第74話 魔法作成


 妖精の魔力は妖精だからこその……人よりも魂に近い存在だからこそのものである。


 それをそのまま、ただの人間であるシンが真似することは不可能に近かったが……それによく似た現象を、別の手段で起こせるのではないかと考えたシンは、ドルロの力を借りながら新しい魔法を頭の中で……己の世界の中で練り上げていく。


 魔力という特別な力は……この世界の素であり、世界を動かす力であり、何処にでもあるありふれたその力は、この世界に住まうものなら誰でも活用することの出来るものである。


 意識的に武器にまとわせることで凄まじいまでの威力の一撃を放てたり、無意識的に自らのうちに取り込むことで身体に活力をみなぎらせたり、魔力を練り上げることで魔法を扱えたり。


 己の中にある、まぶたを閉じた時に垣間見える世界の中で、魔力を集め、魔力を練り上げ、魔力に目的を与えることで魔法と成すのが魔法使いの技であり……どう魔力を練り上げるのか、どうやってどんな目的を与えるのかが魔法使いの腕の見せ所という訳だ。


 アヴィアナは理論の人だった。

 水はこういう物質であり、世界にはこういう法則が働いていて、だからこそこう命令をしてやれば、魔力は正しい結果を出せるだろうという、そういう魔法の使い方をする人だった。


 マーリンは感覚の人だった。

 その恐ろしいまでの直感と、大地の精霊を母から受け継いだ特別な目でもって、世界のあり方を感覚的に捉え『なんとなく』で魔力を練って、結果を出せるという、そういう魔法使いだった。


 未熟なシンにはそういった理論も感覚もなく……ただただ懸命に、必死に誰かの真似をしているだけという、そういう魔法使いだった。


 そもそもシンはまだ己の中の世界をはっきりと構築出来ておらず、己の世界のことをしっかりと見ることが出来ていないのだ。

 

 まぶたを閉じれば確かにそこに世界があるのが分かる。

 ぼんやりとしていて、捉えようがなくて、その色もその時々で変わってしまって、その世界がどうなっているのかを見ようとすればする程、霞がかって見えなくなってしまう。


 確かにそこに世界があるのに……その世界がどんな世界なのかを知ることが出来ていない。

 何年かけても、どれだけ苦労をしてもその世界を構築できないシンを見て、アヴィアナは才能がないと断じたのだった。


 それでもシンは、才能がなくても世界が構築出来ていなくても、ドルロと一緒ならば……目的のそれと近い姿をしたドルロが居ればきっと上手くいくはずだと、懸命に魔力を練っていく。


 理論でも感覚でもなく、理想の結果を求める、夢見る魔法使いとして。


 畑の側に立ち、生まれた時よりもかなり大きくなり、それなりに重くなったドルロを懸命に抱えながら、まぶたを閉じてそこにあるはずの世界を見ようとしながら、懸命に魔力をねっていく。


 するとドルロが突然、


「ミミーミミミミィー!」


 との声を上げる。


 それと同時にドルロの心が……シンの魔力で作り上げられたドルロの心が、シンの心と繋がって……不明瞭なシンの世界の中に小さなドルロがぽんと現れる。


 シンは自らの世界の中に立つその姿を見るなり驚愕し、動揺し、練っていた魔力を乱れさせてしまう。


 そもそもシンがドルロの力を借りたのは、ゴーレムを作る魔法に近いものを作り出そうと考えてのことであり……ドルロの魔力を感じながらであれば、考えた通りに魔力を練ることが出来るだろうと考えてのことであったのだが、それがまさかこんな結果に繋がってしまうとは。


 そんな風に驚きながらもシンが懸命に魔力を練ろうとしていると、世界に現れたドルロがトタタタッと駆け出して、不明瞭な、形も色も安定していなかった世界に足跡をつけていく。


 するとその足跡だけはくっきりと認識することが出来て、足跡の周囲の……草原のような地面もはっきりと認識することが出来て、そこで初めてシンは、己の世界の一端を知ることになる。


 爽やかな風が吹いていて、柔らかな草が揺れていて、大きなかぼちゃが実をつけていて、ガラス製の小さな家があって。


 その家の方へとドルロが駆けていって、ドルロがそうやって駆ける度に、足跡をつける度に世界がはっきりと形作られていって……小さなドルロが家の中へと入っていくと、その瞬間シンが練っていた魔力がしっかりとした形を成して、シンが望んでいた魔法の形が出来上がる。


 思いもしていなかった形で念願の世界を得てしまって、まさかの展開で魔法を作り上げてしまって……そうしてシンが驚愕し困惑する中、作り上げられた魔法が発動し……まぶたを開いた先にある、現実世界に影響を及ぼす。


 ロビンの小屋のすぐ近く、畑がある一帯の……まだ何も作物が植えられていない、土があるだけの畑の土が盛り上がり、ドルロほどはしっかりしていない、少々不細工な土人形が出来上がる。


 それはゴーレムようでゴーレムではなく、あと一歩ゴーレムに及ばないという、そんな出来の代物だったのだが、それでもシンの魔力を受けて歩きだし……周囲に漂う魔力や、ロビンが生活で出したゴミなどを自らの身体の中に取り込み始める。


 取り込んで土に馴染ませ、力に変えて……ゴミなども魔力を使うことで普通では考えられない早さで土へと変えて……十分に力に変えてから元いた場所へと、畑へと戻っていく。


 自ら動く土人形。

 力を取り込み、土へと……森へと還すゴーレムもどき。


 シンに妖精のように魔力を振りまくことは出来ないが、それに近い結果をもたらすだろうシンなりの最適解。


 後はこの土人形をシンの魔力が続くだけ……出来る限り毎日繰り返して10か20程を作ってやって自主的に力を回収させ、土に戻すということを繰り返していけば、かなりの力を森へと還すことが出来るだろう。


 シンが自らの力でやるよりも、自然の回復力に任せるよりもいくらか早くいけるだろうその光景を見たロビンは、シンとドルロに向けて一言。


「……ゴミは片付くし、土は活き活きとしているしすげぇにはすげぇんだけど……もう少しマシな見た目に出来なかったのか?

 土の化け物がゴミを食らう姿は、少し怖かったぞ」


 と、そんな感想を漏らすのだった。

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