第67話 殲滅! シリューVS魔物軍団
ミリアムと子供たちを背に庇いながら、シリューは考えを巡らせる。
相手は200を超える臨戦態勢の魔物の群れ。
時間は無い。
「そうだな……」
さっきからストライク・アイの赤いマーカーが変動を繰り返し、一定のターゲットを指定出来ない。これはシリュー自身に迷いと焦りがあるためだった。
余りに数が多すぎて、絞り込めないのだ。
「じっくり狙ってる暇はない……か」
【早撃クイックドローモードが掃射ガトリングモードへ変化します。毎分6000発のメタルバレットを発射出来ます。射撃時間および弾数に制限はありません】
「ろくせんっ……」
最早F35。いや、射撃時間、弾数無制限とかF35も霞むぐらいだ。余りに不条理すぎておかしくなる。
だがおかげで落ち着く事が出来た。
「ミリアム、伏せてろ」
ミリアムは子供たちを促し、身を寄せて小さく蹲る。
これで立っているのはランドルフとシリューだけだ。
「いけっ! 獣どもぉ!!」
ランドルフの叫び声を合図に、魔物達が一斉にシリューに突撃する。
「こいよ」
シリューはストライク・アイとガトリングモードを、並列思考によって同時に展開する。
「くらええええ!!!」
ターゲットを捕捉したホーミングアローが、衝撃波を伴ってハンタースパイダーとグロムレパードを貫く。獲物が絶命した瞬間、ストライク・アイの赤いマーカーが新たなターゲットをロックし、次々とミサイルのような鏃を撃ち出す。
無造作に、何の作戦もなく向かってくるフォレストウルフとブルートベアの群れに、ガトリングモード毎分6000発の金属の弾丸が降り注ぎ、文字通り薙ぎ払い肉片に変えてゆく。
近づいてきた数頭を、更にフレアバレットで焼き焦がす。
「ど、同時詠唱? 3つも? いえ、詠唱してないっ?」
ミリアムは目の前で展開される事態に、全くついていけず混乱する。
無詠唱の魔法など聞いたことが無い。3系統の魔法を同時に発動するなど見た事も無い。追尾して敵を屠るのはマジックアローだろうか。だが、マジックアローにしては威力が高すぎる。
さらに目を疑うのは、その魔力量だ。先程からまるで無尽蔵と言える量のメタルバレットを、常軌を逸した速度で撃ち続けている。
ミリアムでさえ、とうに魔力が枯渇し目を回して倒れているところだ。
伏せるのも忘れて、ミリアムはその光景に見入っていた。
撃ち漏らし襲ってきた何頭かを、シリューは魔法を維持したまま剣で切り伏せる。
同じ人間と思えない。
「……まさか……シリューさんって……」
見る間に魔物達は数を減らし、代わりに大量の残骸と肉片が増えてゆく。
唐突に始まった戦闘は、始まった時と同じく唐突に終わりを告げる。
いや、戦闘ではなく、一方的な殲滅だ。大量に発生した害虫に、殺虫剤を振りまき全滅させるのと変わりない。
シリューは返り血さえ浴びていない。
200以上いた魔物の群れは、シリューに髪の毛程の傷も負わせる事が出来ないまま、最後の一頭まで全てただの素材と化した。
「お前……人間か……」
ランドルフが顔色を変えて呟く。
「……さあ? 自信がないな」
どちらかと言うと兵器っぽいのは確かだ。
「……まさか、たった1人相手にこいつを使う羽目になるとはな……」
ランドルフはモンストルムフラウトを、さっきよりも低い音域で鳴らした。
風が渦を巻き、砂塵が舞い上がる。
姿を現したのは、馬に似た漆黒の身体に燃えるような赤い目。額に長く尖った一本の角。
「ユニコーン……か?」
実際に見た事はないが、本に載っていた一角獣ユニコーンそっくりだ。ただ、ユニコーンは体色が白だった筈だが、今目の前にいるのは艶の無い闇色で、見るからに禍々しい雰囲気を漂わせている。
「こいつはモノケロース、グロムレパードより上のD級だ。凶暴な奴だからな、今度はお前が肉片になる番だぜ」
ランドルフは、いや肉も残らないか、と笑った。
「お前はまた見てるだけ、か?」
「ああ、俺は合理主義なんでな。ほら、お喋りしてる暇は無いぜ」
モノケロースの赤い目が鈍く光った。
直後。
十数発のエレクトロキューションが、まるで滝のように降り注ぐ。
「いったたっ」
シリューは躱しもせず、腕を頭上で交差させすべて受けて見せた。
モノケロースが僅かに動揺したように見える。
