第4話 由香子と瑞希

【由香子】

         1

 まただ。また減ってる…。

 変だな。

 ウチ、今日そんなに使ったっけ?

 最初の頃はそんな風に思ったりもした。

 でも最近はこの状況を受け入れるようにしている。

 てか、ぶっちゃけ諦めた。

 それでも何か原因が見つかるかも知れないから、一応考えてみようかな。

 えっと…。

 朝はいつもより少し早めに起きて、十時ちょっと前には家を出たでしょ。

 途中で本屋に寄って、欲しかった漫画を探しつつファッション雑誌を軽~く立ち読み。

 お目当ての漫画ぶつが品切れしていたから店を出てすぐに携帯でポチった。

 このときは間違いなく満タンだったはず。

 その後、公園で読書中の浩一にばったり会って結構話し込んじゃったんだよね。

 そしたらいつの間にか、ミズとの約束の時間ぎりぎりになってて…

 浩一と別れた後、ミズに連絡を入れようと思ったところで気づいた…と。

 やっぱり原因なんかないよなぁ。

 うーん。

 ウチの携帯の充電ちゃんは一体どうしちゃったんだろ…。


         2

「どしたい、ゆかっぺ。渋い顔しちって」

 少し遅れて待ち合わせ場所に着いたウチにかけられた言葉がこれ。

 自分では渋い顔をしていたつもりはないんだけど、そう見えるのかぁ…。気にしてないふりをしても、充電の件はやっぱり気になるからなぁ…。

 とりあえず今は置いておこう。

 ―――で。

 このちょっぴり変な言葉遣いの親友の名前は四条しじょう瑞希みずき

 みんなからは「ヨッスィー」と呼ばれていて、ウチだけは親友の特権(?)で「ミズ」と呼んでいる。

 ミズが言った「ゆかっぺ」ってのは、ウチのあだ名ね。小林こばやし由香子ゆかこだから「ゆかっぺ」。

 ウチのことをそう呼ぶのがミズだけなのは親友の特権ではなく、ただのご愛敬ってとこかな。

 ちなみに、みんなからは普通に「由香子」とか「ゆか」って呼ばれている。

 ミズは小学三年生のときにウチら(ウチと浩一)が当時在籍していたクラスに転校してきた子なんだ。

 最初はなかなかクラスに馴染めずにいたみたいで、休み時間も教室の端っこの席で机に突っ伏してたっけ。

 いじめられてたとかいうわけではなく、なんとなく浮いちゃってた感じ。

 そんなミズのことが気になっていたウチは、それでも、なかなか話しかけることができなかった。

 でもあるとき少しだけ勇気を出して話しかけてみたんだ。


「これ、わたしが好きなアニメのキャラクターなんだ。…四条さん、知ってる?」


 この一言がきっかけになって今でも親友やってるんだから、人の縁って不思議だ。

 ミズは子供の頃から「看護師さんになりたい」と言っていた。

 そして今はその夢を叶えて近所の診療所で働いている。

 本人曰く、医師からの信頼も厚く、子供やお年寄りからも慕われており、評判は上々だそう。

 頼りにされているのは事実だと思う。

 でもそれにしたって、ウチの親友は「謙遜」って言葉を知らないのかねぇ…。

 閑話休題かんわきゅうだい

 ミズが勤めている診療所は土曜日の午後と日曜日が休診だ。

 ウチも土日が休みなので、こうして、割としょっちゅう会っている。

 ちなみに今日はこれから一緒にランチをして、その後カラオケに行く予定なんだ。

 女子二人でカラオケって正直どうなの…とも思うけど、ミズのやつ、歌うの大好きなんだよね。毎回よく分からないアニソン(?)を熱唱して喉をガラガラにしている。

 ウチは歌うのが別に好きってほどでもないし、まして得意なわけでもない。

 ミズとのカラオケが楽しいから好きってだけ。


         3

「とりあえず、遅れちゃってごめん」

「連絡は事前にくれたんだし、別にいいですしおすし」

 ですしおすしって何。

「まさかそんなことが理由で渋い顔してたん? この四瑞ヨッスィーさんが、そのくらいで怒るとでも?」

 今、ミズが自分のことをあだ名で呼んだのを聞いて思い出したことがある。

 ミズが自分のあだ名「ヨッスィー」を漢字で『四瑞』って書くことに決めたという話だ。

 ついこの前、スマホの画面に表示させたその当て字を「かっこいくね?」とか言いながら報告してきたのだ。

 ミズ曰く、『四瑞』には「シズイ」って読み方があって、中国だかの有名なレイジュウ…(?)のことなんだって。

 確か、ホウオウ…(?)とか、キリン…(?)とかって言ってたと思う………たぶん。

 ホウオウって十円玉にいるあいつだよね?

 レイジュウだからお金になったのかな。

 それともお金になったからレイジュウなのかな。

 キリンってレイジュウなの?

 動物園でレイジュウに会えるなんてすごいよね。

 ゾウとかライオンなんかもそうなのかな。

 でも、レイジュウって、何?


 さっぱりわかんねー。


「ミズは博識だね」

「うお。いきなりどした。褒めても何も出ない―――つか、あたしの質問はガン無視かよ」

「この前言ってた当て字の話」

 ミズは一瞬ぽかんとした後、すぐに笑顔になって言う。

「うはは。教えたときは興味なさそうな反応だったのに、今更かい」

「うん、今更。ふと思った」

「そーゆとこ、ゆかっぺも大概ね」

 でもさ、と前置きをしてからミズが話を続ける。

「鳳凰とか麒麟なんかは、アニメとかゲームにもよく出てくる名前だし、案外ポピュラーなのよ。それに本来の逸話とか神話に詳しいってわけでもないんで、別に博識ってわけじゃないんだお、キリッ!」

 否定してはいる。

 でも満更でもない反応だ。

 今なら少し突っ込んだことを言っても平気かも……。

 本当はあまりしつこく言いたくはないけど―――攻めてみるか。

「そういうの、浩一も好きそう。なんか無駄に詳しそうだし。今度話してみたら?」

「それはいいや」

 やっぱり駄目か…。

 ミズと浩一との間に一体何があったというのだろう…。

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