真面目に生きたいのにジョブ遊び人って…ホンマもんの遊び人やん！

第65話 最後の愛の告白

俺は、自分より格上のモンスターであるエリクサラマンダー2匹を相手に、左手を失いはしたが、魔法剣を駆使し、なんとか倒した。

しかし、まだまだピンチは続いている。まだ距離はあるが、別のエリクサラマンダーが近づいて来てるのが分かるのだ。

『今度は1匹…さっきよりマシか？』

しかし、そうではなかった。先程の2匹の転がってる死体を見て、今度のエリクサラマンダーは油断なく構えて来ている。

先程の2匹は、転がっている餌をただ食そうとしていたところを俺が不意をついたから、格下の俺でもアッサリと倒せたのだろう…

戦闘モードに入ったエリクサラマンダーは、俺がフェイントで動いても不用意に攻撃などせず、隙なく距離を保ったままこちらをじっと見据えている。

そのまま、向かい合ったままお互いに警戒をし合っていると、

『ギィイアアー！！ギィイアアー！！！』

と突然、上を向いて鳴き出したのだ。

『しまった！今のはさっきボスエリクサラマンダーの側で聞いた鳴き声と同じか？仲間を呼んだのか？』

俺は、上を向いて鳴いているエリクサラマンダーの首を切り裂こうと飛び込むが、その行動は読まれており、体を反転させ、その勢いのままその尻尾が襲い掛かってくる。

咄嗟に地べたに伏して避けるも、すぐ上を尻尾が

「ビュルン！」

と通る音に背筋が冷たくなった。

エリクサラマンダーは更に間髪開けず、噛みついて来ようとする。俺は必死で転がって避けた。

しかし、左手がないことで、思っているように上手く転がることが出来ずに、とうとう右足首を噛みつかれる。

『うぐぅがぁーー！！』

今度のエリクサラマンダーはこちらを警戒を解くことなく、俺の右足首を咀嚼している。

俺は痛みで気が狂いそうになりつつも、ポケットにしまっていた、エリクサラマンダーの尻尾を必死で食べる。それによって、また出血と痛みは消えていく。

だが、このままでは不味い！右足首が無くなったことで、素早い動きは出来なくなってしまった。

このままでは、エリクサラマンダーの餌になる未来しかない…

その時だ、俺の右足首を咀嚼していたエリクサラマンダーが突然吹き飛んだ。

『ダーリン大丈夫にゃ？吹き飛ばされた先でこいつらに囲まれてなかなか逃げるのに手間取ってしまったにゃ…

ダーリンが生きててくれて本当に良かったにゃ！』

ましろが戻って来てくれたのだ。

『ましろ！無事で良かった！！危ないところだったから、助かったよ。』

『ダーリン！？その足で歩けるにゃ…？』

ましろは俺の無くなった左手と右足首を見て、ショックを受けているようだ…

『ごめんにゃ…あんな攻撃なんて食らったばかりに、ダーリンの手と足がこんなことになってしまったにゃ…』

『ましろのせいじゃない！それにまだ生きてる！！

そして、ましろも戻ってくれた。

まだ何も諦める必要はないさ！』

俺は転がり杖の変わりになりそうな棒を取る。その棒を杖代わりにヘレンに近づく。

もう俺の絶技の効果は、とっくに切れている。俺はヘレンを起こそうと横に座ろうとしたが、慣れない杖のせいでヘレンの上へ転げてしまった。

しかし、幸か不幸か、ヘレンは咳き込みながら目を覚ました。そして、上に乗り掛かっている俺に気付き、気絶する前のやり取りを思い出したのだろう…

『アランさん？私たちどうなったんですか？どうやって生きて逃げれたんですか？』

俺が何とか起き上がり、ヘレンと距離を取ったところで、ヘレンは絶句する。

『ア、アランさん……！

その手足は…？そんな体になってまで私を守ってくれたのですね。。』

ヘレンは、俺の姿を見て涙を流し抱き締めてくる。

『ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい……。』

『ヘレンさん、今はまだ安全とは程遠い状況です。見ての通り、俺は体の自由が効きません。良かったら肩を貸して頂き、この場を早急に逃げたいのですが…

先程仲間を呼ばれたので、もうすぐここにエリクサラマンダーが集まって来ます。』

俺の言葉で、今の状況を掴めたヘレンは涙を拭き、直ぐに行動を始める。

『肩を貸すより、抱えた方が早いです！』

そういうと、ヘレンは俺を背中に背負い走り出した。

流石、高レベルの勇者…俺など軽々と持ち上げ駆けていく。このまま、どこまでも逃げられるのではないかと思えるほど、素晴らしい走りだった。

しかし、既に俺たちは檻の中に閉じ込められていることに気付いていなかった。

エリクサラマンダーたちは、リーダーの復活により、その統率された動きで俺たちの逃げる先を包囲し、後ろからもその包囲を徐々に狭めていっていた。

俺たちが、その異変に気付けたのは50匹を越えるエリクサラマンダーが目の前に広がってからだった。

『そんな…………！！』

ヘレンは、その待ち構えていたエリクサラマンダーの圧倒的な数に固まってしまう。

『ヘレンさん！来た道を戻りましょう！』

ヘレンは慌てて、引き返そうとするが、俺たちが来た方向からはさらに50匹ほどのエリクサラマンダーが囲むように近づいてきていた。

さらに、両横からも50匹づつのエリクサラマンダーが近づいてきている。

360度完全に囲まれた…

逃げ道は全くない。。

『ましろ、一点突破できそうか？』

『難しいにゃ…あれだけいると、1匹倒しても直ぐに囲まれるにゃ。。』

(正直何も手が思い浮かばない。。

この統率された動きは…

どれだけ知能が高いモンスターなんだ！？

どうすれば…どうする…？

駄目だ！何も思い浮かばない…)

俺が思考の迷路で迷っていると、エリクサラマンダーの集団から1匹のエリクサラマンダーがゆっくり前に出てきた。

他の個体より大きく、尻尾のないエリクサラマンダー。。

俺が尻尾を切り取ったエリクサラマンダーだ！

(この統率された動きはこいつのせいなのか？)

よく見たら、このエリクサラマンダー体表の色も他より黒みが強く、目が金色だ。

(稀少種か！？唯でさえ、俺より強いエリクサラマンダー200匹に囲まれ、さらに稀少種まで…

詰んだか…ごめんビアンカ。。)

『ヘレンさん、ましろ、可能なら俺を置いて何とか逃げて下さい！この状況から俺が助かる可能性は0です。それならせめて…囮に。。』

『アランさん！！！！』

今まで聞いたことないほど、大きく、悲痛な声でヘレンが叫ぶ。

『こんなときまで何を言ってるんですか？私が同じことをしようとした時、それでも私を見捨てなかったのは誰ですか？手や足を失っても私を守ってくれたのは誰ですか！？

私は最後まであなたを守ります。あなたを守りたいんです！

好きなんです…

…私はアランさんを愛してしまったんです！

私なんかと一緒では嫌かもしれませんけど、最後まであなたへの愛を貫いて死なせて下さい！？お願いします！！』

ヘレンの全てを込めた、最後の愛の告白が辺りに響く…

『ヘレンさん…』

俺は何て答えていいか分からなかった。しかし、その気持ちは嬉しかった。

『ヘレンさん、ありがとうございます。こんな俺なんかで良ければ、最後の時を迎えるまで一緒にいて下さい。』

これから迎えるだろう、逃れられない死を覚悟する2人だった。