26 好きな人のお兄さんの

「あら、莉子ちゃ〜ん! どうしたの!」夏生がカエルのぬいぐるみを抱いたまま、莉子に近寄る。返事をしない莉子。


「転んで頭打っちゃったのかしら」


(えっ、莉子。大丈夫か?)春樹パンダは莉子が背負っているリュックの中。


「莉子ちゃん、莉子ちゃん!」夏生が莉子の肩をゆする。「莉子ちゃ〜ん!」



「んん……夏生さん?」


「えっ?」


「夏生さん……どうしたの?」




 夏生の抱いているカエルのぬいぐるみがしゃべった。


「へええええええーーー??!!」絶叫する夏生。


「わあ、耳いたーい。夏生さん、大声出さないでくださいよー」カエルが顔を左右にブンブン振る。


「カカッ、カエルが……!」


「ふえっ?」


「カエルが……しゃべって……るッ……」夏生は震えている。


「莉子、お前カエルになったのか!」春樹パンダはリュックの中から叫んだ。


「ふえっ? カエル? アレ? 何で、私倒れてんの?」自分の体が倒れてるのが見えた莉子。もとい、莉子ガエル。


「ここここここんどはパンダがしゃべったッッッ……!」混乱する夏生。


「春樹しゃべっちゃダメでしょッ!」怒る莉子ガエル。


「お前がカエルになって喋っちゃってるからもういいだろ」


「カエルカエル何よ! 私はカエルになんて似てなーい!」


「莉子がカエルになってるの!」


「何ゆってんの。私がカエルになんて……。アレ、何で私、夏生さんに抱っこされてんの? 何で私が倒れてんのが見えるの……? 夏生さーん。私カエルじゃないですよね?」


「ぬいぐるみの声が聞こえるなんて……、私、疲れてるのかしら? ストレスかしら……」


 春樹パンダが叫ぶ。「夏生! カエルに鏡を見せてやってくれ!」


「えっ……? こう? パンダさん……」夏生は莉子ガエルに玄関に置いてある鏡を見せた。


 鏡をのぞく莉子ガエル。「ふえっ?」手足をパタパタさせる。「こ、これは……」


 好きな人のお兄さんのカエルになっちゃった。











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