゆかっぺが渋い顔をしていた理由はなんなのさ?」

「そう言われると、別に改めて言うほどのことでもないと言うか…」

「いいから言ってみそ」

「うん。てか、前にもちょっとだけ話したことあると思う…」

 言いながら携帯をパチンと開いて液晶画面をミズに見せた。

「充電の減りが早いとかってやつ? 今も一つ減ってるねぇ」

「昨日寝る前に充電して、朝は満タンだったんだよ? まだ大して使ってないのに、この減り方は早過ぎじゃない?」

 話しながら携帯を揺らすと、餃子のキャラクターのストラップがちゃらちゃらと音を立てた。

「前からたまにあったんだけど、最近は特に多くてさ…。でも減らない日は全然減らないから、たぶん、電池が駄目ってことではないと思うんだよね」

 むしろ、いつも同じように減ってくれれば電池を交換すれば解決するのに…。

「日によって使う頻度が極端に違うってことはないん?」

「多少の差はあっても、大体一緒くらいだと思う」

「うーむ。だとしたら―――」

「何か心当たりでもあるの?」

「普通にそんな「旧型」使ってるからじゃね?」

「旧型って…」

「戦闘力が2万2千を超えたあたりで爆発しそうだし、近くに戦闘民族の王子みたいなのがいる日は駄目なんだよ、きっと」

 ミズが何を言っているのか、ウチにはさっぱり分からない。

 ただ、言いたいことのニュアンスは伝わった。

「ウチのガラケーちゃんを馬鹿にしたわね。こう見えてもこの子の機種は最新型なんだい!」

 ガラケーが現役ばりばりなウチとしては、そこは譲れないポイントなのである。

「おうふ。そういや、そんなこと言ってたっけ」

「はい、ここテストに出まーす」

「なんのテストだお」

 ちなみに、ウチもちょっとだけスマホを使っていた時期があったんだけど、どうにも馴染めなかった。

 解約金だか違約金だかの関係で使い続けた一年間は「早くガラケーに戻したい」と恋い焦がれていたものですよ…。

「それにしても、機種変してからまだ一年も経ってないのに…不良品だったのかな」

「いや、それはむしろ陰謀じゃね?」

「へっ? 陰謀?」

「携帯会社が結託して、スマホに戻させようとしてるのだぜ」

「あー、なるほど―――って、そんなわけあるかーい!」

「ノリツッコミ、おつ

「まあ、カラオケに携帯は必要ないし、ひとまず忘れよっかな」

 ミズが「ふむん」と同意の意を示す。

「そうと決まれば早速行きまっしょい!」

 ミズは全くリズム感のない変なスキップをしながら「今日は久しぶりにもりもり歌うぜ~」と進み出した。

「ちょっと! ミズ! その前にお昼食べてくんでしょ? ウチ超お腹空いてるんだからね~!?」


         ※

 今日一日ミズと過ごして、ウチは改めて思った。

 やっぱりこの子と一緒にいると楽しいなって。

 そして、早く浩一と仲直りしてほしいなって。

 二人の間に何があったのかなんて、今となってはどうだっていい。


 三人がまた前みたいな関係に戻れれば、

 それだけで―――。

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