第7話 屋台のオマケとギルドの応接室

冒険者になって、2日目の朝。


長期滞在している安宿から、ギルドに向かう。


途中、屋台でホットドックを買って朝ごはんにする。



「お嬢さん、かわいいからオマケしておくよ!」



お金を払って、ホットドックを入れた紙包みを受け取る。


オマケって何をつけてくれたんだろう?


歩きながら紙をめくってみると、パンにウインナーが3本も挟んであった。


これは好意なのか、嫌がらせなのか……。


どうせならウィンナーを3本も入れずに、ホットドックとしての完成品を2個くれよ。




仕方なくウィンナーをもぐもぐ食べながら歩いていると、冒険者風の若い男が声をかけてきた。



「あのー、よかったら一緒にお茶でもしませんか?」



朝からナンパかよ?


っていうか、私が歩きながらウィンナーをもぐもぐしているのに、間が悪いと思わないのだろうかもぐもぐ。


ナンパ男は無視をしてもぐもぐ、今度は別の屋台でコーヒーを買うもぐもぐもぐ。



「あなたみたいな美人にコーヒーを飲んでもらえるなんて嬉しいです!オマケしておきますね!」



使い捨てのカップに入ったをコーヒー受け取る。


飲んでみる。


苦い。


異常に濃い。


通常の10倍くらい苦い。


……頼んでもいないのにコーヒー豆の量を増やしたな!


何なんだ、この仕打ちは!


この辺の人間はオマケがヘタか!!!




―ー―ー―




「キンバリーさん、おはようございます!」


「キンさん、昨日はお疲れさまでした!」


「キンバリーお嬢様、ごきげんうるわしゅうございます」



冒険者ギルドにやってきたら、昨日と全然雰囲気が違った。


私を仲間にしたいと言ってきてたやつらが次々と挨拶してくる。


どうやら私がAクラスの冒険者同士のケンカを止めたっていう噂がすでに広まってしまっているらしい。


まあ、いいか。


これから私が依頼をこなしていったら、ある程度実力は気付かれるんだろうし。



とりあえず、依頼受付の掲示板の方に向かう。


ミアはまだ来ていない。


代わりにイザベラが掲示板に紙を張り付けようとしていたところだった。


すぐ私に気が付いたようで、声をかけてきた。



「キンバリーさん!おはようございます。ちょっと応接室の方でお話しませんか?」


「えっと、友達と待ち合わせをしてるので」


「お友達が来られるまでで構いませんよ?お茶をお入れしますし、お茶菓子もお出ししますよ。あと、キンバリーさんが受けられそうな依頼も選別しておきましたから」


この女、グイグイ押してくるなぁ。


とりあえず、ミアが来るまでの間ならということで了承し、応接室に向かう。



「まず、冒険者証の更新をさせていただきたいのですが」


革張りでフカフカしたソファーに座ると、イザベラが話を切り出してきた。


「新人の冒険者証に記載されているスキル値は低めに表示されてることが多いんです。キンバリーさんの数値も明らかに低いので、それを修正させて頂きます。冒険者証をご提示頂けますか?」


「それって必ず更新してもらわないとダメですか?」


能力が低く表示されていることは分かっていた。


私は他の冒険者を押しのけてまで依頼を受けたいわけではない。


冒険者にとっては凶悪魔物を討伐することが華である。


討伐依頼はレベルが高い冒険者が選ばれる。だから、みんなはレベル上げに必死になる。


しかし、私は人が受けないような依頼を受けて、お金を稼ごうと思っていただけなので。


能力が高いと思われたらめんどくさそうなので、やめてほしい。


「一応、キンバリーさんはギルドに所属する冒険者ですので。そこは断れませんね」


―――むう、なら仕方ない


「あと、冒険者は名声が非常に重要です。大きな仕事をこなしたらそれだけ評価が高まります。冒険者評価、名声評価が上がるだけのことをされたので、そのポイントを加算させてもらいたいと……」


「いえ、私は特に何もしていないので」


これも断ろうとしたが、結局更新されることになった。



「あと可能ならで構わないんですが……。キンバリーさんはどんなスキルを持っておられるんですか?魔物遭遇回避と、毒耐性をお持ちだと言ってましたけど、他には……」


私はにっこり笑って答えた。


「他にスキルはありません。それだけです」


「……」


有無を言わせない私の空気に、さすがのイザベラもそれ以上は追及してこなかった。

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