「今度はこっちだ!!」
シリューの頭上に光が輝き、唸りを上げ20のホーミングアローが放たれる。
モノケロースはその場から動かず、エレクトロキューションを壁の様に巡らせ、全ての鏃を撃ち落とす。
間髪を置かず、角を向けシリューに突進するモノケロース。シリューは右手の剣で辛うじて角を躱すが、モノケロースの体当たりを浴び、洞窟の壁へ叩きつけられる。
常人なら五体バラバラになる程の衝撃だ。
モノケロースはそのまま止まらず、壁に張り付くシリューにその長い角を突き立てんと、疾風の如く駆ける。
腹を貫かれる寸前、シリューは大きく横に飛びこれを躱した。
振り向くと、モノケロースが半分程も埋まった角を、周りの岩を砕きながら引き抜いたところだった。
「やばい、あれはマジでやばい……」
再びモノケロースの目がひかり、首を振って大きく開けた口から、青白い炎が噴き出される。
「くっフレアバレットっ」
ラグビーボール大の白い炎が、モノケロースの炎を相殺する。
「ガトリング!!」
大量の弾丸がモノケロースを狙う。モノケロースは右へ左へ上へ、残影をなびかせるスピードで動き、的を絞らせない。
視線では追えても、魔法は若干遅れてしまう。モノケロースのスピードに対して、その遅れは致命的だった。
「魔法は厳しいか……でもそれはお前も同じだぞ……」
静かに対峙する1人と1頭。
先に動いたのはモノケロースだった。首をふり、角をまるで剣のように横薙ぎに振るう。シリューは一歩下がり躱す。すかさず繰り出される突きを剣で逸らし切り上げる。
モノケロースは右に首を振り、前脚を蹴り上げる。角に気を取られていたシリューは反応が遅れ顎に蹄を喰らう。
「くっお返しだ!!」
のけぞり身体を反転させ、左拳をモノケロースの右頬へ叩きこむ。
よろけたように見えたモノケロースは、くるりと向きを変え、後ろ脚でシリューを掬い上げるように、天井へと弾き飛ばした。
「ぐっ、やばっ」
落ちて来るシリューに向かい、素早く跳躍したモノケロースの角が迫る。
通常なら、自由の利かない空中で逃れる術はない。だがシリューは翔駆を使い、軌道を変え、モノケロースの角を躱し、着地する。
「ガトリング!」
振り向きざまに掃射を掛ける。が、モノケロースは炎を吹き弾丸を一瞬で溶かしてゆく。
着地する前に、シリューは掃射を解除する。
モノケロースが着地した背後には、ミリアムたちがいたのだ。おそらく狙っての事だろう。
「なかなか、知能が高いな……」
決め手が無い。
それはモノケロースも感じているようだ。
前脚で地面を掻くような動作を見せる。
「イラついてるのか? まるで馬だな……馬? 待てよ、そうか」
シリューはモノケロースから目を逸らさず、大きく間合いを取った。
モノケロースも、シリューの意図が分かったのか、反対の方向へ距離を取る。
まるで西部劇のガンマンのように、洞窟の端と端にわかれて向き合う。
次の一撃で決める。
今度は、先に動いたのはシリューだった。
シリューの動きに合わせて、モノケロースが全速のギャロップで迫る。
“ 狙い通り! ”
一完歩、二完歩。そして、三完歩目。
右手前で走るモノケロースの、右脚が着地する瞬間、早撃クイックドローでほぼ同時に3発を発射。2発は右の蹄に、1発は着地するその地面を抉る。
2発の弾丸は、モノケロースの蹄に傷を付けた程度だったが、その着地点を僅かにずらした。ずれた先は、1発の弾丸によって抉られた場所で、着地した瞬間外側へ捻る形になった。
僅かなずれだったが、前脚一本に全体重の殆どが乗る瞬間を狙われたモノケロースは、大きくバランスを崩して倒れ、その速度のまま地面を転がる。
「はあああっっっ!」
シリューはすかさず跳躍し、天井を蹴って身を翻し、流星のようにモノケロースに迫る。
モノケロースがそれに気づき、角を向けようと首を起こす。
が、僅かに早く、シリューの剣がモノケロースの頭を貫く。
勝負は一瞬で決した。
モノケロースは断末魔の叫びさえあげず、頭を地面に縫い留められた形で息絶えた。
「気を付けてっ!!」
シリューが立ち上がった時、洞窟中にミリアムの声が響いた。
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