第3話 出会い2

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 じっと目の前の地面を見つめている少女の横顔は憂いを含んでいるように見えた。

 僕は素直に思った。


 何て綺麗な女性ひとなんだ―――


 ガラス細工なんじゃないかと思うほど透き通った白い肌と、清水のせせらぎのように滑らかなストレートロングの黒髪が印象的だった。

 どことなくあどけなさを残した顔つきから、僕より年下ではないかと推測する。

 普段からおしゃれには無頓着な僕には、彼女の服装をどう表現すればいいのかよく分からない。

 ただ、全体的にという印象で、肩にかけられたポシェット(やはり黒)以外にアクセサリーのようなものは一切身につけていないことは分かった。

 触れただけでけがれてしまいそうな白い肌が、より一層「黒」の印象を際立たせている。

 ふと思った。


“さっきの黒猫が、もし、人の姿に化身したとしたら、彼女のような容姿になるのではないか”


 そんな有り得ない馬鹿みたいな妄想すら覆してくれそうな何かが、少女にはあった。

 少女がおもむろに顔を上げ、ゆっくりとこちらへ顔を向けようとする。

 そのとき、一陣の風が吹いた。

 木々たちがさわさわと揺れる。

 僕にはそれらすべてがスローモーションのように見えた。

 少女と目が合う。

 鼻筋の通った顔立ち。

 切れ長の目とゆるやかな曲線を描く長いまつげ。少し潤んだ瑞々しい瞳。

 ぷっくりとした厚めの唇が妙に色っぽい。

 すっかり見惚れてしまった僕は身じろぎ一つできなかった。


 少女がゆっくりと口を動かし―――

 そして、言ったのだ。


「にゃあ」と。


         4

「神崎浩一君…か。じゃあ、コウくんだね☆」

「は、はあ…」

 ずいぶん馴れ馴れしい気がするのは僕だけだろうか。

 まぁ相手が女の子(しかも紛れもない美少女)だから悪い気はしない…。

 意外にも、かなりテンションが高い子のようだ。

 語尾に星マークでもついていそうな喋り方に少し圧倒されてしまう…。

「「はあ…」じゃなくて、よろしくねっ☆」

「あ、うん…よろしく」

 とか言っちゃったよ。

 今後よろしくする機会があるのだろうか…?

「ねねね、どう? どう?」

「えっ…何が、かな」

 なんだか知らないけどやたら目を輝かせている…。

「「コウくん」って呼び方だよぅ! 咄嗟に考えたにしては違和感なくない? えへん☆」

 そりゃそうでしょ。何の捻りもないし。

 て言うか「えへん☆」言うな。

「う、うん。そうだね。確かに」

「でしょでしょ? もしかして、わたしってセンスあるのかなぁ?」

 僕からの返答を待っている少女を少し観察してみる。

 確かに綺麗な子だ。

 それは間違いない。

 しかしさっきまでの神秘的とも言えるような雰囲気は感じられない。…どこかに霧散してしまったのだろうか…。

「コウくんどうしたの? もしかしてお腹でも痛いの?」

 僕が微妙な表情をしていたのでそう思ったらしい…。

「わたし、正露丸は持ってないんだ…。でも絆創膏ならあるよ? 使う?」

 ポケットに入っていたらしい絆創膏を差し出してきた。

 流れで受け取ってしまったそれを見ると、変なキャラクターがプリントされている。

 なんだこのキャラ…。

 て言うか、腹痛の人(違うけど)に絆創膏って…。

「ぷっ!」

 思わず吹き出してしまった。

 しかも…

 やばい……

 ツボに入って…笑いが!

「あははは!」

「あれれ? なんで笑うの~?」

「あははっ、ごめん。…でも、だって…ぷっ! あはっ、あははは」

「え~っ、なになに? なんなのぉ~?」


 我ながら恥ずかしいところもあるけれど、


 とにかく、


 これが僕『神崎浩一』と、変な―――じゃなくて、不思議な少女『黛麻友』の出会いの一部始終である。

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