第21話 騎士達の戦い


 煌めく光のバルト騎士団。


 大陸中に知れ渡るその二つ名は騎士達の戦い方に由来するものである。


 鍛え抜かれたその体と、あらゆる災厄と呪いを跳ね除けるという白鋼の防具と、その手にした武器に魔力を込めて……全身から魔力を放ち光を放ち、神話の世界の英雄達と見間違うかのような力を発する、バルト騎士団独特の戦い方から名付けられたのだ。


 その強さと光の強さは比例するものであり、騎士団最強のアーサーともなれば、たとえ夜であっても辺り一帯を真昼かのように明るく照らしてしまう程の光を放つ事で知られていた。


 そんなバルト騎士団と相対するは、数え切れぬほどの数、数え切れぬほどの種類の魔物達。


 オーガ、ゴブリン、オークなどなど……。


 一体どんな狂神がこれらを造形したのかと思う程に醜い姿をした、この世ならざる化け物達。


 一匹一匹は雑魚と言って良いそれらの魔物達も、平原を埋め尽くさん程の数ともなれば、そこに暮らす人々にとっては驚異であり、それらを殲滅する為、人々を守る為、眩しい程の光を放つアーサー達は平原を真っ直ぐに駆けていく。


 最初に魔物達の下へと至ったのは最前線を駆けていたアーサーだった。

 他の誰よりも早く魔物と接敵したアーサーは、光を放ちながら雄叫びを上げながら、その両手でしっかりと握った輝く剣を振るい降ろす。


 魔物の群れというよりも地面に叩きつけたかのようなそのアーサーの一撃は、強烈な光と撤回を砕くかのような衝撃音を響き渡らながら周囲の魔物達の命を奪っていく。


 ただの剣閃では無い、常識外の魔力を込めたその一撃は、まさしく大陸最強の英雄にふさわしい一撃だった。


 そうして再びの一撃を放たんと魔力を込めるアーサーを補助する形で、他の騎士達が魔物の群れへとそれぞれの武器での一撃を放っていく。


 超近距離から放たれる大弓の一撃は目の前の敵から奥果ての敵までを貫いて、全力でもって投擲された大斧は人間何人分かの巨躯を持つオーガを真っ二つにし、群れの中央に投げ込まれた大盾は回転しながら魔物達を次々に斬り裂き、大槍は強烈な魔法を放つための媒介となり、大鎌は熱波を放って魔物を焼き焦がし、いくつもの輪っかに分かたれた大鎖は縦横無尽に戦場を飛び回り魔物達の急所を砕いていく。


 そうかと思えば大鉄甲は両の手のそれを打ち付け合うことで傷を癒やす魔力の波動を放ってみたり、大鞭はうねりながら騎士達の身を守らんと結界を作り出したりと、攻撃だけではない所も見せる騎士達。


 常識外の強さであり、常識外の戦い方であり……それらは最強無比のバルトの騎士達にしか出来ない戦い方だった。


 しかしそんな騎士団であっても、平原を埋め尽くす魔物達を殲滅するというのはそう簡単なことでは無いようで……中々魔物の数を減らすことが出来ず、むしろ魔物達は時間が経てば経つほどにその数を増していってしまう。


 強烈な一撃を放ち、数多の魔物達を消し飛ばしても、そうやって出来た空間を塗りつぶすが如く次々と現れる魔物達。


 ただ群れを成すだけでは無く魔物達は、当然騎士達に向けてそれぞれの肉体を駆使した攻撃を放っていて……そうした攻撃を受けるなり回避するなりせざるを得ない騎士達は、その体力を少しずつではあるが削られていってしまう。


 そうやって繰り広げられる強烈無比な力と、圧倒的な数という暴力のぶつかり合い。


 その戦いは騎士達の魔力が尽きかけるその時まで続けられて……そうして騎士達の魔力と体力が尽き果ててしまうというその時―――アーサーが懐にしまっていた梟の頭を模した杖を取り出し、それを高らかに天に向けて突き立てる。


 すると騎士達の体を不思議な光が包み込み、その光が弾けるように空に向かって飛び立ち……そうして光達は戦いの前に騎士達が立っていた大防壁の歩廊へと降り注いでそこで弾けて雲散する光達。


 光が消え去った後には騎士達の姿があり……アーサーを騎士団長たらしめる、帰還魔法で大防壁へと帰って来た騎士達はその場に膝を付き荒く息を吐いて、新鮮な空気と魔力をその胸いっぱいに吸い上げる。


 騎士達の帰還を知って動き出したのが大防壁でその時を待っていた下級騎士や一般兵達だ。


 騎士団程の力を持たない彼らは大防壁に置かれた様々な兵器、武器を頼りに、平原に向かって矢だの石だのを撃ち放ち始める。


 騎士達の戦いの真っ只中には誤射を恐れて放つことが出来なかったその攻撃達は、平原を埋め尽くす魔物達へと次々に命中し、そうやって魔物達の数を減らしながら騎士達が力を回復する時間を稼ぐ下級騎士と一般兵達。


 大防壁の歩廊の上で騎士達はそうした様子をゆったりと眺めながら、それぞれの方法でその傷を、体力を、魔力を癒やしていって……次なる戦いに備えていく。



 バルトの大防壁を最大限に利用した、こうしたバルト騎士団達の戦い方は、たとえどんな魔物が相手でも、どれだけの数が相手でも打ち破られたことは無く、毎回毎回圧倒的な勝利を騎士達にもたらしていたのだが……今回の戦いではそう簡単にはいかないらしい。


 これだけの攻撃をしたというのに、これだけ必死に戦ったというのに、魔物の数が減った様子が全く、僅かも見受けられないのだ。


 今までの経験では考えられない、あり得ないことだと言ってもいいようなそんな状況に、アーサーを始めとした騎士達は、一体北方で何があったのだ、北方で何があってこれだけの魔物が生まれたのだと訝しがる。


 しかし、いくら考えた所で答えが出る訳でも無し。


 考えるだけ時間と体力の無駄だと、その謎を頭の中から振り払った騎士達は、味方達にこれから攻撃を始めるぞとの合図を送り、呼吸を整え、魔力を整え、再度平原へと降り立ち、戦いの中へと身を投じていく。


 

 

 大防壁の外でそんな戦いが繰り広げられている中、一人の少年と一つの泥の塊がバルトの中央街道を駆けていた。


 少年はがらがらと荷物いっぱいの荷車を引いて、泥の塊はその巨躯をどったどったと揺らしながら荷車を押して、北へ北へと向かって必死の形相で駆けていく。


 戦闘の音は大防壁に阻まれて、街の中に聞こえてはこないが……響き伝わってくる魔力の波動から、その大きさから激しい戦闘が行われているであろうことを察していた少年は、一刻も早くその場に駆けつけなければと、その力の全てを振り絞る。


「ね、寝坊しちゃったーー!

 た、戦いが始まる前に届けるつもりだったのにーーー!!」


「ミィィィ! ミィィィ!!」


 力を振り絞るついでにそんな声を振り絞った少年と泥の塊は、間に合ってくれと祈りながら、騎士達の下へと向かって駆け続けるのだった。

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