第87話 旅の途中で雑談を
森を出てパストラー領へと向かって街道を進み……道半ばといった所で休憩所を見つけたシン達は、そこに立ち寄りヴィルトスを休ませる為の、食事をする為の休憩を取っていた。
ヴィルトスのための水を井戸からたっぷりと汲んで水飲み場に流し込み、手綱を外して自由にしてやって……のびのびと街道脇に広がる草原を駆け回り、そこに生えている草を食む姿を見やりながらの昼食。
森から持ってきた木の実がたっぷりと入った革袋を休憩所のテーブルにどんと置き、その中に手を突っ込んでの食事は、どんな木の実が掴めるのかと、たまたま掴んだ木の実は一体どんな味がするのかと、楽しみながら出来るもので……質素ながらも楽しいその食事をシンは、大いに楽しんでいた。
「……そう言えば人間達が旅をする時はどんな食料を持ち歩くんだ?
こんな草原だと木の実は手に入らないだろうし……手に入ったとしてもちょっとだけだろう?
……木の実以外の食いもんとなると、すぐに腐っちまうよな?」
クルミを革袋から取り出し、その爪でバキリと殻を割って中身をひっかき出しながら食べているロビンに、同じくナイフ片手にクルミを食べていたシンは「えーっと……」とそう言って頭を悩ませてから言葉を返す。
「旅の目的や、移動距離にもよるかな。
例えば干し肉とか干しパンとか……塩漬け肉とか塩漬け魚とか、それと木の実とか干しベリーとか……。
食べるのが大変だけどまず腐らないし……お酒やバター、お茶を好む人もいるかな」
「……はぁん、塩を使ったのが多いのか。
森の中だと岩塩は貴重品だからなぁ、保存食の為に使うってのは贅沢に思えちまうな」
「岩塩だけじゃなくて、海で作った塩も手に入るからね。
……確か南に行けば海があるって話だから、そっちに行けば、それこそこの革袋いっぱいの塩が簡単に手に入るんじゃないかな。
……そしてその塩で取りすぎちゃったお魚とかを保存食にするって感じだね」
「あー、なるほど、人間の領域には海に接する町があるのか。
海……海かぁ、北の山の中にもあるって話だが、行ったことはねぇなぁ」
「や、山の中に海が……?
それはなんていうか……凄い話だね」
「そうか?
海ってあれだろ、しょっぱい水の湖で、塩水じゃないと生きられない魚とか貝とかが住んでるあれだろ?
北の山の方には結構あるらしいぞ」
ロビンにそう言われて首を傾げたシンは、更に更に首を傾げて……山の中にある『海』がどうにも想像出来ず、想像することを諦める。
諦めて傾げていた首を戻して、殻から取り出したクルミを口の中に放り込み……その味を堪能しながら言葉を返す。
「……まぁ、うん、塩漬け以外の旅の食べ物ってなるとミートパイとかになるかな。
町に立ち寄ってミートパイを買って、食べながら次の町に行ってそこで新しいミートパイを買う。
一日ちょっとで行ける範囲に町がある場合はそうするらしいよ、しっかりと生地を厚くしてもらって、綺麗に包んで貰えば持ち歩くのも食べるのも楽だから、凄く良いってお父さんが言ってたかな……。
後は季節の果物を持ち歩くこともあるらしいけど……すぐに腐っちゃうし傷んじゃうし、干してあるやつの方が無難だよね」
「干すか塩漬けか……バターってことは油か。
油もなぁ、森の中では手に入りにくいからなぁ……森の連中が外に出るってのは、それだけで一苦労なのかもしれねぇなぁ」
「苦労するかもしれないけど、外の人と交流することで得られる物も多いと思うよ。
そうやって森には無いものを手に入れれば、生活がうんと楽になって、集落も発展するかもしれないし……行商人を受け入れるだけでも、かなり変わるんじゃないかな」
「なるほどな……。
なら今回の旅で、森に来てくれそうな行商人も探すとするかな……。
……まぁ、その前に、俺のこの風貌を受け入れてくれるのかって心配もしなきゃならんが……」
と、そう言ってロビンは、自らの手をじぃっと見つめる。
服を着た熊と言うべきか、熊そのものと言うべきか、獣人の中でも獣寄りのロビンの姿は、確かに人間達が住まう町の中では浮いてしまうことだろう。
「……まぁ、うん、少なくとも今から行く町の皆は受け入れてくれるはずだよ。
ウィル様は賢いお方だし……他の皆も良い人ばかりだから。
……むしろ心配なのはボクの方だよ。
大人になってウィル様に仕えられるようになってから会いに行くって話だったのに、それがこんなに早く会うことになるなんて……うぅん、もう帰ってきたのかと笑われなければ良いけど……」
バロニアの町から旅立って一ヶ月が経ったか経っていないか……。
季節が少し進んだ程度では大人になるも何も、背が伸びたのかも怪しい所だった。
そう悩んで暗い顔をするシンを見て、ロビンは声を上げて笑い……笑いを含んだ声をかけてくる。
「はっはっは。
本当にそいつらが良い人なら友達の帰還を素直に喜んでくれるはずだろうよ。
……まぁ、シンが仕えても良いって思うくらいの相手だってんなら、俺の風貌に関しても受け入れてくれるに違いないし……お互いにうだうだと心配するのは無しにしようや」
そう言って立ち上がり、出立の準備をし始めるロビン。
その姿を見やってこくりと頷いたシンは……革袋の口紐をしっかりと閉めながら、草原に寝そべるヴィルトスに「そろそろ行くよ!」とそんな声をかけるのだった。
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